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第3章 マリア・ダ・ネーク編 side Matthew
29 糸口
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依頼前日の夜、俺たちはセルシウスを訪ねた。
「こんばんわ! マリアです。急にすみません」
「夜遅くにすまないな、セルシウス」
「……マリアさん、マシューさん……お二人でしたか。どうぞ上がってください」
チビ共は床下のスペースで寝てしまったようだ。まぁ問題はない。セルシウスは手際よくお茶と菓子を用意する。今日のおやつの余りで申し訳ありませんがと言いつつ、外を頻りに気にしていた。高度な【認識阻害】をかけていたから、まず外の獣人連中に俺たちのことは気づかれていないと見て大丈夫だろうけどな。そして俺は本題を切り出す。
「もしよかったら、セルシウスの家に《ゲート》を設置したいんだが」
「〈ゲート〉、とはなんですか?」
「2地点を空間的に繋げる設置型神術陣だ。これがあれば俺たちが宿にいるときでもこっちの異変に気づけるし、俺たちは今まで通り宿で寝泊まり出来る。いざという時のために子供だけでも逃がすシェルターとしても使えるぞ」
依頼より早くに来たのは、《ゲート》に顔認証を設定する為だった。俺やマリアやセルシウスら以外による悪用を防がなくてはならないしな。
「そのゲートは、誰でも通れるようになっているのですか?」
「否、《ゲート》を設置するときに俺達とセルシウス達しか通れないように設定するぞ。それ以外の奴には《ゲート》を認識できないようにする予定だ」
「そうですか、分かりました。そういうことなら是非もありません、ゲートの設置、お願いします」
「よし、じゃあやるか」
マリアが《ゲート》の神術陣を床に打ち込む。時間は……10日か。まぁいいところだろう。俺は【空間把握】でチビ共とセルシウスの顔型を写し取り、陣に組み込んだ。何者かがゲートを通過した場合に音が出る設定にした。最後に先程この家にもかけた【認識阻害】の魔術でゲートを覆った。
これで、依頼のための下準備は出来た。
「セルシウス、この光を踏んでみてくれ。俺達の宿に行くことができる。まぁ転移なんて初めてだろうし、怖いかもしれんがな」
「いえ、大丈夫です。分かりました」
俺たち三人は《ゲート》を通り抜けた。勿論そこは、俺達が普段寝泊まりしている宿であり、さっき通り抜けたゲートは俺達の後ろに相変わらず輝いている。
「なるほど、これはすごいですね! どういう原理なんですか?」
「ゲートの魔法陣は、俺達の家にも設置されている。それが互いにリンクしあってセルシウスの家でもあり俺達の宿でもある空間を発生させ、そこを経由して移動している。ゲートの行き先さえ知っていれば神力は消費しない。《ゲート》は無属性だから誰でも習得できるぞ」
ビルドからは、「セルシウスくんを守ってね」と言われている。このタイプの命令は初めてで、セルシウスがなにか唯一的な価値を持っているのは確信していたが、それはもしかしたら神術に関する才能なのかもしれないな。
と、セルシウスに説明していたら、マリアは寝てしまった。遅い時間だったものな。どうせ《ゲート》でつながっているし、明日の朝までこのまま寝かせてしまおう。マリアをベッドに運び、布団をかけた。
「お待たせ。じゃあ、セルシウスの家に戻るか」
「はい」
丁度良いから、依頼達成後の報酬の話もしておこう。だってこいつ、もう財なんて持ってないはずだし。
「セルシウスお前、もう学園に入学するだけの金すらもないんじゃないか?」
こいつは身を売った金を報酬にするつもりだった、それどころか残されたちびっ子共を俺たちに押し付けるつもりだったのだ。
「!? な、何のことでしょう」
「成功報酬はなんでも良いと、お前は言っていたよな。だったらその報酬はお前が学園に入ってマリアの助けになることだ」
「……え?」
「良くも悪くもマリアは学園で目立つだろう。貴族よりも優秀な平民が現れるわけだからな。しかもビルドはマリアに学園でいろいろやらせるつもりらしい。お前が学園に通い続ける為の金は俺がすべて出す。ギルドは俺が抑える。だからお前はマリアと同じくらいの優秀さを保ち続けろ。それさえ守ってくれれば、お前が何をしようが構わない」
「……貴方にとっては損しかないですよ。どうしてそこまでしてくれるのですか?」
「損しかない? それは違うな。まぁ知る必要はないことだ。
これ以上何も失わずに済む。お前はただそれだけ分かっていれば良い」
セルシウスの頭をポンポンと二回撫で、俺は席を立ち、徐にゲートを跨いだ。
「一つだけ聞かせてください。どうして気づいたんですか、俺に残されたものが子ども達くらいしかいないことに」
