邪神の恩返し

白南井 誰方

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第1章 孤児 ビルド・ノーティス編

03 仲間

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「就職先はもう決まったのですか?」

 マリアの強制連行の後にお祈りが済んでから、トマス先生は俺にそう問いかけた。俺はその言葉に辟易した。何故って、マリアが独り立ちしたその直後から、俺は何度も何度もその言葉を言われ続けているからだ!

「仕事探しなんてするわけないだろ、俺は冒険者になるんだからな!」

 先生の問いに対する俺の答えはいつだってこれだった。そうして仕事を探そうともしない俺に、先生は決まってこう言った。

「なりません、そんな危険な仕事は」

 俺は知っていた。先生が執拗に俺を冒険者以外にさせようとするのは、俺の身を考えての事ではなく、冒険者という職を見下しているからだと。

 それだけでは無い。先生は、自身の教育のお陰で優秀な人材が輩出されたということをアピールしたかっただけだったのだ。

 つまりは先生の自尊心の為に俺を、孤児を利用しようとしているだけだったのだ。

 だから俺は先生を見限ることにした。

◾️

 俺は計画通り孤児院を抜け出し、冒険者登録をした。登録料が5000ディルも掛かったが、先生のへそくりをくすねてきたので足りた。さらにそのへそくり残額で片手剣と革の防具、更に投げナイフを買った。

 まずはどの依頼を受けようか。なるべく人の居ないところの依頼が理想的だがあまりにも人目がないと今度は非常事態で助けを呼べなくなってしまう。

 聞き込みをしてその情報を元に、依頼を一つに絞った。それは森の調査依頼だった。内容は、近くの森を見回り、その時にあったことを些細なことで良いので報告するとというものだった。

 その依頼はパーティ限定であったから、言い訳としても使えそうだ。俺よりも実力の下そうな女1男2の三人組を見つけたので、声を掛けた。

「俺は新人のビルドだ。良かったらパーティに入れてくれないか」

 三人とも戸惑って互いの目を見合わせた。俺は大層困った風に弱り切った風に「駄目か?」と言った。

「否、駄目ではないんだが、その……」

 パーティリーダーらしき青年が口を開いた。どう断ろうか考えているようだ。

 当然と言っては当然だが、パーティに全く知らない奴が乱入して来たんだからな。だが、このまま畳み込めば行けるだろう。

「ああ、言い忘れていたが、臨時パーティでも良いんだ。ただある割りの良さそうな依頼があって、受けようと思ったらパーティ依頼だったんだよ」

 譲歩した時、三人が密かに安堵の溜息をついたのを見て、俺は勝利を確信した。

「一人くらいなら……」「ーー割りが良いってーー」「前衛が増えればもっとーー」

 三人はコソコソと話し合っていたが、臨時パーティに概ね賛成する空気になっているのが、側から見てても分かりきっていた。少ししてから男が俺に話しかけた。

「俺はこのパーティのリーダーになるマシューだ。で、いくつか質問があるんだが」

「ああ、何でも聞いてくれ」

 彼らは俺の身元と得意武器を尋ねてきたので、ナルコトのノート村の出身であること、孤児であること、得意武器は投げナイフであることを伝えた。

 初めにどの依頼を受けるのかとかを聞いてこない辺り、こいつらに話しかけて正解だったなと思う。

「よし、臨時パーティなら、大歓迎だぜ! 正式なパーティの話なんだが、この依頼でお互いのバランスが良さそうだったら改めて考えさせてもらうぜ」

「ああ、それで充分だ。今日は宜しくな、マシュー、それと……」

「僕はグレイ。盾使いだよ」
「私はサナ。魔法が使えるんだよ!」
「改めて俺はマシュー。剣使いだぜ。宜しくな、ビルド」

 こうして俺は孤児院を飛び出し、冒険者になり、新しい仲間も出来たのだった。
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