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第2章 魂の器 ウィリアム・セシス編 side Maria
15 検問
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「身分証をお願いします」
あー身分証かー……。この体の身分証かぁ~。ワタシもね、ビル君に散々からかわれたお陰で学んだことがあるんだ。とりあえず、心臓が飛び出るくらい動揺しているときは、まずニコニコ笑って現実逃避するんだ。
それにしてもこの門番、見た目はガチムキなのにとても言動が丁寧だね。
「貴女! 次はあなたの番ですよ! オレンジ髪の貴女、身分証をご提示願います!」
これがこの街のスタイルなら、さすが高い教養を売りとする街ってところだけど、ちょっと違和感。まあそんなこと言ったら今のワタシに言葉のブーメランが直撃するから、口には出さないけど。
「おい、身分証が無いのか?」
おおっと、一気に険悪な雰囲気になった。それとともに敬語タイムも終了のお知らせだね!
……身分証持ってないじゃん! マリアとしてのワタシは持っていたからすっかり忘れてたよ! どうするのコレ!
(スカートの左ポケットに偽装した冒険者カードが入ってるぞ)
本当だ。いつの間に、っていうか偽装って……。まあいいや。
「これが身分証です」
「ん? ウィリアム?」
「どうしたんですか?」
「……ちょっとこっちに来てもらおうか」
ええええ?!
(ちょっとデビル君、どういうこと?)
(そりゃマリア、身分証の名前が男の名前だったからだろ)
「ちょっとここで待ってろ。機材を取りに行ってくる」
「あ、はい」
腕を引っ張られて連れてこられたのは狭い部屋だった。
(で、なんて名前なの、この体?)
(ウィリアム・セシスだ)
(ワタシは男のウィリアムとして振舞った方がいいの?)
(どう振舞っても良いぞ)
「待たせたな、ウィリアム」
門番の人が戻ってきた。曲がりなりにも身分証を提示したから、ちょっとだけ態度は柔らかくなっていた。
「全然大丈夫です。こちらこそお手数をおかけしてすみません。ところで、ワタシは確かにウィリアムですけど、マリアって呼んで下さい」
ビル君の許しをもらったし、開き直ってマリアを名乗ることにする。
「ウィr」
「マリアです」
「……マリア、その身分証に偽装が無いか確かめさせてもらいたい。だから、この機械のカード挿入口に、魔力を通した身分証を通してくれ」
「分かりました」
カードの入りそうなところに差し込んだら、ウィーンと言いながら、身分証が吸い込まれていった。面白いなあ。そういえば、この冒険者カードって偽装なんだよね? 大丈夫だよね? ビル君の事だから、多分それもちゃんと判定されるように偽装されているよね?
(……マリア、逃げろ)
ええええ?! まさか偽物だってバレる?! 逃げなきゃ! でもどこに逃げれば……!
なんてあたふたしているうちに機械からピコン! と音がした。
「よし、このカードは本物だな」
え……? ちょっと、さっきの逃げろ、はどうしたの?
(くっ……引っかからなかったか)
それは、カードが検査に引っかからなかったって意味かな? それともワタシがビル君の言葉に引っかからなかったという舌打ちかな? なんだろう、むくむくと怒りが湧いてくるよ!
(うふふふ。あとで覚えてるんだよ?)
(おい、殺気漏れてるぞ。門番にまた疑われるぞ)
おっと、それはいけないね。
「殺気出しちゃってすみません」
「い、いえ。こちらこそ、お手数をおかけしました」
あ、敬語に戻った。
「いえ何でもありません。それではワタシはこれで」
「ところで、ここの冒険者ギルドにはカードの名前を変更するサービスもありますので、是非ご利用下さい」
「え、そうなの?!」
「ええ、つい最近、試験的に導入されたんです」
……これはビル君の差し金な気がする。
(はて? 何のことやら)
色々言いたいことはあるけど、まあいいや……。門番さんは、扉を開けた。その向こうには、商人、冒険者、学生。そして街の風景が広がっていた。
――ようこそ、学術の都バルジラへ!