振り返ると、まっすぐな少年の目がこちらに突き刺さった。
「えっと、勘だよ」
「なんと……」
「こんばんわ! マリアです。急にすみません」
「夜遅くにすまないな、セルシウス」
「……マリアさん、マシューさん……お二人でしたか。どうぞ上がってください」
チビ共は床下のスペースで寝てしまったようだ。まぁ問題はない。セルシウスは手際よくお茶と菓子を用意する。今日のおやつの余りで申し訳ありませんがと言いつつ、外を頻りに気にしていた。高度な【認識阻害】をかけていたから、まず外の獣人連中に俺たちのことは気づかれていないと見て大丈夫だろうけどな。そして俺は本題を切り出す。
「もしよかったら、セルシウスの家に《ゲート》を設置したいんだが」
「〈ゲート〉、とはなんですか?」
「2地点を空間的に繋げる設置型神術陣だ。これがあれば俺たちが宿にいるときでもこっちの異変に気づけるし、俺たちは今まで通り宿で寝泊まり出来る。いざという時のために子供だけでも逃がすシェルターとしても使えるぞ」
依頼より早くに来たのは、《ゲート》に顔認証を設定する為だった。俺やマリアやセルシウスら以外による悪用を防がなくてはならないしな。
「そのゲートは、誰でも通れるようになっているのですか?」
「否、《ゲート》を設置するときに俺達とセルシウス達しか通れないように設定するぞ。それ以外の奴には《ゲート》を認識できないようにする予定だ」
「そうですか、分かりました。そういうことなら是非もありません、ゲートの設置、お願いします」
「よし、じゃあやるか」
マリアが《ゲート》の神術陣を床に打ち込む。時間は……10日か。まぁいいところだろう。俺は【空間把握】でチビ共とセルシウスの顔型を写し取り、陣に組み込んだ。何者かがゲートを通過した場合に音が出る設定にした。最後に先程この家にもかけた【認識阻害】の魔術でゲートを覆った。
これで、依頼のための下準備は出来た。
「セルシウス、この光を踏んでみてくれ。俺達の宿に行くことができる。まぁ転移なんて初めてだろうし、怖いかもしれんがな」
「いえ、大丈夫です。分かりました」
俺たち三人は《ゲート》を通り抜けた。勿論そこは、俺達が普段寝泊まりしている宿であり、さっき通り抜けたゲートは俺達の後ろに相変わらず輝いている。
「なるほど、これはすごいですね! どういう原理なんですか?」
「ゲートの魔法陣は、俺達の家にも設置されている。それが互いにリンクしあってセルシウスの家でもあり俺達の宿でもある空間を発生させ、そこを経由して移動している。ゲートの行き先さえ知っていれば神力は消費しない。《ゲート》は無属性だから誰でも習得できるぞ」
ビルドからは、「セルシウスくんを守ってね」と言われている。このタイプの命令は初めてで、セルシウスがなにか唯一的な価値を持っているのは確信していたが、それはもしかしたら神術に関する才能なのかもしれないな。
と、セルシウスに説明していたら、マリアは寝てしまった。遅い時間だったものな。どうせ《ゲート》でつながっているし、明日の朝までこのまま寝かせてしまおう。マリアをベッドに運び、布団をかけた。
「お待たせ。じゃあ、セルシウスの家に戻るか」
「はい」
丁度良いから、依頼達成後の報酬の話もしておこう。だってこいつ、もう財なんて持ってないはずだし。
「セルシウスお前、もう学園に入学するだけの金すらもないんじゃないか?」
こいつは身を売った金を報酬にするつもりだった、それどころか残されたちびっ子共を俺たちに押し付けるつもりだったのだ。
「!? な、何のことでしょう」
「成功報酬はなんでも良いと、お前は言っていたよな。だったらその報酬はお前が学園に入ってマリアの助けになることだ」
「……え?」
「良くも悪くもマリアは学園で目立つだろう。貴族よりも優秀な平民が現れるわけだからな。しかもビルドはマリアに学園でいろいろやらせるつもりらしい。お前が学園に通い続ける為の金は俺がすべて出す。ギルドは俺が抑える。だからお前はマリアと同じくらいの優秀さを保ち続けろ。それさえ守ってくれれば、お前が何をしようが構わない」
「……貴方にとっては損しかないですよ。どうしてそこまでしてくれるのですか?」
「損しかない? それは違うな。まぁ知る必要はないことだ。
これ以上何も失わずに済む。お前はただそれだけ分かっていれば良い」
セルシウスの頭をポンポンと二回撫で、俺は席を立ち、徐にゲートを跨いだ。
「一つだけ聞かせてください。どうして気づいたんですか、俺に残されたものが子ども達くらいしかいないことに」
振り返ると、まっすぐな少年の目がこちらに突き刺さった。
「えっと、勘だよ」
「なんと……」
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