邪神の恩返し

白南井 誰方

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第2章 魂の器 ウィリアム・セシス編 side Maria

23 二人

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 ワタシにとっては、路地裏で襲われたことは、本当に辛かった。でも、ビル君ーー邪神にとってはどうだろう?

 ワタシが気絶したから、教会に行かずに済んで、冒険者ギルドに行くことが出来て、ついでに言うと、しばらく持つだけの生活資金を得ることも出来た。これが全て邪神の描いたシナリオだとしたら。

 きっとビルくんは、女神アスティ様を救う為なら、ワタシのこともマシューのことも、自分自身でさえも冷酷に使い潰すんだ。ビルくんが守りたいのは、アスティ様だけだ。ワタシのことなんて、どうでも良いんだ。

 多分今、ワタシは冷静じゃない。

 ワタシの聖女様になりたいっていう願いも叶える気は無いんでしょ、どうせ。だって、ワタシは男になっていた。ビルくんだったら、ワタシを女の子として転生させることなんて造作もないはずなのに。

 冷静じゃない思考はリセットしなくちゃ。

 ベットに寝転んで見上げると、そこには暗い屋根裏。窓から射す夕日だけでは、そこに天井があるってことくらいしか分からない。

「はぁ……」

 信頼できるのは……マシューだけ。先生はもういないから。ふと、思い出したのは、夢で見た神様の姿。

「教会へ行こうかな」
(じゃあボクは念話を切るよ。ボクと繋がったままだと、教会の聖結界に弾かれちゃうからね。マリアちゃんが気絶していた時のことは、マシュー君に聞いてね。マシュー君、分かってるよね?)
(……分かってるっての)

 ビル君はチャンネルを切った。ワタシはビル君の案内で教会に向かいつつ、マシューに今までのことを聞いた。

(そこを右に曲がってくれ。何から話そうか……順番に話すが、俺はまず冒険者ギルドに行った。マリアは何日か経ったら戻ってくるってビルドが言っていたからな)

(ギルドに行ったのはマシューとして、それともマリアとして? またはウィリアムとして?)

(そういやこの体、ウィリアムとかいう名前だったな。『俺はマシューだ』って言っておいたよ。次の交差点は左だ)

(カードの名前を変えてもらうのはどうしたの? ちゃんとマリアってなってたけど)

(二重人格だって言ったら納得してくれたよ。伝え忘れていたんだが、そもそもこの名前変更できる機能って、名前の前に二つ名を入れたりとか、そういうちょっとした変更のためのものなんだと)

(ん? それがどうかしたの?)

(あー、……見りゃわかるよ)

 ギルドカードを出す。書いてあったのは、「マリア(男) rank  C」……。男……。

(あとはこのまま直進だぞ。一応掛け合ってみたんだが、で、ギルドマスターを引っ張り出すところまでは言ったんだが、残念ながらその変更は利かないってことだった)

 まあ、過ぎたことは仕方がないか。

(ギルドを出る前に教会の場所を聞いた。で、カーナって受付嬢が案内してくれてな、そこでお布施をしてきた。ほら、ついたぞ、ここだ)

 目の前には、頑丈そうな一階建ての建物があった。壁は茶色で、土に繊維質の草を混ぜ合わせた建材。剣と十字架のモチーフの描かれた扉を開けて中に入ると、中央には剣を掲げた青年の銅像が。

 ここ、ブレイブ教の教会じゃん!
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