56 / 61
第3章 マリア・ダ・ネーク編 side Matthew
32 暗鬼
しおりを挟む
十分ほど地下の穴を進むと、チビ共とマリアと合流できた。チビ共も毒ガスのダメージから回復したようで顔色も悪くなくて一安心した。
「マリアさん、それと皆! 無事で良かった!」
マリア達は反応していない。
「ウィンドコントロールの範囲にマリア達を含めないと声が届かないぞ」
「あっ」
セルシウスは、チビ達へと走っていき、再会を泣いて喜んでいた。俺はそれを眺めつつ、ホッとため息を吐く。
「なんにせよ、早い内に合流できて良かった。後は獣人に見つからないように脱出するだけだな」
あの家は放棄せざるを得ないだろうが、学園に入れば寮生活だから問題ないだろ。あぁ、ちび達は寮に住めないだろうから、その場合は俺たちが預かってやろう。
それ自体はまぁ良い。問題はこの一連の事件だ。
ビルドはこの襲撃のタイミングを知っていたようだ。一体どうやって?
そして襲撃のタイミングを知っていたのなら尚更、今回の襲撃の回避の仕方に他のやり方があっただろうと思う。
例えば今回の襲撃でセルシウスが死んだことにして、別人としてほとぼりが覚めるのを待つとかな。なんなら今回の件で獣人に報復して、完全に後顧の憂いを断つことだってできたはずだ。このままだと学園の中でもセルシウスが狙われることになってしまうし、マリアがそれに巻き込まれる可能性も十分にある。
と、それは後付けの理由だ。結局俺は違和感を拭えずにいるのだ。なぜならビルドのやってることは、セルシウスを助けたいのか助けたくないのかはっきりしないから。それに加えて何かが引っかかっているんだ。だが、何が引っかかっているのか分からない……。
「マシューさんマリアさん、本当にありがとうございます。もし貴方達が居なければ、俺と皆が全員無事ではいられなかったかも知れない」
「まだ獣人が追ってくるかもしれないんだから、ちゃんと外に出られるまでお礼なんて受け取れないよ!」
「そうだな」
思考を切り替えよう。これはあとでも考えられる事だ。今は俺たちが全員無事に脱出することを考えなくては。
今まで気が散っていて気付かなかったが、ボースの顔色がこの暗闇の中でも分かるくらいに悪くなっていた。毒ガスがまだ完全には抜けてないからだろうか? 真人族は魔力はあるが素の体力は少ないからな、毒や菌に弱いのだ。
ボースが体調悪いってことはと、もう一人の真人であるヒッグスを見たところ、何やらマリアに耳打ちしていた。マリアはそれに笑顔で頷いた。マリアがこちらにやってきた。
「ねぇマシュー、ボースの体力が中々戻らなくて……ボースを背負って、先に洞窟を抜けててくれる?」
「ああ、分かった。まかせろ」
「マリアさん、それと皆! 無事で良かった!」
マリア達は反応していない。
「ウィンドコントロールの範囲にマリア達を含めないと声が届かないぞ」
「あっ」
セルシウスは、チビ達へと走っていき、再会を泣いて喜んでいた。俺はそれを眺めつつ、ホッとため息を吐く。
「なんにせよ、早い内に合流できて良かった。後は獣人に見つからないように脱出するだけだな」
あの家は放棄せざるを得ないだろうが、学園に入れば寮生活だから問題ないだろ。あぁ、ちび達は寮に住めないだろうから、その場合は俺たちが預かってやろう。
それ自体はまぁ良い。問題はこの一連の事件だ。
ビルドはこの襲撃のタイミングを知っていたようだ。一体どうやって?
そして襲撃のタイミングを知っていたのなら尚更、今回の襲撃の回避の仕方に他のやり方があっただろうと思う。
例えば今回の襲撃でセルシウスが死んだことにして、別人としてほとぼりが覚めるのを待つとかな。なんなら今回の件で獣人に報復して、完全に後顧の憂いを断つことだってできたはずだ。このままだと学園の中でもセルシウスが狙われることになってしまうし、マリアがそれに巻き込まれる可能性も十分にある。
と、それは後付けの理由だ。結局俺は違和感を拭えずにいるのだ。なぜならビルドのやってることは、セルシウスを助けたいのか助けたくないのかはっきりしないから。それに加えて何かが引っかかっているんだ。だが、何が引っかかっているのか分からない……。
「マシューさんマリアさん、本当にありがとうございます。もし貴方達が居なければ、俺と皆が全員無事ではいられなかったかも知れない」
「まだ獣人が追ってくるかもしれないんだから、ちゃんと外に出られるまでお礼なんて受け取れないよ!」
「そうだな」
思考を切り替えよう。これはあとでも考えられる事だ。今は俺たちが全員無事に脱出することを考えなくては。
今まで気が散っていて気付かなかったが、ボースの顔色がこの暗闇の中でも分かるくらいに悪くなっていた。毒ガスがまだ完全には抜けてないからだろうか? 真人族は魔力はあるが素の体力は少ないからな、毒や菌に弱いのだ。
ボースが体調悪いってことはと、もう一人の真人であるヒッグスを見たところ、何やらマリアに耳打ちしていた。マリアはそれに笑顔で頷いた。マリアがこちらにやってきた。
「ねぇマシュー、ボースの体力が中々戻らなくて……ボースを背負って、先に洞窟を抜けててくれる?」
「ああ、分かった。まかせろ」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

Look like? オークそっくりだと言われる少女は女神の生まれ変わりだった
優陽 yûhi
ファンタジー
頭脳明晰、剣を持てば、学園はじまって以来の天才。
しかし魔法が使えずオークそっくりと言われる容姿で、周りから疎まれ、居ない者扱いされている少女エルフィナ。
しかしその容姿は悪神の呪いで、本当は醜いどころか王国中探しても、肩を並べる者がいない位、美しい少女だった。
魔法が使えないはずのエルフィナが妹の危機に無意識で放つ規格外の魔法。
エルフィナの前世は女神だった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

癒しの乙女の永久なる祈り
トウリン
ファンタジー
かつて大陸ルニアを襲った邪神の脅威。神器を携えた英雄達によって、邪神は眠りに就く。英雄達は故郷に還り、連綿と神器を護り引き継いだ。
時を経て、再びルニアに危機が訪れる。魔道国マギクが邪神の眠る孤島から溢れ出た魔物の群れに襲われたのだ。マギクと剣士の国エデストルはそれを阻むべく同盟を結んで戦っていたが、それはある日突然破られた。エデストルはマギクに急襲され、王子エディは祖国を追われる。復讐心を糧にマギク打倒を誓って旅に出たエディ。旅の途中、彼は謎に包まれた少女ルゥナと出会った。
やがて明らかになる邪神の、魔物の、そして少女の秘密。それは憎しみに凝り固まったエディの心を変えていく。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる