邪神の恩返し

白南井 誰方

文字の大きさ
上 下
40 / 61
第2.5章 一方その頃、〇〇は

良心(ぼく)

しおりを挟む
「おひさしぶりです、地球のヒル君」
「またこっちに来たんですね、アスティオルカ」

 まさか、ここから出所して初めて会った人が異世界terrestLiaテレストリアの創世神、AsterAlcaアスティオルカだとは。てっきりもうカイン君が迎えに来ているかと思っていました。

「そっちの世界の爬沼蛭ボクは元気ですか?」
「……元気だよ。そういうヒル君はあんまり元気がないみたいだけど?」

 アスティオルカは、ぼくの半身ボクを助けてくれた恩人です。でもその対価としてぼくは70年分の健康をあげたので、本当に大変でした。

「そうなんですよ! アスティオルカに健康をあげちゃった所為で、課された筋トレをしても人の二倍の時間がかかるし、その上筋肉が付かないし」

 一緒に筋トレしていた人に励ましてもらったり、終わった後にほめてもらったり、悪いことばかりではありませんでしたけど。

「仕方ないからほかの人が溶接とか自動車整備とかの資格を取っている間にぼくは簿記を取ったり、高卒認定試験の勉強してました」
「そうなんだ。君は邪神ヒル・ハヌマに六年間閉じ込められて、半年間もこんな場所にいることになったわけだけど、これからどうするの? こっちの世界に来る?」

 正直それは魅力的な提案です。でも、ぼくにはやりたいことができたんです。

「ぼくは、この世界に残ります。この世界にあるすべての言語を習得して、地球を一つにするんです」

 切っ掛けは、ぼくと同室になった子がハーフだったこと。その子は日本にいた時間の方が長かったから、簡単な英会話と英文を読むことしか出来なかった。その子に僕が漢字を教えて、ぼくは英文法を習得した。ここにはラジオもなかったから、まだ英語の発音はほとんど知らない。これからカインくんに教えてもらう予定です。

 ぼくはこれからやり直せる。

「それは残念だよ。じゃあ、力づくでもわたしの世界に来てもらうよ!」

 なんで?

「不思議そうな顔をしているね。それは、邪神ヒルがわたしの世界を滅ぼそうとしているからだよ!」

 アスティオルカの本気の怒り。〈■■■〉たるぼくに逆らってしまえるんだから、やっぱりApplication program for Learning Conducts and Actionsは面白いです。

 でも、アスティオルカは大きな誤解をしているようです。半身ボクがテレストリアを滅ぼそうとするわけが無いですから。

 きっと爬沼蛭ボクは、自分自身の目的を見つけることができたんでしょう。もしかしたらアスティオルカに背く悪役を演じることで、あの世界の歪を全部背負おうとしているのかも知れません。

 本当に良かった。なら、ぼくがしなければいけないのは一つだけですね。ぼくは半年ぶりに神の力を開放した。

「異世界の危機なんてぼくは知りません。それに虚弱体質持ち相手に力尽くなんていけないですよ、少し教育が必要みたいですね」

 残念ながらぼくはすぐ息切れしてしまいますからね、ここから一歩も動かずに君を再教育ぶっとばしてあげましょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...