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目が覚めたら
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……どこか、遠いところでインターホンの音がした。
ぼんやりとした視界。見慣れた自分の部屋だ。
風邪をひいて高熱に魘されてから、ひたすら飲んだ清涼飲料水のペットボトルが散らばっている。
(何か通販してたっけ?ヤバイ。熱を出した前のことを何も思い出せない)
またピンポンとインターホンの音が聞こえて、私は慌ててベッドから起きた。
「お待たせしました」
モニターに映る人物をろくに確認もせずに、通話ボタンを押した。
「良かった、斉藤先輩。上妻です。差し入れ持って来ましたので、オートロック開けてください」
「え? 上妻君?」
ろくに働かない頭で、言われるがままにメインエントランスのセキュリティを解除して、のっそりと周りを見回した。
微熱の時に買い込んだ清涼飲料水が底をついたので差し入れは大変助かるが、色々と物が散乱しており、人様を招き入れる状況では、全くない。
しかし、無常にも玄関チャイムが鳴ってしまった。
洗濯物だけでも洗濯機に放り込んでおいて良かった。
深くため息をついて、私は玄関の鍵を開けるために廊下へ進んだ。
「先輩。まだ熱あるなら、これ飲んで寝ていてください。俺片付けますんで」
ゼリー飲料と清涼飲料水を渡すと、上妻君はスーツを脱いでワイシャツの袖を捲った。
上妻慶一。二十二歳。
さすが入社したての若者。ただでさえ爽やか顔なのに、腕まくりした姿がイケメンなんて思うのは、私、斉藤莉佳子がアラサーと呼ばれる世代に突入してしまったからに違いない。
「ん……ありがとう」
「はい。とっとと休んでくださいね」
にっこり笑う彼に甘えて、食事がわりのゼリー飲料を口の中に押し込んで再びベッドに潜った。
(……いい匂いがする。小刻みに聞こえる音と、魚を焼いてるにおい……?)
「おはようございます、先輩。気分はいかがですか?」
「……ん、だいぶ良くなったと思う……」
先ほどよりも頭はクリアになっている。顔を動かせば部屋もだいぶ片付けられていて、申し訳なくなった。
「良かった。食事、できますけど……その前に、汗流しに行かれますか?」
「うん……そうする……」
「はい。いってらっしゃい」
お言葉に甘えて、浴室へ入る。
三日ぶりのシャワーは、さすがに気持ちいい。
看護師の友人から、「熱が出た時はとにかく水分を摂って頓服薬飲んで、ひたすら寝ろ」と言われていたから、ちゃんと言われたことを聞いてる私、えらい。
髪を洗うのに両腕を上げるのが億劫だけど、頭もしっかりそそいで洗い残しがないようにせねば。ロン毛の面倒なところだけど、私の女性らしい唯一の部分なので大事にしてるんだよね。
しっかし、彼氏でもない異性が、自分の部屋にいるこの状況って……。
だんだん理性が戻ってきて、現実逃避をしたくなっている。
私、いつもの癖でタオルだけ脱衣所に持ってきたけど、下着どうしたっけ? パジャマは? あれ?
いつまでも浴室から出てこなかったら、それこそ心配してこの扉を開けられるんじゃ……。
それで、このアラサーの裸体を見て顰めっ面とかされたり?
「あ~喪女の想像力が豊かすぎて泣けてくるわ~」
思わずしゃがみ込んでしまう。
友達以上恋人未満な関係の人はいくらかいたけど、“彼氏”の存在がいたことのない私に、この局面を乗り越える術が思いつくはずがない。
あ~とめどなく流れるシャワーのお湯が、この情けない思いも一緒に洗い流してくれればいいのに。
「先輩、大丈夫ですか?」
「え? あ、う、うん!」
やっぱり呼ばれた。
籠って聞こえるから、どうやら脱衣所の向こう側から呼んでくれているらしい。
「ご飯、できてますよ!」
「うん! わかった。ありがとう」
タイムリミットのようだ。
(……仕方がない。覚悟を決めろ! 私!)
お湯を止めて、浴室の扉を開けた。
☆
「おいし~い!」
上妻君が作ってくれていたのは台湾粥だった。
具材がとにかく豪華で、焼鮭(さっきいい匂いしてたやつだ!)にエビ、ホタテ、干し椎茸、セロリ、生姜。それも、本格的に揚げエシャロットも入れたらしい。
「大学の時台湾料理屋で働いていて。俺、出汁とる係だったんですよ」
と、黄金のチキンスープから! ……とはいかないので、そこは市販の顆粒出汁なんだとか。そんなの全然気にしない!
