邪神の恩返し

白南井 誰方

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第3章 マリア・ダ・ネーク編 side Matthew

ヒ/ル

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「これ以上何も失わずに済む。お前はただそれだけ分かっていれば良い」

 ボク・・はセルシウスにそう言った。感動しているセルシウスを見ることは、とても気持ちが良かった。おっと、油断しちゃだめだ。

 奴に言われたテストを、ボクは受けることにした。テストの内容は「セルシウスをちゃんと助ける」こと。セルシウスが普人族にも獣人族にも狙われていることは知っていたけど、人ごときに遅れを取るはずが無い。だからこそ何か罠があるはずだ。奴が何か妨害してくる可能性があると思った。

 結果、ボクは失敗した。卑劣ナ奴ノ企ミノ所為デ。

 ボクは賭けの内容を思い出す。それは、「セルシウスを助けられなかったらボクは命を差し出す」というものだった。

 嫌ダ! 死ニタクナイ!



 そういう、シナリオ。







 ボクは“ヒル"を交代するためにこちらの世界terrestLiaテレストリアへと降り立った。そこには、ボクと瓜二つのヒルが、モノすごい形相でこちらを睨んできた。その姿はまさに邪神だ。

「死ネ!」

ヒルがボクに襲いかかってきた。ヒルは体中から黒紫色のつるを生やす。それは、光速でボクを貫いた。

「が、は」

【今ノ無シ】。

ヒルがボクに襲いかかってきた。ヒルは体中から黒紫色のつるを生やす。それは、超光速でボクを貫いた。

「が、は」

【今ノ無シ】。

ヒルがボクに襲いかかってきた。ヒルは体中から黒紫色のつるを生やす。それは、亜光速でボクを貫いた。

「が、は」

【今ノ無シ】。

ヒルがボクに襲いかかってきた。ヒルは体中から黒紫色のつるを生やす。それは、光速でボクを貫いた。

「が、は」

【今ノ無シ】。



【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。【今ノ無シ】。



 ヒルがボクに襲いかかってきた。ヒルは体中から黒紫色のつるを生やす。それは、超音速・・・でボクを貫かんとした・・・・・。全盛期とは程遠いヒルの攻撃をボクはことも無げに避け続ける。

「何で当たらないんだ?!」
「教える義理はないよ。ところでヒル、分かってるだろうけど、テストは■■だよ。おとなしく殺されてくれない?」

 ボクの【紫光】は、ヒルの脳天から股間までを一直線に引き裂いた。

 彼は百点満点しっぱいさくだった。マリアちゃんも殺されちゃったし、結果は散々だったね。

 言っとくけど、ボクが何もしなかったとしてもヒルは成功しっぱいしていた。ヒルは自分自身に期待してしまっていたからだ。どう頑張っても、お前の心も体もバケモノでしか無いのに。

 結局、ハイゲンもトマスもセルシウスも死んでしまった。

「【今ノ無シ】」

 ボクの力なら、失敗してもやり直すことが出来る。かなり制約はあるけど、人を生き返らせるだけなら造作もない。ただ、完全に元通りかっていうとそうでも無いんだけど。


 やっぱりヒルだけは生き返らなかった。予想は出来ていたけど。

 ならせめて。

「死ぬまでの間で良いから、心と体以外は人間でいさせてください……」

 今からはボクが爬沼蛭はぬまひるだ。
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