邪神の恩返し

第2章 魂の器 ウィリアム・セシス編 side Maria

22 疑心

（ようやく目が覚めたか！）
「マシュー……？」

　ワタシがいない間、マシューが体を預かっていてくれたみたいだね。ここは……宿の個室？　窓からはまぶしい陽光が差し込んでいる。ってことは、あの忌まわしい事件から少なくとも一晩は経っちゃったんだろう。

　ワタシの処女からだは？　宿代はどうしたのかな？　そのほかにもたくさん聞かなくちゃいけないことがあるよ。

（ボクもすごく心配したんだよ？　３日間も、マリアが目覚めなかったんだから）
「３日も……路地裏で襲われてから何も憶えてない。今までに、何があったの？」

　答えたのは、ビル君だった。

（あの後、マシュー君がゴロツキを伸して自警団に付き出したら報奨金が手に入ったんだ。当分宿代の心配はいらないよ。教会はもう行ったけど、夕飯まではまだ全然時間もあるし、これから行こうか。あとはね……マシュー君見せてあげて）
（そこの鞄の中だ。見てみろよ）

　見慣れない鞄――ワタシが眠っている内に買ったんだろう――に入っていたのは、何の変哲もないギルドカードだった。銅色だから、Cランクのカード。名前は……マリア。

（マシュー君に、マリアの代わりに冒険者ギルドに行ってもらったんだよ）

　ワタシは悟った。ワタシが気絶する原因の男たちを差し向けたのは、ビル君だったんだって事に。

　だって、もし・・、ワタシがゴロツキに襲われなかったら。きっと、ワタシはその足で教会に行っていたと思う。神様の言うことを信じるなら、これは邪神にとってすごく都合の悪いことだったんだろうね。

　ワタシにとっては、路地裏で襲われたことは、本当に辛かった。でも、ビル君ーー邪神にとってはどうだろう？

　ワタシが気絶したから、教会に行かずに済んで、冒険者ギルドに行くことが出来て、ついでに言うと、しばらく持つだけの生活資金を得ることも出来た。これが全て邪神の描いたシナリオだとしたら。

　ビル君が自分の正体は邪神だと告白した時よりも、ビル君の罪おやごろしを知った時よりも、ビル君が怪物に思えた。