「一人暮らしだと、こういう時に寂しくなるもんだけど、上妻君のおかげで気分上昇したよ! ありがとうね」
「斉藤先輩に早く戻ってきてほしいですからね」
(なんて可愛い後輩だ!)
ギュッと抱きしめたいが、それはセクハラになりそうだから止めよう。
パジャマ諸々は、案の定脱衣所に持ち込んでなかったので、バスタオルでからだを包んで、上妻君が後ろを向いている隙に寝室に滑り込んだ。
声を殺して笑っているのが聞こえたから、絶対気付かれたと思うけど。そこは仕方ない。慣れないことなんだもん。
上妻君と一緒に食べるご飯は、普段会社の食堂で食べるのとはまた違って、話す内容が仕事のことじゃないのもあって楽しかった。
「食後にどうぞ」ってプリンも買ってきてくれていて。それも一緒に食べた。
しっかり体力回復に努めるため、シンクの後片付けもしておくという上妻君に甘えて、私は寝室に戻った。
翌日は朝に気持ちよく目が覚めたので、窓を開けて篭っていた空気を入れ替える。溜まっていた洗濯物を選別するところから始めた。
冷蔵庫に入れてくれていた、上妻君お手製のお粥を温めて食べる。普段の朝はコーヒーを飲むだけだから、なんか優雅な気分。
ゴミもきちんと分別してそれぞれの袋に入れてくれていて、とても助かった。あれって、地味に面倒なんだよね。住んでいる地域がゴミの分別に厳しいから守っているけど。
窓の外は、私の気分と同じように真っ青な空が広がっていて、自然と深呼吸する。
タチの悪い夏風邪で。体調を崩したのは学生の時以来で、一人暮らししてからは初めてだったから、色々戸惑うこともあったけど、無事に調子が上がってきて良かった。
昨日上司である課長に連絡をしたら、有休消化も兼ねて週末まで休め、上妻を信じろと言われてしまったので、お言葉に甘えてしまった。明日から土日で連休だし。週明け頑張らなきゃ。上妻君に、何かお礼も考えないとね……。
とか考えていたら、その上妻君からショートメールが入っていた。
『週明けの会議に提出する、資料作成に手間取っていて、相談したいです』
やばい! いつも私が作っている、議事録に添付する資料のことだ。
課長は、プレゼン負け無しと凄いのに、悲しいかな資料作りが苦手なので、得意な私に回されるのだ。
そして今回は私の代わりに、上妻君に押し付けたらしい。
「課長が自分で作ればいいのに」
とか思っても、仕方がない。それが仕事だ。
お昼休みになったら、上妻君に電話してみようと、本日3回目の洗濯物を干すべく、彼に返信をした。
結果的に、電話では伝わらずうまくいかなかったので、再び彼が来ることになった。
断じて彼の作る夕食に釣られたわけではない。……決して。
「こんばんは。お邪魔します」
「いらっしゃい。お疲れ様」
一日仕事をした疲れなど一切見せずに、上妻君がニコッと笑う。それに癒されてる私は、実はもう、随分重症なのかもしれない。
「今日は、具沢山の煮込みうどんにしました」
「具沢山!」
「先輩のうち土鍋があるから、うどんもいいなって、昨日実は思ってまして……」
少し照れたようにいう彼が可愛い。
もう、なんなんだ? 上妻君が犬に見えるとか、妄想も酷い。
「野菜切って煮込めば出来上がりです」
と、昨日のようにワイシャツの袖ボタンを外すところから目が追いかけてしまう。
(……犬なの? イケメンなの? どっちなの?)
