アラロワ おぼろ世界の学園譚

水本茱萸

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007 分水嶺のふたり

第45話 莫逆のふたり。

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「友達……」
「うん。そう。友達。普通に話すことのできる友達」

 この距離感のいびつさには覚えがある。姫姫先輩が八木さんや日吉さんと話している時の、不器用な自然さ。そして、ひとちゃんと初めて出会った時の、あの唐突な親密さ。どこか似ている。

「管理者同士で、仲良くなったりってないんですか?」
「実は前の世界では他の管理者オペレーターとの接点って、まったくって言っていいほどなかったの。こっちで何人かは会ってみたものの、みんな癖が強くてね」

 私は、知っている管理者たちの顔を思い浮かべた。なめた態度で世界を翻弄するような態度の九に、底知れぬ恐ろしさを感じさせるヨスミ。友達どころか、近寄りたくもない存在だった。

 それに比べてZは、人間味のある共感できる言葉を口にする。管理者という存在を疑ってきた私にとって、意外な出会いだった。

 コミュニケーション能力にけた物朗くんとは違う、勝手に誰かと仲良くなることが困難な幼さや可愛かわいらしさ、はにかみも感じる。それもまた、姫姫先輩とも違うタイプの性質。

「いいですよ、Zさん。私でよければ友達になっても」

 そう言い終わってから、相手が二歳上だということを思い出し、失礼な物言いをしてしまったと焦った。けれどZは気にする様子もなく、念願がかなったかのようにうれしそうな表情を見せた。

「ありがとう! るる、私のことは魅后みこでいいよ。是非そう呼んで」
「わかりました。魅后さん」
「じゃあ、ね」

 魅后さんが口にした言葉の意味がわからずに困惑していると、魅后さんが私の手を取った。突然の接触にづき、手を振りほどこうとしたが、魅后さんの指が予想外の力で私の手を締め付けてくる。

 つないだ手と手を包むように光が宿り始めた。光は一瞬、そこにとどまったかと思うと、私の腕を伝って全身を包み込んでいく。そしてあっという間に、跡形もなく消え去った。

「え? え? え?」

 私は混乱のあまり、同じ一音を繰り返すことしかできなくなった。私の狼狽ろうばいぶりを見かねたように、魅后さんは優しく微笑ほほえんで言葉をかけた。

「光を継ぐ……って書いて、光継こうけいって言うの。これでもし私に何かあっても、るるの記憶に残ることができる」
「記憶に……?」
「そうだよ。管理者オペレーターは何かあったら、ことになる。たとえであっても記憶には残らない。残るのは光継……光継者とも言うけれど、私の光を継いでくれた相手だけ」

 友達になったばかりの魅后さんに、自分がいなくなったあとの話を聞かされるとは、なんて寂しい話だろうか。

「光継を作ることができてよかった。ありがとう。お礼と言っちゃなんだけど、私の能力の一部を共有しといた」
「能力……ですか?」
「軽く目を閉じてくれるかな」

 私は素直に従って、まぶたを閉じた。そこには当然ながら、暗闇しかない。

「何も見えなければオーケー。見えなくても、るるの目の前に広がっているのはこの世界だよね」
「うん。もちろん」
「少し意識を上下左右、ゆっくり動かしてみて。眼球じゃなくて意識を。四方八方に意識を動かそうとしたら一箇所、するっと意識が変わる場所があると思う」

 言われた通り、左上から時計まわりに意識を巡らせる。

 意識が右下へと移動した時、不意に何かを通り抜けたような感覚が訪れ、びっくりした私は、思わず声を上げた。

「え?」

 皮膚をでる空気、感じる温度、耳に届く音のすべてが、瞬間、様相を変えた。その異質な感覚に怖くなって、慌てて意識を左上へ戻すと、途端に元通りの感覚になった。

 思わず目を開けて魅后さんの方を見ると、私の動揺を予想していたように、魅后さんは得意そうな様子で話し始めた。

「意識の別領域に、別の世界への出入り口が作られたの。目を閉じて意識を移動させて、目を開いたらそこは、今の世界から分岐した、より若い世界」
「はあ」

 冷静さを保つため息を吐き出したが、私の心は高鳴りを抑えられないほどたかぶっていた。とんでもないことが起きている。

 ついさっきまで、不思議なことには慣れっこだと思っていた。二つの世界だの、自覚者だの、管理者だの、そういった話にはうんざりしていたはずなのに。でも、今この瞬間に起きていることは次元が違う。自分の意思で世界を行き来できるだなんて、想像さえしていなかった。

「危険はないからね。ここと近い世界で、ほぼ何も変わらないから。じゃあ実際に移動してみよう」
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