あー身分証かー……。この体の身分証かぁ~。ワタシもね、ビル君に散々からかわれたお陰で学んだことがあるんだ。とりあえず、心臓が飛び出るくらい動揺しているときは、まずニコニコ笑って現実逃避するんだ。
それにしてもこの門番、見た目はガチムキなのにとても言動が丁寧だね。
「貴女! 次はあなたの番ですよ! オレンジ髪の貴女、身分証をご提示願います!」
これがこの街のスタイルなら、さすが高い教養を売りとする街ってところだけど、ちょっと違和感。まあそんなこと言ったら今のワタシに言葉のブーメランが直撃するから、口には出さないけど。
「おい、身分証が無いのか?」
おおっと、一気に険悪な雰囲気になった。それとともに敬語タイムも終了のお知らせだね!
……身分証持ってないじゃん! マリアとしてのワタシは持っていたからすっかり忘れてたよ! どうするのコレ!
(スカートの左ポケットに偽装した冒険者カードが入ってるぞ)
本当だ。いつの間に、っていうか偽装って……。まあいいや。
「これが身分証です」
「ん? ウィリアム?」
「どうしたんですか?」
「……ちょっとこっちに来てもらおうか」
ええええ?!
(ちょっとデビル君、どういうこと?)
(そりゃマリア、身分証の名前が男の名前だったからだろ)
「ちょっとここで待ってろ。機材を取りに行ってくる」
「あ、はい」
腕を引っ張られて連れてこられたのは狭い部屋だった。
(で、なんて名前なの、この体?)
(ウィリアム・セシスだ)
(ワタシは男のウィリアムとして振舞った方がいいの?)
(どう振舞っても良いぞ)
「待たせたな、ウィリアム」
門番の人が戻ってきた。曲がりなりにも身分証を提示したから、ちょっとだけ態度は柔らかくなっていた。
「全然大丈夫です。こちらこそお手数をおかけしてすみません。ところで、ワタシは確かにウィリアムですけど、マリアって呼んで下さい」
ビル君の許しをもらったし、開き直ってマリアを名乗ることにする。
「ウィr」
「マリアです」
「……マリア、その身分証に偽装が無いか確かめさせてもらいたい。だから、この機械のカード挿入口に、魔力を通した身分証を通してくれ」
「分かりました」
カードの入りそうなところに差し込んだら、ウィーンと言いながら、身分証が吸い込まれていった。面白いなあ。そういえば、この冒険者カードって偽装なんだよね? 大丈夫だよね? ビル君の事だから、多分それもちゃんと判定されるように偽装されているよね?
(……マリア、逃げろ)
ええええ?! まさか偽物だってバレる?! 逃げなきゃ! でもどこに逃げれば……!
なんてあたふたしているうちに機械からピコン! と音がした。
「よし、このカードは本物だな」
え……? ちょっと、さっきの逃げろ、はどうしたの?
(くっ……引っかからなかったか)
それは、カードが検査に引っかからなかったって意味かな? それともワタシがビル君の言葉に引っかからなかったという舌打ちかな? なんだろう、むくむくと怒りが湧いてくるよ!
(うふふふ。あとで覚えてるんだよ?)
(おい、殺気漏れてるぞ。門番にまた疑われるぞ)
おっと、それはいけないね。
「殺気出しちゃってすみません」
「い、いえ。こちらこそ、お手数をおかけしました」
あ、敬語に戻った。
「いえ何でもありません。それではワタシはこれで」
「ところで、ここの冒険者ギルドにはカードの名前を変更するサービスもありますので、是非ご利用下さい」
「え、そうなの?!」
「ええ、つい最近、試験的に導入されたんです」
……これはビル君の差し金な気がする。
(はて? 何のことやら)
色々言いたいことはあるけど、まあいいや……。門番さんは、扉を開けた。その向こうには、商人、冒険者、学生。そして街の風景が広がっていた。
――ようこそ、学術の都バルジラへ!
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