なんて、脳内でノリとツッコミを繰り返すのを一切表には出さずに、彼のノートパソコンを借りて、彼が作業していた資料の手直しを進める。
取り掛かれば、集中するのはあっという間だ。彼が作っていた表とさらにいくつかグラフを追加して、文章を齟齬がないように噛み砕く。前後の意味が繋がるように文章を入れ替え、専門用語だらけの文章を、もう少し専門部署以外の人にもわかるように置き換えた。
「できたわよ」
「ありがとうございます。こちらもできましたので、先に食事しましょうか」
返事をして、別名で保存する。
「今日は和風の味付けなのね。わっ! 肉団子入ってる~。嬉しい~! 美味しい~!」
「お口に合って何よりです」
ほんと料理うますぎる。今すぐうちに嫁に来てほしい。
食後は彼と並んでシンクに立つ。なんなんだ。この新婚さんみたいなシチュエーション。あ~エプロンあれば良かった……って、そもそも持ってなかったな、エプロン。
紅茶を淹れて、ノートパソコンのディスプレイにプレゼン資料の修正前と修正後を並べて比較しながら、説明する。
「ここはこう説明すると、初耳の人にでも話が通じるでしょ? 企画する人たちはパワポで説明してくれるからいいけど、じゃあ営業さんたちが対外的にこれを口頭で説明するとしたらどうしたらいいかってことを念頭におくことが大事だから……」
「はい、確かにそう教わりました。あーここも、文章変でしたね……」
「内容自体は、うまくまとめられているから、今後は、自分が説明することを念頭に作っていこうか。初めてのものを一人で作ったんだもん。えらいよ。ありがとう。お疲れ様」
「……先輩に褒められたかったから、すごく嬉しいです」
「昨日と今日のご飯のこともあるし、ほんと感謝だよ」
「本当に?」
シャットダウンしたノートパソコンを閉じて隣を向くと、そこには真剣な表情の上妻君。
「……お礼なら、こっちがいいです……」
ふっくらとしたものが、つぷんと触れる感触。
何が起こったのかわかっていない私に、
「……嫌ですか?」
と訊かれ、ううんと首を振ったら、もう一度。今度はしっかり押し付けられた。
「……んっ!」
角度を変え、くちびるが微かに触れる程度にまで外しては、何度も重なる。
「……今日も、先輩のプライベートスペースに入れてくれるくらいには……先輩、俺のこと好きですよね?」
初めての経験に脱力する私を抱き寄せる上妻君の、甘い声が私の耳を犯す。
「俺、先輩のこと好きなんです。好きじゃなきゃ、一人暮らしの女性の部屋に、見舞いには来ませんよ……」
風邪がうつると、言おうとした私のくちびるは、三度塞がれた。
☆
「……キス、気持ちいいですか?」
「うん……」
「良かった……。もっとキスしていい?」
「うん……」
酸欠になって、すでに息も絶え絶えな私は、上妻君が何か言っているけど、全然わからなかった。
気がついたら抱き上げられて寝室に運ばれて、自分のベッドに寝かされていた。
「……あれ?」
私が着ていた服は、どこに行ったのか? 着ていたカットソーとスカートは脱がされて、ブラとショーツ姿になっていた。
思わず起き上がり、服を探そうとする私を、上妻君が背中から抱きしめてきた。
「ヒェっ!」
「ダメですよ、先輩……。これからもっと気持ちいいことするんだから……」
耳朶を軽く食み、普段よりも低く掠れた声で囁かれて、腰がゾクゾクした。
彼のくちびるが背骨に沿って降りていき、ブラのホックを外す。
「あ……!」
ブラの肩紐もくちびるでなぞられた時に肩から外れた。隠すことのできなくなった胸が、緊張して震えているのがわかる。
「先輩の胸、綺麗ですね……美味しそう」
「あっ」
後ろから回された両手で、ふたつの乳房を包んでは弾ませ、揉まれて。その後も、両手は私のからだを撫で回してるし、くちびるは背中を縦横無尽に走っているし、彼の髪の毛が触れるたびにあちこちが擽ったい。
すでにツンと尖っている乳首に指でイタズラしては、片方の手が脚の付け根をサラッと撫でていく。
背中を、たまにチュッとわざと音を立ててキスされているのがわかる。
だんだんと、くちびるがウエスト周りに近づいてきた。
(……リップ音が腰から……? え? この下って……! 私、今日Tバッグだ!)
さすがにマズイでしょ! と、抵抗した。
……まあ、無理だったけど。
腕を引かれて仰向けになって、「どうぞ召し上がれ♪」な状態の胸に、彼が食いつかないはずはない。
「あぁっ……んぁ! あんっ」
あぁ……これ、どうして気持ちいいの!
左手は乳首を摘んでコリコリしてるし、右手は片方の乳房を揉んでるし。なんなら乳首は彼の口の中で転がされてる。
ちゅぱちゅぱなんて音、棒付き飴だけじゃないの?!
