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2センチ
しおりを挟む路地裏に二人は隠れた。それは追ってくる輩たちから身を潜める目的のはずだったが、互いの気持ちを感じ取っている者同士に訪れた神のイタズラにも思えるタイミングでもあった。
壁に手をつき、その腕の中にミライを包む。守らねばならぬ男を人目から隠すようにリッキーは表通りに背を向けた。走りすぎた息を整える間を待てず、荒い吐息の中リッキーはミライの目を見つめた。思わず心の声が音となって漏れる。
「ミライ、俺を癒してくれ……」
「リッキーさん……。そんなこと言われたらボクはもう」
(どうしていいのかわかりません)の言葉は音にできなかった。
涙があふれるミライ。いつもあんなに強気なリッキーの見せる弱さに、ミライの心は揺さぶられていた。低く甘い声は、初めて言葉を交わした夜を思い出させる。
あの時の感情に素直になるならば、自分がすべきことは分かっていた。リッキーの手が肩の近くに置かれていることも、そこから動かしたくても動かせない意志も感じていた。
触れたくて触れられないでいるリッキーを、ミライも触れられずにいる。心はとうに触れ合っていたのではないだろうか。指先ひとつ、肌とは言わず唇さえも触れられる近さなのにそれぞれをためらわせるものは何か。
先に目を伏せたのはミライだった。
そしてここで距離がゼロになれば、戻れないことを知っていたのはリッキーだった。
「俺はお前を、壊してしまうのか……?」
「ボクはそんなふうに求められたら、あなたを拒むことなんてできない」
それでも縮まらない二人の距離。
二人を探す足音が近く遠くに聞こえるのを感じながら、過ごした時間は60秒だろうか。90秒だろうか。
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