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第三章_魔族討伐

第17話:惨めな虚像

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 「侵入者を発見したぞーーー!」

 
 いや、発見っつーか、お前らのこと待ってたんだけど?

 さっきから同じようにフロアにやって来る魔族を、徐々に潰していくという地道な作業を行っていた。

 どうやら門の外の敵も、もう少しで全滅だそうだ。

 そーいや、フェンリルは活躍してるかな?


 「ロキ、お前が外にいるとき、フェンリルは何してた?」

 
 「あんま目立ってなかったな。あ、でも、なんか溜めてたような気がする。」


 「そ、そうか。」


 溜めてる?一体、何を?

 とりあえず、また軽く敵をひねり潰した。

 敵ながら、もう少し頑張ってほしい。


 「フェンリル。あの方はとんでもないぞ。精霊の中でもずば抜けてる。」


 「今でもひりつくような威圧を感じる。ルイセンが言うんだから、相当ヤバイんだろうな。」


 フェンリルと対峙したとき、絶対的敗北を確信した。

 異才に目覚めた俺でさえ、圧倒的な力の差を感じる。

 前にルーヴィングに聞いたことがあるのだが、妖精より位の高いものがいるらしい。

 精霊王だかなんだか言っていたが、詳しいことはルーヴィングも知らないらしい。

 この世界って、恐ろしいほど強い者がたくさんいるんだな、と改めて感じた。


 「お前らかい、好き勝手やってくれちゃってる、馬鹿な奴らっていうのは。」


 「お前らに言われたくねぇな。この森で好き勝手やってる馬鹿共は誰だ?」


 「あぁ?」


 どうやら精鋭が登場したようだね。

 さっきまでの奴らと、実力差が天地ほどある。

 当然、こいつの方が天だ。


 「口の聞き方には、少し気を付けた方がいいなぁ?」


 「それはこっちの台詞だってんだ。雑魚は黙っとけ。」


 二人の間では、バチバチと音が鳴りそうなほど、火花が散っていた。

 その場に居合わせたロキは可哀想だ。胃がキリキリと痛むほどの一触即発の緊張感が漂っている。


 「まったく、人間の相手をするのは大層疲れる。」

 
 「俺もだよ。どうやらお前と俺は、相性最悪みたいだな。」


 これだけ険悪な雰囲気は、王家の時でさえ感じなかった。

 沸々と殺意が沸くような、そんな嫌悪感。


 「そっちはお二人で戦われるんですか?」


 ナメているのか、わざわざおちょくるような敬語で話してくる。

 いちいち腹立つ奴だ。


 「いや、お前とは一対一たいまんでやる。じゃないと、気が済まない。」

 
 「ほう、それは光栄だな。」


 「名乗れ。俺はルイセンだ。」


 「俺は、ウィンヘルム。」


 ウィンヘルム。どっかの貴族みたいな名前だ。

 それに比べ、俺はどうだろう?元王家でもある俺の名は、ルイセンだ。

 しっくりどころか、はまりもしないじゃないか。


 「いいから、さっさとやろうぜ。」

 
 「相だな、前振りが長すぎた。」


 ウィンヘルムは、正面に飛び込んできた。

 ルイセンは、瞬時に膝で顔面を蹴った。

 ウィンヘルムは派手にそれを食らったが、すぐに反撃してきた。

 一発一発が重い攻撃で、悪くないのだが、いまいちスピードがないな。

 
 「それが本気かよ?拍子抜けだな、おい。」


 「なんだと?お前こそ、避けるのに必死で、俺に攻撃を当てられないんじゃないのか?」


 「すまないが、今すぐにでもお前を殺れる。」


 「やってみろ!」


 なんだよ、いちいち腹立つなぁ!

 ルイセンは、【全法・龍九鬼ぜんぽう・りゅうくき】を発動した。

 ウィンヘルムの体には、九つの龍と鬼の斬撃が激しく飛び交っていた。

 そして畳み掛けるように、弱った体にとどめを刺す。


 「【水法 荒河一集すいほう こうがいっしゅう】」


 炎の刀が水の刀に変わり、その名の通り、荒れた河の勢いが一点に集中するという技だ。

 ルイセンの水の刀から、飛沫しぶきが上がり、やいばの部分に集中した荒河の水流が、ウィンヘルムのくびを裂いた。

 ウィンヘルムの最後の顔は、後悔と驚愕、そして悲しみに溢れていた。

 ルイセンは消えかけているウィンヘルムの手を強く握った。


 ―こいつと俺は、似た者同士だったんだ―


 感じた苛立ちも、嫌悪感も、全ては似た者同士だったからだ。

 みじめな自分を見ているようで、腹が立ったんだ。

 あいつとは仲良くなれない。自分とは仲良くなれない。

 自分が大好きな人間なんて、わずか一握りの人間だけだろう。

 仲良くはなれないけど、


 ―嫌いにもなれない―


 ウィンヘルムは、もう消えた。いなくなった。

 ルイセンの中にいる不完全で弱い自分も、連れて消えていってくれたような気がする。

 じゃあな、ウィンヘルム。


 「凄かったな、言葉も出ねぇ。」


 ロキが称賛してくれた。

 だけど、なんだろう。嬉しくもなんともない。

 
 「この調子で戦うぞ。」


 「おう、いつでもついていくぜ。」


 こんなんで動揺してるようじゃ、まだまだだな。

 ウィンヘルムのことはもう忘れた。

 そうだ、もう過去のことだ。振り返るな。


 「生きの良いお魚が釣れたようだね。」

 
 「そうだな、フィンガー。二人とも旨そうだな。」


 熊のような怪物を連れた、黒に包まれた男がやって来た。

 男の回りには、何やら黒い何かがチラチラと飛び回っている。


 「魚扱いはしてほしくないな。俺は料理人だ。魚をさばく方なんでね。」


 「俺らは決して旨くない。よだれを垂らすのはやめろ!」


 どうやら、熊とロキ。フィンガーとルイセンという組み合わせになりそうだ。

 魔族の上層部って、フワフワした奴が多いんだな。
 

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