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第0章 破壊神 爬沼蛭(はぬま ひる)編
羨望
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深夜、家の地下、拷問室よりもさらに深い所に作った隠し部屋。研究室。薄暗い中に、ボクそっくりの人形が水槽に漂っている。あの絶望から早一年、眠れもしないしやることも無いので、ここ一ヶ月は夜の間はずっとこうして居た。
やることが無いということは恐ろしいことで、ボクは、あの絶望を思い出してしまう。
ボクは爬沼蛭じゃなかった。爬沼蛭がボクを封印しようとしたのは、父親そのものだった人で無しを忌み嫌ったからなんだって気づいてしまった。その事実を一年前のあの時、思い知ってしまった。
すぐに体を返さなくちゃと思ったけれど、出来なかった。ボクの影響か、この体は変質してしまっていて、同じなのは外見ばかりとなってしまったからだ。なんせ、食べ物の味が分からないし、目を瞑っても眠れないのだから。多分、食べ物を摂る必要もないと思う。そしてなんとなく分かるんだけど、この体は成長せず、永遠に生き続けるのだ。
もし体を返せたとしても、爬沼蛭はこんな体を望んでいないはずだ。だから、爬沼蛭のクローンを作って、それに爬沼蛭の魂を移植することにした。
爬沼蛭の髪の毛はいとも簡単に手に入った。足りない科学力は魔術で補って、クローンを生み出すと言う難題はあっさりと解決した。
クローンが育つまでの空白で爬沼蛭が行方不明扱いになってしまったら、せっかくクローンを作っても爬沼蛭が普通の生活を送れなくなってしまうので、ボクは爬沼蛭を演じ続けていた。
それもそろそろ終わりだ。クローンが順調に成長して、ほぼ百パーセント無事成熟するだろう事がわかったからだ。
クローンの中に、爬沼蛭の魂ーー記憶、経験の履歴と言い換えても良いだろうーーを入れ、クローンに魂が定着するのを待つ。
その合間にボクの根源を調べた。ボクの魂は明らかに人間の物ではなかったからだ。そして、この世界にボクの居場所は最初から無かったということが分かった。
研究は全て終わった。
遅かれ早かれボクの居場所を奪うであろうクローンを、何をするでもなく眺める位しかやることが無くなった。
時計を見ると午前三時ほどだった。いつの間にか結構時間が経っていた様だ。
"爬沼蛭は常に笑っていなければならない"
目を瞑り頭の中でそう唱え、頬を両側からパチンと叩く。そうしてゆっくりと目を開ける。
「よーし、今日も学校頑張りましょう!」
今からボクは、クラスのマスコットアイドルだ。
幸い、ボクが爬沼蛭ではないことに、今のところ誰も気づいていない。だから。
ーーだから、誰かがボクに気づいてくれたら良いのになんて、考えてはいけないんだ。
やることが無いということは恐ろしいことで、ボクは、あの絶望を思い出してしまう。
ボクは爬沼蛭じゃなかった。爬沼蛭がボクを封印しようとしたのは、父親そのものだった人で無しを忌み嫌ったからなんだって気づいてしまった。その事実を一年前のあの時、思い知ってしまった。
すぐに体を返さなくちゃと思ったけれど、出来なかった。ボクの影響か、この体は変質してしまっていて、同じなのは外見ばかりとなってしまったからだ。なんせ、食べ物の味が分からないし、目を瞑っても眠れないのだから。多分、食べ物を摂る必要もないと思う。そしてなんとなく分かるんだけど、この体は成長せず、永遠に生き続けるのだ。
もし体を返せたとしても、爬沼蛭はこんな体を望んでいないはずだ。だから、爬沼蛭のクローンを作って、それに爬沼蛭の魂を移植することにした。
爬沼蛭の髪の毛はいとも簡単に手に入った。足りない科学力は魔術で補って、クローンを生み出すと言う難題はあっさりと解決した。
クローンが育つまでの空白で爬沼蛭が行方不明扱いになってしまったら、せっかくクローンを作っても爬沼蛭が普通の生活を送れなくなってしまうので、ボクは爬沼蛭を演じ続けていた。
それもそろそろ終わりだ。クローンが順調に成長して、ほぼ百パーセント無事成熟するだろう事がわかったからだ。
クローンの中に、爬沼蛭の魂ーー記憶、経験の履歴と言い換えても良いだろうーーを入れ、クローンに魂が定着するのを待つ。
その合間にボクの根源を調べた。ボクの魂は明らかに人間の物ではなかったからだ。そして、この世界にボクの居場所は最初から無かったということが分かった。
研究は全て終わった。
遅かれ早かれボクの居場所を奪うであろうクローンを、何をするでもなく眺める位しかやることが無くなった。
時計を見ると午前三時ほどだった。いつの間にか結構時間が経っていた様だ。
"爬沼蛭は常に笑っていなければならない"
目を瞑り頭の中でそう唱え、頬を両側からパチンと叩く。そうしてゆっくりと目を開ける。
「よーし、今日も学校頑張りましょう!」
今からボクは、クラスのマスコットアイドルだ。
幸い、ボクが爬沼蛭ではないことに、今のところ誰も気づいていない。だから。
ーーだから、誰かがボクに気づいてくれたら良いのになんて、考えてはいけないんだ。
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