邪神の恩返し

白南井 誰方

文字の大きさ
上 下
44 / 61
第2.5章 一方その頃、〇〇は

摩周

しおりを挟む
 深夜だ。マリアは寝て、ビルドはどこかに行ってしまったので、俺は『ウィリアム・セシス』の主導権を握ることができるようになった。夜な夜な勝手に俺が『ウィリアム』を動かしているなんて、マリアは想像もしていないだろうな。

 俺は夜道を歩く。

 『この体』は、魂が3つ入っている非常に不安定な状態だ。しかもその魂っていうのが女神の雛、英雄の卵、破壊の芽と非常にクセが強く、相反する性質のものだ。……とビルドが言っていた。

 そんな状態をむりやり押さえつけておけるこの器。創造のために、どれほどの生贄が積み重なっているのか……想像もつかない。

 というかなんでビルドはこの体の名前をウィリアムと名付けたんだろうか? マリアの「聖女になりたい」という願いを叶えるためなら女性名を使う方が合理的だ。ウィリアムの愛称はビル。ただ自分の名前をもじっただけなのか? ビルドのことだから、何か深い理由が有るのだろうか。
 そういえばウィリアムの愛称にビリーっていうのも……。

 俺は、神の器が一つしかないと、ビルドから言われていた。というか、ビルドがそう思考誘導していた……気がした。ということはウィリアムはかなり沢山あるものと見てよいだろう。

 夜道に、不自然なほど存在感を消している小屋がある。目的地だ。昨日運良く出会った情報屋の婆さんの住所である。

「ウィリアムだね。全く運の良い坊やだよ。何のツテも無く情報屋にたどり着くなんて、あるはずないんだからねぇ」
「そんなことはどうでも良い。『ウィリアムズ』達とについての情報を早く」

 婆さんは、まぁそう急がずにと宥めながら、席に座るように促した。俺は座らず、金袋をテーブルに置いた。

「金貨100枚ある。ほら、これでいいだろう」
「毎度あり! ほら『ウィリアムズ』の名簿だよ」

 婆さんはそそくさと金袋を回収しつつ、十数枚の紙の束をこちらへ放った。

 この街には『ウィリアムズ』という姓の吟遊詩人やら商人やら冒険者やらシスターやらがたくさん居た。会うことは出来なかったが、何でも大層美しい顔立ちをしていたらしい。そんな『ウィリアムズ』についてのことが、その束には事細かに書かれていた。

 束の一番上には、美しい女の似顔絵ーー否、手配書が添えられていた。極秘だとか生死問わずだとか、物々しい言葉が連なっている。

「ウィリアムズは、全て同じ母を持っている。生みの親の名は、マーシー・ウィリアムズ。スラムに住み、芸術算術武術あらゆる分野で才能あふれる子供たちを育てた人物でありながら、100人以上の罪無き人間を殺した大犯罪者さ」

 婆さんはそこで言葉を切り、欲深い目を俺に向けた。俺は、紙束に火をつけた。婆さんは目を丸くしていたが、もうこれは俺にとっては邪魔なものだ。

「ほしい情報は手に入ったからな」

 嘘だ。正直言うとあまり分かっていない。しかしこの食えなそうな婆さんとこれ以上関わりを持つほうがヤバそうだ。俺はとっとと退散することにした。

「用があったらまた来るぜ」

 そんな日が来ないことを祈ってるぜ! 俺は机に無雑作に金塊を積み上げてから婆さんに背を向けた。

 宿に戻ってさっさと寝た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

ひだまりを求めて

空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」 星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。 精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。 しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。 平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。 ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。 その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。 このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。 世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...