「先輩のおっぱいが可愛くて美味しいので、ずっとしゃぶっていたい……」
「だ、だめっ!」
ドクン、と胸が高鳴ったのは……。
顔を上げた上妻君が、真剣な表情なのにエッチで……。
Tバッグの狭い布じゃ、既に股が濡れまくっているの気づかれちゃうっ!
「だめですか?」
なんて伺いを立てるのは、おねだりする犬みたいで。もう……振り回されて、何も考えきれないっ!
「おっぱいがだめなら、こちらいただきますね」
と、私が止める前に、防御力が一切ないTバッグの間に指を入れてしまった。
「……ぁ……!」
「びしょ濡れですね……」
熱い膣中へ、するりと上妻君の指が入っていって。
「狭いですけど……先輩、初めてですか?」
(うぅ……こんなことでわかるの?)
言い逃れもできないと、顔を背けて。……頷いた。
「優しくします。……力を抜きましょうか」
そう言うと上妻君は、ゆっくりと指を抜き差し始めた。
クチュクチュといやらしい音が大きくなると、指の本数が増えて、その律動も激しくなっていく。
「ん……っは! ……あぁ……」
どうしよう。どうしよう。初めにあった異物感が、あっという間になくなって……! 私、タンポンも入れきれないのにっ! 上妻君の指が気持ちいいよぉ!
「あぅ……う、んっ! あ!」
「気持ちよさそうですね……もっと気持ちよくなりましょうね」
私の膝を大きく広げた上妻君が、するり、と股の間に滑り込んで、顔を埋める。
「――……!」
片手でTバッグのクロッチ部分をずらしつつ、最も敏感な芽を舌で舐められているのがわかった。
「はあっ……あぁ……!」
無理! もう無理! 上妻君が! 社内で人気なイケメンの後輩が! なんで私なんかの股舐めるのー!
中に入れられた指も、二本? 三本? そこって、そんなに広がるものなのっ?
赤ちゃんがそこから出てくるなんて、今のこの状況で冷静にツッコめるはずがない!
さっきから、一定の場所を何度も摩られて、ゾクゾクが止まらない。
「やあ……っも、無理、なっ……なんかくるっ……!」
「いいですよ。イってください」
「やっ! こわっ……あ、上妻く……んっ!」
「先輩……かわいい。俺に腕を回して?」
そう言われて腕を伸ばせば、からだを起こした上妻君が片手で抱き寄せてくれた。
てらてらと濡れているくちびるが、私が漏らしたやつだとわかって、キュッと股に力が入るけど、まだ中にいる指の動きを妨げられない。
「先輩の……味見させてあげますよ……」
喘いでいる私から呼吸を奪うような深いキスと、さらに激しさを増した膣の中の指が、私の知らない何かを呼び起こす。
「っんふ……ふっ……ん、っあ! やぁっ――!」
上妻君の舌が口内から抜けたタイミングで、顔を背けたときだった。
抱き寄せられたからだが、ビクビクッと跳ねて、痺れる。
まるで、陸に上げられた魚のようになるのを、のけぞって回避しようとする。けれど上妻君の腕が、それを許さない。
私は、初めて味わった快感の余韻が薄まるまで、上妻君の腕の中にただいるしかなかった。
「先輩可愛い……。好きですよ」
大きく胸を動かして息を吸っている私に、今度は軽いキスを何回もくれて。
私の膣の中に入れて、ふやけてしまった自分の指を一本ずつ丹念に舐めて、嬉しそうにしている。
「先輩病み上がりですからね……」
ベッドから降りた上妻君は、ホットタオルを作ってきてくれて、私の体を拭いてくれた。……Tバッグももちろん脱がされて、ガッツリ見られた。うぅ……。
シャワーを浴びてスッキリしたらしい上妻君に、背中から抱きしめられて眠る。
食材を買うついでに、コンビニで着替えも買ってきたらしい。クッ! 用意周到な……。
「先輩が完全回復したら、全力で抱きます……逃がしませんので、覚悟していてくださいね」
「お……お手柔らかにお願いします……」
逃げるなんて、できやしないじゃないか。隣の席なんだよ?
