邪神の恩返し

白南井 誰方

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第2章 魂の器 ウィリアム・セシス編 side Maria

18 昔話

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(何にせよ、いつまでもこんな薄暗い路地にいるわけにはいかないだろう。痴話喧嘩はあとでやるとして、そろそろ話を戻そうぜ。)

 痴話喧嘩って!

(そうだね、話を戻そう! ……あぁ助かった……なんの話してたんだっけ?)

(ビルドの目的が何かって話だろ。いきなり殺されてよく分からないところに閉じ込められたと思ったら、俺たちだけこうやって現世に戻したっていうな。完全に二度手間だろ? それに何人殺したんだよお前。そこまでして叶えたいお前の目的は一体何なんだ)

 ちわ……ちわ……痴話喧嘩って全くもう、目的? ワタシとビル君が痴話喧嘩……。

(そうだったね。ボクの目的は、オルカちゃんの世界――つまりこの世界が消えないようにすることなんだ)

「ちわぁあ?!」
(はあぁぁ?!)



 さて、気をとり直して。

 話はボクが爬沼蛭だったところまでさかのぼるよ。爬沼蛭から生まれて傲慢にも爬沼蛭を名乗ったボクは、自分のしでかしたことの後始末をした後に自らを消滅させたはずだったんだ。

 でも爬沼蛭がオルカちゃんにお願いして、ボクをこの世界に転生させたんだ。オルカちゃんは『君は君の目的を見つけていいんだよ』って言ってくれた。オルカちゃんはこの世界を救うために、地球っていう異世界に旅立った。

 オルカちゃんに会ったのはその時が最初で最後だったけれど、その時に気づいたんだ。

 オルカちゃんには、消えかけていたボクほどの力しか残されていないってことに。

 ボクは悟った。オルカちゃんが、自分の命を代償に世界を救おうとしているってね。

 そんなの許さない。そんなに優しい君は永遠に生きるべきだ。



(質問していいか?)
(良いよ、答えられる範囲でだけど)

(十分だ。……まず、答える回数制限はあるか?)
(ぶはっ?! ケホッケホッ……。質問の答えはイエスだよ。何回でも質問して良いよ)

(答えるのは5回まで、とかもないよな?)
(や、あはははは、やっぱり、くふふふ、ト、トラウマになってるぅふくくくくく! もう、笑わせないでよ! 同じ手法を二度も使うなんて、ナンセンスな事しないって!)

 でもビル君、際限なく答えるとは、一言も言ってないんだよねぇ……。大丈夫かなぁマシュー……。

(こほん! ……気を取り直して、この世界はなぜ滅ぶ運命にあるんだ?)
(勇者召喚って知っているかい?)
(ああ、知っている。異世界から勇者を召喚する秘法だろ? アスティサマが授けたとかいう)

(その通り。正確に言えば、異世界というのは件の地球のことだよ。それを知っているならゲットワース王国は?)
(太古の昔、勇者召喚をアスティサマから授かった大国だろう。で、勇者の反感をかって、勇者に滅ぼされた)

(そうだよ。当時ゲットワース王国は年に20人のハイペースで、5年間に渡って勇者召喚の術を行使し続けた。オルカちゃん、つまりアスティ様に止められていたにも関わらず、ね)

「神様が止めようとしたのは、勇者がゲットワース王国を滅ぼすのを知っていたからなんだね」

(それもあるけど、本当のところはこの術に致命的な欠陥があったからなんだ)

 欠陥って何だろう。勇者召喚は使い魔召喚のすごいバージョンだよね。召喚魔法は魔界とこっちの世界を繋げる術。

 あと、そもそもの違和感として、ビル君はもともと異世界人なのになんでこっちで転生したんだろうって言う疑問。

 その他諸々を合わせて考えると、答えはこれかな?

「地球って言う世界と私たちの世界が繋がったままになっちゃうとか?」

(何で言っちゃうんだよマリアちゃん! “うみがめのスープ”にしようと思ったのに!)
「うん、なんかデビル君の考えがわかって来た気がするよ」
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