邪神の恩返し

白南井 誰方

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第3章 マリア・ダ・ネーク編 side Matthew

31 脱出

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(ケホッコホ……)
(ん? どうしたんだビルド?)
 何か念話で咳のようなビルドの声が聞こえた。

(……いや、何でもないよ。そんなことより、マシュー君は目の前の事に集中してよ)
 何でもないということは無いと思うが、しかし。

 周りをさっと見渡す――場所はセルシウスの家、壁には大きな裂目があり、家の外から不可視の攻撃がセルシウスを殺すべく放たれたことが分かる。その不可視の攻撃は家の壁を貫通して室内に衝撃波を生み出し、倒壊寸前まで蹂躙した。そして恐ろしいのは、その攻撃から神力の気配がまるで無かったことだ。つまりこれは物理攻撃でも神術でも無いということを意味している。
 辺りには壁が崩れていくパラパラとした音、セルシウスは俺が伏せさせたから外傷はないが、未知の攻撃に軽くパニックを起こしているようで、息遣いが早く浅い。

 結論。俺とセルシウスは、客観的に見て絶体絶命という奴だった。

「怪我はしてないよな、セルシウス?」
「……ええ。でも子供たちは無事でしょうか」
「そっちにはマリアが付いているからほとんど安全だ。外の奴らが乗り込んでくるまで時間の問題だろう。一刻も早くちび共と合流したいところだが、気づかれずに脱出するにはやはり《ゲート》が一番か」

 俺がそう言うとセルシウスは意外な言葉を発した。

「気づかれない事なら心配は要りません。俺は〈Presence Ctrl.〉と〈Wind Ctrl.〉が使えます。それを俺自身とマシューさんに掛ければ、如何に第六感や嗅覚が優れている獣人だとしても気配や話し声を一切悟られずに済みます」

(まさかセルシウス君がそんな■■術を……ねぇマシュー君、予定は変更だよ。ゲートは使わない。地下に誘導するんだ)

「その神術を子どもたち含めた俺達全員に掛けることは可能か?」
「ええ、勿論可能です」
「なら話は早い。一刻も早くマリア達と合流するぞ。合流は早ければ早いほど良い」

 俺はゲートを凍結した。セルシウスには「万が一獣人どもに解析されないようにするためだ」と説明した。セルシウスはちび共が開け放ったままの床の穴をカムフラージュしながら閉めた。その直後に見知らぬ足音がなだれ込んできたから、タイミング的には本当に危なかった。

「セルシウス、カムフラージュはすぐに見破られるだろう。地下だと余計に匂いが残りやすいからウィンド・コントロールを忘れずにな」
「分かりました」







(マシュー! マシュー! 助けて!)
(どうした、何があったんだマリア)
(子どもたちが急に倒れちゃったの! どうしよう!)
(《キュア》はもう使ったんだろう?)
(うん……一時的に回復するんだけど、また顔色が悪くなってきちゃうの)
(ならそれは毒ガスの可能性が高いな。実はマリアが地下に行ってからすぐ、獣人の襲撃に遭ってな。俺とセルシウスも今地下に避難したんだが、どうやらしてやられたらしい。俺たちは俺たちで対処するから、マリアもウィンド・コントロールとかで空気を遮断して防いでくれ!)
(分かった! やってみる!)
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