犬みたいなんて思ったのがまずかったのかもしれない。男はみんな狼って本当だったんだ……。
目が覚めたら、全て夢だったらいいのにと、私は願わずにいられなかった。
ぼんやりとした視界。見慣れた自分の部屋だ。
風邪をひいて高熱に魘されてから、ひたすら飲んだ清涼飲料水のペットボトルが散らばっている。
(何か通販してたっけ?ヤバイ。熱を出した前のことを何も思い出せない)
またピンポンとインターホンの音が聞こえて、私は慌ててベッドから起きた。
「お待たせしました」
モニターに映る人物をろくに確認もせずに、通話ボタンを押した。
「良かった、斉藤先輩。上妻です。差し入れ持って来ましたので、オートロック開けてください」
「え? 上妻君?」
ろくに働かない頭で、言われるがままにメインエントランスのセキュリティを解除して、のっそりと周りを見回した。
微熱の時に買い込んだ清涼飲料水が底をついたので差し入れは大変助かるが、色々と物が散乱しており、人様を招き入れる状況では、全くない。
しかし、無常にも玄関チャイムが鳴ってしまった。
洗濯物だけでも洗濯機に放り込んでおいて良かった。
深くため息をついて、私は玄関の鍵を開けるために廊下へ進んだ。
「先輩。まだ熱あるなら、これ飲んで寝ていてください。俺片付けますんで」
ゼリー飲料と清涼飲料水を渡すと、上妻君はスーツを脱いでワイシャツの袖を捲った。
上妻慶一。二十二歳。
さすが入社したての若者。ただでさえ爽やか顔なのに、腕まくりした姿がイケメンなんて思うのは、私、斉藤莉佳子がアラサーと呼ばれる世代に突入してしまったからに違いない。
「ん……ありがとう」
「はい。とっとと休んでくださいね」
にっこり笑う彼に甘えて、食事がわりのゼリー飲料を口の中に押し込んで再びベッドに潜った。
(……いい匂いがする。小刻みに聞こえる音と、魚を焼いてるにおい……?)
「おはようございます、先輩。気分はいかがですか?」
「……ん、だいぶ良くなったと思う……」
先ほどよりも頭はクリアになっている。顔を動かせば部屋もだいぶ片付けられていて、申し訳なくなった。
「良かった。食事、できますけど……その前に、汗流しに行かれますか?」
「うん……そうする……」
「はい。いってらっしゃい」
お言葉に甘えて、浴室へ入る。
三日ぶりのシャワーは、さすがに気持ちいい。
看護師の友人から、「熱が出た時はとにかく水分を摂って頓服薬飲んで、ひたすら寝ろ」と言われていたから、ちゃんと言われたことを聞いてる私、えらい。
髪を洗うのに両腕を上げるのが億劫だけど、頭もしっかりそそいで洗い残しがないようにせねば。ロン毛の面倒なところだけど、私の女性らしい唯一の部分なので大事にしてるんだよね。
しっかし、彼氏でもない異性が、自分の部屋にいるこの状況って……。
だんだん理性が戻ってきて、現実逃避をしたくなっている。
私、いつもの癖でタオルだけ脱衣所に持ってきたけど、下着どうしたっけ? パジャマは? あれ?
いつまでも浴室から出てこなかったら、それこそ心配してこの扉を開けられるんじゃ……。
それで、このアラサーの裸体を見て顰めっ面とかされたり?
「あ~喪女の想像力が豊かすぎて泣けてくるわ~」
思わずしゃがみ込んでしまう。
友達以上恋人未満な関係の人はいくらかいたけど、“彼氏”の存在がいたことのない私に、この局面を乗り越える術が思いつくはずがない。
あ~とめどなく流れるシャワーのお湯が、この情けない思いも一緒に洗い流してくれればいいのに。
「先輩、大丈夫ですか?」
「え? あ、う、うん!」
やっぱり呼ばれた。
籠って聞こえるから、どうやら脱衣所の向こう側から呼んでくれているらしい。
「ご飯、できてますよ!」
「うん! わかった。ありがとう」
タイムリミットのようだ。
(……仕方がない。覚悟を決めろ! 私!)
お湯を止めて、浴室の扉を開けた。
☆
「おいし~い!」
上妻君が作ってくれていたのは台湾粥だった。
具材がとにかく豪華で、焼鮭(さっきいい匂いしてたやつだ!)にエビ、ホタテ、干し椎茸、セロリ、生姜。それも、本格的に揚げエシャロットも入れたらしい。
「大学の時台湾料理屋で働いていて。俺、出汁とる係だったんですよ」
と、黄金のチキンスープから! ……とはいかないので、そこは市販の顆粒出汁なんだとか。そんなの全然気にしない!
「一人暮らしだと、こういう時に寂しくなるもんだけど、上妻君のおかげで気分上昇したよ! ありがとうね」
「斉藤先輩に早く戻ってきてほしいですからね」
(なんて可愛い後輩だ!)
ギュッと抱きしめたいが、それはセクハラになりそうだから止めよう。
パジャマ諸々は、案の定脱衣所に持ち込んでなかったので、バスタオルでからだを包んで、上妻君が後ろを向いている隙に寝室に滑り込んだ。
声を殺して笑っているのが聞こえたから、絶対気付かれたと思うけど。そこは仕方ない。慣れないことなんだもん。
上妻君と一緒に食べるご飯は、普段会社の食堂で食べるのとはまた違って、話す内容が仕事のことじゃないのもあって楽しかった。
「食後にどうぞ」ってプリンも買ってきてくれていて。それも一緒に食べた。
しっかり体力回復に努めるため、シンクの後片付けもしておくという上妻君に甘えて、私は寝室に戻った。
翌日は朝に気持ちよく目が覚めたので、窓を開けて篭っていた空気を入れ替える。溜まっていた洗濯物を選別するところから始めた。
冷蔵庫に入れてくれていた、上妻君お手製のお粥を温めて食べる。普段の朝はコーヒーを飲むだけだから、なんか優雅な気分。
ゴミもきちんと分別してそれぞれの袋に入れてくれていて、とても助かった。あれって、地味に面倒なんだよね。住んでいる地域がゴミの分別に厳しいから守っているけど。
窓の外は、私の気分と同じように真っ青な空が広がっていて、自然と深呼吸する。
タチの悪い夏風邪で。体調を崩したのは学生の時以来で、一人暮らししてからは初めてだったから、色々戸惑うこともあったけど、無事に調子が上がってきて良かった。
昨日上司である課長に連絡をしたら、有休消化も兼ねて週末まで休め、上妻を信じろと言われてしまったので、お言葉に甘えてしまった。明日から土日で連休だし。週明け頑張らなきゃ。上妻君に、何かお礼も考えないとね……。
とか考えていたら、その上妻君からショートメールが入っていた。
『週明けの会議に提出する、資料作成に手間取っていて、相談したいです』
やばい! いつも私が作っている、議事録に添付する資料のことだ。
課長は、プレゼン負け無しと凄いのに、悲しいかな資料作りが苦手なので、得意な私に回されるのだ。
そして今回は私の代わりに、上妻君に押し付けたらしい。
「課長が自分で作ればいいのに」
とか思っても、仕方がない。それが仕事だ。
お昼休みになったら、上妻君に電話してみようと、本日3回目の洗濯物を干すべく、彼に返信をした。
結果的に、電話では伝わらずうまくいかなかったので、再び彼が来ることになった。
断じて彼の作る夕食に釣られたわけではない。……決して。
「こんばんは。お邪魔します」
「いらっしゃい。お疲れ様」
一日仕事をした疲れなど一切見せずに、上妻君がニコッと笑う。それに癒されてる私は、実はもう、随分重症なのかもしれない。
「今日は、具沢山の煮込みうどんにしました」
「具沢山!」
「先輩のうち土鍋があるから、うどんもいいなって、昨日実は思ってまして……」
少し照れたようにいう彼が可愛い。
もう、なんなんだ? 上妻君が犬に見えるとか、妄想も酷い。
「野菜切って煮込めば出来上がりです」
と、昨日のようにワイシャツの袖ボタンを外すところから目が追いかけてしまう。
(……犬なの? イケメンなの? どっちなの?)
