邪神の恩返し

白南井 誰方

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第2章 魂の器 ウィリアム・セシス編 side Maria

21 夢枕

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 ワタシは、さっきまで路地裏で悪漢に襲われていた筈。なのに今ワタシは真っ白い、何も無い空間に立っていた。

 いや、立っていると言って良いのか分からない。だって、この空間には、右も左も、地面も無いから。ちょうど、ワタシがビル君に閉じ込められていたみたいな……。ということは、ここはビル君の中?

「いや、違うよ。ここはヒルくんのじゃなくて、わたしの神界だよ。貴女に伝えたいことがあって、呼ばせてもらいました」

 全部夢オチっていう可能性は……無いよね。目の前の白い羽の生えた少女の存在感がそうさせるのかな。これは、特別な夢だって確信しているワタシがいる。

「わたしはAsteralcaアスティオルカ、神様だよ」
「もしかして、アスティ様……?!」
「地上ではそうやって呼ばれているね」

 ……そうだ、これは夢なんだ、そうに違いない。だからこの神様も、本物じゃないよね!

「ワタシはマリアです! 宜しくお願いします」
「……まあ、落ち着いてくれたならまあ良いか……」

 そういえば、心の中で言ったことは筒抜けになっちゃうのか。

「神様だからね! えっへん」

 そうそう、夢だから仕方ない。

 ヒル君ったら……と神様が呆れたようにつぶやいていた。ヒルっていうのは
、ビル君の前世の名前だったっけ。そんなことを目の前の少女が知っているのは、きっとこの少女がワタシの生み出した幻覚だから……な訳ないか。

 うん、いい加減諦めよう。これは本当のことなんだよね、多分。
 
「ところで、何で神様がワタシなんかの夢に?」

「大事なことを伝える為に。わたしがこれから言うことは、信じてくれても信じなくても、どっちでも良いよ。出来れば、信じて欲しいけど……」

 もちろん信じる! だって、神様の言葉だもん。

「……やっぱり、これを伝えるのはやめるよ」

「え?! ワタシ、何かいけませんでしたか?」

「ううん。ただ、今はその時じゃ無いってだけだよ。君がもっと神に近い存在になった時に、また伝えに来るよ」

 残念だなぁ。

「あ、でもこれだけ言わせてもらうね。あの街の冒険者ギルドには、関わらないで」

 え……? ビル君謹製の冒険者カードももうあるし、ギルドに行けば名前が変えられるのに。冒険者になれと言ったのはビル君だし、気づかない内にワタシもその気にさせられていた。まさかビル君がワタシを嵌めようとした? まさかな……。もしかして、神様がワタシを騙そうとしている……?

「……もう一度言うけど、わたしの言ったことが信じられないなら、信じなくても良いよ。ただ、どうか後悔だけはしないで」

ーー後悔、するよ?

 あの時のビル君の言葉が思い出される。

 聞きたいことがたくさんあるのに、神様は用はもう無いとばかりにばかりに話を切り上げようとしている。周りの景色もぼやけてきた。そっか、夢が覚めるんだ。

 ーーどうか、貴女の道に幸多からんことを。

 視界がホワイトアウトする。意識が浮上する。それなのにまだ、神様の残念そうな、それでいて心配そうな顔が目に焼き付いて離れなかった。
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