邪神の恩返し

白南井 誰方

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第3章 マリア・ダ・ネーク編 side Matthew

33 煩悩 【R15】

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 マリアに支えられて、顔面真っ青なボースはフラフラと立ち上がった。そんなボースを横抱きすると、ボースは両手で俺の体を押して抵抗しようとした。その力はとても弱かった。

「暴れるなよ? 危ないからな」
「降ろ……せよ、自分で歩、けるって」
「病人が何言ってんだよ」
「でも……迷惑だろ」
「立つのもやっとな状態で歩かれる方が迷惑だ。それよりちゃんと俺の肩に手を回してくれ。じゃないと運びにくい」
「~!」

 ボースはこれ以上足手まといにはなりたくないと思ったのだろう、少しの葛藤の末、意を決して俺に抱き着いた。

「じゃあなマリア、この穴を抜けたあとは俺たちの宿で落ち合おう。対処不能な事態が起こった場合は、念話しろよ」


俺はさっそく自分用の《ウィンドコントロール》を張り、ボースに負担をかけないように首を支えつつ先を急ぐ。

 本来ならば、どこかも分からない洞窟内で二手に分かれるようなことは下策だ。しかし、俺たちにとってはそうではない。何故なら俺たちは強いからだ。

 マリアだって暇さえあれば新しい神術を習得しているようだから、足手まといを抱えた状態でも獣人の一匹や二匹撃退してもらわないと困る。最悪結界に閉じこもって隠れててくれれば俺が助けに行けるしな。

「おいボース、もぞもぞ動くな、落ちたら危ないだろうが」
「う、ごめん」

 それにしてもボース、さっきまで真っ青な顔してたのに血色が戻ってきたな。ていうか顔赤すぎじゃないか?

「その、これ、恥ずかしい、んだけど……おんぶに、して」
「ん? ただの横抱きだろうが」

 まぁ、俗に言うお姫様だっこってやつだな。ボースはおんぶを所望のようだったが、それだと首が支えられず痛める可能性があった。

「ったく、まだ・・男子なんだから恥ずかしがることも無いだろうが」

 まだ、と言ったのは、真人族は雄性先熟という性質があるからだ。生まれた時は男性だが、第二次性徴中に体が女性に変化するのだ。

 アスティ教会の神話にはしん人族という『美少年と美女しかいない人族』が登場するのだと、以前マリアが言っていた。太古には、普人族と真人族の間には少なからず交流があったのだろうが、現在残っているものと言えば、絶滅した(と思われている)神人族の伝説のみである。その伝説からインスピレーションを受けたのか知らないが、少年と巨乳美女のアレコレが描かれた絵画ポルノグラフィーやら文芸官能小説やらが、とある層・・・・に絶大な人気があるらしいとも。それはともかくとして。

 つまりこいつは、将来的に巨乳の女に、

「うひゃん! 変なとこ触んなよ、ばかっ」

 ……。



 いやいやいやいやいやいやいやいや、無い無い。いくら成熟が早くたって、さすがにまだ雄性体のはずだろ!

 そうだ、今は、ボースを安全な所に移動させることが最優先事項なんだからな。お姫様抱っこで男の尻を触ってしまったとしてもそこにやましい意味は全く無い!

……。

「おいボース、やっぱ背中に背負うから、一回降りろ」











 こうやって、好意を寄せてくれる奴らがいる。マリア然り、ボースもまた然りだ。でも■■はそれに応えるどころか、ひどい裏切りをしてしまったんだ。
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