なんて、脳内でノリとツッコミを繰り返すのを一切表には出さずに、彼のノートパソコンを借りて、彼が作業していた資料の手直しを進める。
取り掛かれば、集中するのはあっという間だ。彼が作っていた表とさらにいくつかグラフを追加して、文章を齟齬がないように噛み砕く。前後の意味が繋がるように文章を入れ替え、専門用語だらけの文章を、もう少し専門部署以外の人にもわかるように置き換えた。
「できたわよ」
「ありがとうございます。こちらもできましたので、先に食事しましょうか」
返事をして、別名で保存する。
「今日は和風の味付けなのね。わっ! 肉団子入ってる~。嬉しい~! 美味しい~!」
「お口に合って何よりです」
ほんと料理うますぎる。今すぐうちに嫁に来てほしい。
食後は彼と並んでシンクに立つ。なんなんだ。この新婚さんみたいなシチュエーション。あ~エプロンあれば良かった……って、そもそも持ってなかったな、エプロン。
紅茶を淹れて、ノートパソコンのディスプレイにプレゼン資料の修正前と修正後を並べて比較しながら、説明する。
「ここはこう説明すると、初耳の人にでも話が通じるでしょ? 企画する人たちはパワポで説明してくれるからいいけど、じゃあ営業さんたちが対外的にこれを口頭で説明するとしたらどうしたらいいかってことを念頭におくことが大事だから……」
「はい、確かにそう教わりました。あーここも、文章変でしたね……」
「内容自体は、うまくまとめられているから、今後は、自分が説明することを念頭に作っていこうか。初めてのものを一人で作ったんだもん。えらいよ。ありがとう。お疲れ様」
「……先輩に褒められたかったから、すごく嬉しいです」
「昨日と今日のご飯のこともあるし、ほんと感謝だよ」
「本当に?」
シャットダウンしたノートパソコンを閉じて隣を向くと、そこには真剣な表情の上妻君。
「……お礼なら、こっちがいいです……」
ふっくらとしたものが、つぷんと触れる感触。
何が起こったのかわかっていない私に、
「……嫌ですか?」
と訊かれ、ううんと首を振ったら、もう一度。今度はしっかり押し付けられた。
「……んっ!」
角度を変え、くちびるが微かに触れる程度にまで外しては、何度も重なる。
「……今日も、先輩のプライベートスペースに入れてくれるくらいには……先輩、俺のこと好きですよね?」
初めての経験に脱力する私を抱き寄せる上妻君の、甘い声が私の耳を犯す。
「俺、先輩のこと好きなんです。好きじゃなきゃ、一人暮らしの女性の部屋に、見舞いには来ませんよ……」
風邪がうつると、言おうとした私のくちびるは、三度塞がれた。
☆
「……キス、気持ちいいですか?」
「うん……」
「良かった……。もっとキスしていい?」
「うん……」
酸欠になって、すでに息も絶え絶えな私は、上妻君が何か言っているけど、全然わからなかった。
気がついたら抱き上げられて寝室に運ばれて、自分のベッドに寝かされていた。
「……あれ?」
私が着ていた服は、どこに行ったのか? 着ていたカットソーとスカートは脱がされて、ブラとショーツ姿になっていた。
思わず起き上がり、服を探そうとする私を、上妻君が背中から抱きしめてきた。
「ヒェっ!」
「ダメですよ、先輩……。これからもっと気持ちいいことするんだから……」
耳朶を軽く食み、普段よりも低く掠れた声で囁かれて、腰がゾクゾクした。
彼のくちびるが背骨に沿って降りていき、ブラのホックを外す。
「あ……!」
ブラの肩紐もくちびるでなぞられた時に肩から外れた。隠すことのできなくなった胸が、緊張して震えているのがわかる。
「先輩の胸、綺麗ですね……美味しそう」
「あっ」
後ろから回された両手で、ふたつの乳房を包んでは弾ませ、揉まれて。その後も、両手は私のからだを撫で回してるし、くちびるは背中を縦横無尽に走っているし、彼の髪の毛が触れるたびにあちこちが擽ったい。
すでにツンと尖っている乳首に指でイタズラしては、片方の手が脚の付け根をサラッと撫でていく。
背中を、たまにチュッとわざと音を立ててキスされているのがわかる。
だんだんと、くちびるがウエスト周りに近づいてきた。
(……リップ音が腰から……? え? この下って……! 私、今日Tバッグだ!)
さすがにマズイでしょ! と、抵抗した。
……まあ、無理だったけど。
腕を引かれて仰向けになって、「どうぞ召し上がれ♪」な状態の胸に、彼が食いつかないはずはない。
「あぁっ……んぁ! あんっ」
あぁ……これ、どうして気持ちいいの!
左手は乳首を摘んでコリコリしてるし、右手は片方の乳房を揉んでるし。なんなら乳首は彼の口の中で転がされてる。
ちゅぱちゅぱなんて音、棒付き飴だけじゃないの?!
「先輩のおっぱいが可愛くて美味しいので、ずっとしゃぶっていたい……」
「だ、だめっ!」
ドクン、と胸が高鳴ったのは……。
顔を上げた上妻君が、真剣な表情なのにエッチで……。
Tバッグの狭い布じゃ、既に股が濡れまくっているの気づかれちゃうっ!
「だめですか?」
なんて伺いを立てるのは、おねだりする犬みたいで。もう……振り回されて、何も考えきれないっ!
「おっぱいがだめなら、こちらいただきますね」
と、私が止める前に、防御力が一切ないTバッグの間に指を入れてしまった。
「……ぁ……!」
「びしょ濡れですね……」
熱い膣中へ、するりと上妻君の指が入っていって。
「狭いですけど……先輩、初めてですか?」
(うぅ……こんなことでわかるの?)
言い逃れもできないと、顔を背けて。……頷いた。
「優しくします。……力を抜きましょうか」
そう言うと上妻君は、ゆっくりと指を抜き差し始めた。
クチュクチュといやらしい音が大きくなると、指の本数が増えて、その律動も激しくなっていく。
「ん……っは! ……あぁ……」
どうしよう。どうしよう。初めにあった異物感が、あっという間になくなって……! 私、タンポンも入れきれないのにっ! 上妻君の指が気持ちいいよぉ!
「あぅ……う、んっ! あ!」
「気持ちよさそうですね……もっと気持ちよくなりましょうね」
私の膝を大きく広げた上妻君が、するり、と股の間に滑り込んで、顔を埋める。
「――……!」
片手でTバッグのクロッチ部分をずらしつつ、最も敏感な芽を舌で舐められているのがわかった。
「はあっ……あぁ……!」
無理! もう無理! 上妻君が! 社内で人気なイケメンの後輩が! なんで私なんかの股舐めるのー!
中に入れられた指も、二本? 三本? そこって、そんなに広がるものなのっ?
赤ちゃんがそこから出てくるなんて、今のこの状況で冷静にツッコめるはずがない!
さっきから、一定の場所を何度も摩られて、ゾクゾクが止まらない。
「やあ……っも、無理、なっ……なんかくるっ……!」
「いいですよ。イってください」
「やっ! こわっ……あ、上妻く……んっ!」
「先輩……かわいい。俺に腕を回して?」
そう言われて腕を伸ばせば、からだを起こした上妻君が片手で抱き寄せてくれた。
てらてらと濡れているくちびるが、私が漏らしたやつだとわかって、キュッと股に力が入るけど、まだ中にいる指の動きを妨げられない。
「先輩の……味見させてあげますよ……」
喘いでいる私から呼吸を奪うような深いキスと、さらに激しさを増した膣の中の指が、私の知らない何かを呼び起こす。
「っんふ……ふっ……ん、っあ! やぁっ――!」
上妻君の舌が口内から抜けたタイミングで、顔を背けたときだった。
抱き寄せられたからだが、ビクビクッと跳ねて、痺れる。
まるで、陸に上げられた魚のようになるのを、のけぞって回避しようとする。けれど上妻君の腕が、それを許さない。
私は、初めて味わった快感の余韻が薄まるまで、上妻君の腕の中にただいるしかなかった。
「先輩可愛い……。好きですよ」
大きく胸を動かして息を吸っている私に、今度は軽いキスを何回もくれて。
私の膣の中に入れて、ふやけてしまった自分の指を一本ずつ丹念に舐めて、嬉しそうにしている。
「先輩病み上がりですからね……」
ベッドから降りた上妻君は、ホットタオルを作ってきてくれて、私の体を拭いてくれた。……Tバッグももちろん脱がされて、ガッツリ見られた。うぅ……。
シャワーを浴びてスッキリしたらしい上妻君に、背中から抱きしめられて眠る。
食材を買うついでに、コンビニで着替えも買ってきたらしい。クッ! 用意周到な……。
「先輩が完全回復したら、全力で抱きます……逃がしませんので、覚悟していてくださいね」
「お……お手柔らかにお願いします……」
逃げるなんて、できやしないじゃないか。隣の席なんだよ?
犬みたいなんて思ったのがまずかったのかもしれない。男はみんな狼って本当だったんだ……。
目が覚めたら、全て夢だったらいいのにと、私は願わずにいられなかった。
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