12 / 61
第1章 孤児 ビルド・ノーティス編
01 転生 (新章)
しおりを挟む
同期のマリアがこの孤児院を自立してから一ヶ月経った。そして俺はトマス先生の魔の手から息を潜めていた。
「ビルド君! 何処ですか、出て来なさい! お祈りの時間ですよっ」
トマス先生が教会のあっちこっちを探し回っている。他でも無い、俺を見つける為に。
俺は先生を、屋根の上から思いっきり馬鹿にしていた。
ばっかじゃねーの、祈りなんてする意味分かんないぜ。その前の高等数学の授業は嫌々ながらも出たのだから、大目に見て欲しい。
確かに先生は勉強家で、一通りの学問を平たく学んでいる万能人間だ。その教養を見込まれて教会の長にまでなった。何でも知っている先生の事を俺の後輩学生たちは口を揃えて誉めていたし、俺も口に出さないだけで尊敬もしている。だが、祈りがどうの、アスティ様がどうの言ってくることだけは頂けない。
教会で孤児院はまだしも高等学校の真似事をしているのは、そんな付加価値をつけでもしないと、ここの領主に立ち退きを命じられてしまうからだ。
つまりこの街では、誰も神様なんか信じてないって事。
俺にとっては神様だって数学だって、ましてやアスティ様なんて必要ないのにな。
何故なら俺は、冒険者を目指しているからだ。
冒険者が魔獣から村を救っただとか、冒険者が災害級ドラゴンを討伐しただとか、そういう英雄譚はありふれている。幼心に憧れる少年は後を絶たない。
かく言う俺もその一人だった。
しかしこの孤児院の中では俺は少数派になる。何故なら、ここの主である先生が勇者、冒険者を目の敵にしているからだった。
というのも、昔はこの街にもアスティ教の教会がたくさんあったのに、冒険者に武勇を授けるブレイブ教にその地位を奪われたからだ。その過程には領主の扇動もあったという。
そうなった理由くらいなら俺だって想像つく。宗教で街は守れないからだ。そういうわけで今代の領主はアスティ教の教会を徹底的に排除し、生き残ったのは路地の奥のこの教会だけだった。
普段落ち着いている先生が感情的になるのも仕方がないことかもしれない。だがそれを俺たちに強要しないで欲しかった。
俺は冒険者になりたいんだ。
確かに冒険者という職業で身を立てるのは難しいと聞く。だけどここはもはや冒険者の街、バイギンだ。一流冒険者が多いだけでなく、育成にも力を入れていて、新人へのサポートも充実している。
俺だって自分なりに冒険者になる為に努力して来た。今でも知識量だけで言えば中堅に劣らないだろうし、体力も付けたし、同業者の荷物持ち位は容易いはずだ。
「あ~?! こんな所に居た! せんせー、ビル君居ましたよ! 待機お願いします!」
「げっなんでここに居るんだマリア?! というかここ屋根の上えええ?!」
素早い手際で屋根から突き落とされ、受け身を取る間も無く首根っこをがしっと捕まれた。
「ておい止せ、引き摺るなやめろ!」
「はーい1名様ごあんな~い!」
全力で抗っても何故かぐいぐい引っ張られる。こんの怪力女め!
「ビルド君! 何処ですか、出て来なさい! お祈りの時間ですよっ」
トマス先生が教会のあっちこっちを探し回っている。他でも無い、俺を見つける為に。
俺は先生を、屋根の上から思いっきり馬鹿にしていた。
ばっかじゃねーの、祈りなんてする意味分かんないぜ。その前の高等数学の授業は嫌々ながらも出たのだから、大目に見て欲しい。
確かに先生は勉強家で、一通りの学問を平たく学んでいる万能人間だ。その教養を見込まれて教会の長にまでなった。何でも知っている先生の事を俺の後輩学生たちは口を揃えて誉めていたし、俺も口に出さないだけで尊敬もしている。だが、祈りがどうの、アスティ様がどうの言ってくることだけは頂けない。
教会で孤児院はまだしも高等学校の真似事をしているのは、そんな付加価値をつけでもしないと、ここの領主に立ち退きを命じられてしまうからだ。
つまりこの街では、誰も神様なんか信じてないって事。
俺にとっては神様だって数学だって、ましてやアスティ様なんて必要ないのにな。
何故なら俺は、冒険者を目指しているからだ。
冒険者が魔獣から村を救っただとか、冒険者が災害級ドラゴンを討伐しただとか、そういう英雄譚はありふれている。幼心に憧れる少年は後を絶たない。
かく言う俺もその一人だった。
しかしこの孤児院の中では俺は少数派になる。何故なら、ここの主である先生が勇者、冒険者を目の敵にしているからだった。
というのも、昔はこの街にもアスティ教の教会がたくさんあったのに、冒険者に武勇を授けるブレイブ教にその地位を奪われたからだ。その過程には領主の扇動もあったという。
そうなった理由くらいなら俺だって想像つく。宗教で街は守れないからだ。そういうわけで今代の領主はアスティ教の教会を徹底的に排除し、生き残ったのは路地の奥のこの教会だけだった。
普段落ち着いている先生が感情的になるのも仕方がないことかもしれない。だがそれを俺たちに強要しないで欲しかった。
俺は冒険者になりたいんだ。
確かに冒険者という職業で身を立てるのは難しいと聞く。だけどここはもはや冒険者の街、バイギンだ。一流冒険者が多いだけでなく、育成にも力を入れていて、新人へのサポートも充実している。
俺だって自分なりに冒険者になる為に努力して来た。今でも知識量だけで言えば中堅に劣らないだろうし、体力も付けたし、同業者の荷物持ち位は容易いはずだ。
「あ~?! こんな所に居た! せんせー、ビル君居ましたよ! 待機お願いします!」
「げっなんでここに居るんだマリア?! というかここ屋根の上えええ?!」
素早い手際で屋根から突き落とされ、受け身を取る間も無く首根っこをがしっと捕まれた。
「ておい止せ、引き摺るなやめろ!」
「はーい1名様ごあんな~い!」
全力で抗っても何故かぐいぐい引っ張られる。こんの怪力女め!
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる