魔眼無双の最強賢者~チートな瞳力で世界最速の成り上がり~

月島秀一(ツキシマシュウイチ)

文字の大きさ
上 下
16 / 16

盲目の少女【二】

しおりを挟む

「なんだぁ、てめぇ……? このガキの連れか?」

「いえ、別にそういうわけじゃありませんが……。ただ、ちょっとやり過ぎですよ。彼女、ちゃんと謝っているじゃないですか」

「あ゛ーあ゛ー、はいはい……たまにいるんだよなぁ。こういう正義のヒーローぶった『勘違い野郎』が、よッ!」

 嘲笑を浮かべた男は、突然、右ストレートを放った。
 それは卑怯な不意打ちだったが……。

(……ティッタさんより、遥かに遅いな)

 日々の修業で『獣人の速度』に慣れたエレンからすれば、まるで止まっているかのように見えた。

 彼は半歩だけ左に身を寄せ、鈍重な一撃を避ける。

「ほぉ。俺の拳をかわすとは、見かけによらず、中々やるじゃねぇか……。でも、これならどうだ?」

 次の瞬間、男は「シュシュシュッ」と軽やかに口ずさみながら、右・左・右と交互に白打を繰り出し――エレンはそれを必要最小限の動きで回避した。

「おいおい、ちゃんとよく狙えや!」

「どこ見て拳を振ってんだぁ? なんなら代わってやろうか?」

「うぃー、ひっく……ん゛ー? あの制服、どっかで見たことがあるような……?」

 仲間から冷やかしを受けたことで、男のボルテージはどんどん上がっていく。

「このもやし野郎が、ちょこまか避けてんじゃねぇぞ……!」

 顔を真っ赤にした彼は、素人めいた大ぶりの上段蹴りを放つ。

 エレンは深くしゃがむことで、その一撃を簡単に回避――続けざまに、隙だらけの軸足を軽く払った。

 その結果、男はものの見事にひっくり返り、後頭部を地面で強打する。

「あっ、が……ッ。このクソガキ、大人を舐めくさりやがってェ……!」

 彼はまさに怒髪天を突く勢いで叫び、懐からダガーナイフを取り出した。

 するとその直後――仲間の一人が、泡を食って止めに入った。

「お、おいやめとけ! よく見りゃあの制服、『第三』のものだぞ……っ」

「『だいさん』……? なんだそりゃ!?」

「王立第三魔術学園! 鬼強ぇ魔術師たちの巣窟そうくつだよ……ッ。こっちが先に刃物なんか出した日にゃ、正当防衛を口実にして、ぶち殺されちまうぞ!?」

 その瞬間、男の顔から一気に血の気が引いた。

「ぇ、あ……マジ、か……?」

「……手帳でも確認しますか?」

 エレンはそう言って、懐のポケットから、生徒手帳を取り出す。
 そこにはもちろん、王立第三魔術学園の校章が刻まれている。

「へ、へへへ……っ。なんだよ、あんたも人が悪ぃな……。そんなに凄ぇ魔術師なら、先に言ってくれてもいいじゃねぇか……なぁ?」

 さっきまでの勢いはどこへやら……。
 男はニヘラと微笑みながら、媚びるように手を擦り合わせた。

「と、とにかくあれだ……すまなかったな……っ。ちょっとばかし、悪酔いしちまってたみたいだ。この通り――すまんかった、許してくれ……っ」

 彼は地べたに這いつくばり、エレンと少女に深々と頭を下げる。

「はぁ……わかりました。さっきのような悪趣味な真似は、金輪際しないでくださいね? 後それから、誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けていたら、いつか本当に危ない目に遭いますよ? このあたりには、血の気の・・・・多い・・魔術師・・・もいるんですから……」

 エレンは『とある黒道使い』を頭に浮かべながら、親切な忠告をしてあげた。

「わ、わかった、ちゃんと肝に銘じておく。それじゃ、俺たちは失敬するぜ……っ」

 男はそう言うと、逃げるようにして、街の雑踏に消えていった。

 無事に酔っ払いを撃退したエレンは、道の端で怯える少女に優しく声を掛ける。

「もう大丈夫だよ。怪我はない?」

「は、はい……危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」

「偶然通り掛かっただけだから、気にしないでくれ。それよりも、今は一人なの?」

「実は、そうなんです……。普段は一人で出歩かないのですが、今日は『特別な日』なので、こっそりと外出を……」

 彼女はそう言いながら、大事そうにプレゼントを抱き締めた。

「なるほど、そうだったのか……。もしあれだったら、家族や知り合いのいるところまで送り届けるよ?」

「えっ? いやでも、さすがにそこまでしていただくわけには……っ」

「こっちのことは気にしないで、ちょうど時間を持て余していたところなんだ。それより……もしかしたらさっきの奴等が、まだどこかで息を潜めているかもしれない。君さえ迷惑じゃなかったら、安全なところまで送らせてくれないか?」

 エレンの優しい提案を受け、少女は小さくコクリと頷いた。

「何から何まで、本当にありがとうございます。それじゃお言葉に甘えて、私の家までお願いしてもいいですか?」

「あぁ、もちろん」

 その後、二人はお互いに自己紹介を交わした。

 少女の名前はシルフィ、十歳。
 絹のように艶やかな黒いロングヘア。
 身長は百三十センチ、年齢相応の可愛らしい顔をしている。

「へぇ、シルフィにはお兄さんがいるのか」

「はい。私のお兄ちゃん、とっても凄いんですよ? お勉強が得意で、運動神経も抜群で、お料理が上手で、お裁縫やお絵描きも凄くて……それに何より、本当に優しい。寝る前なんかは、いつも本を読んでくれるんです」

「へぇ、いいお兄さんなんだね」

「えへへ。エレンさんとお兄ちゃんは、どことなく雰囲気が似ているので、きっといいお友達になれると思います」

「あはは、それは楽しみだな」

 話が一段落したところで、エレンはさっきから気になっていたことを聞いてみることにした。

「ところで、その左手に抱えているの……もしかして、お兄さんへのプレゼント?」

「……お兄ちゃん、いつも私のために頑張ってくれているから、少しでもそのお返しがしたくて……。それで今日は、こっそりとお家を抜け出して来ちゃいました」

「なるほど、そういうことだったのか……。それじゃ早く帰って、お兄さんを安心させてあげないとね」

「はい」

 エレンとシルフィがそんな会話をしていると――前方から荒々しい息を吐く男が駆け付け、二人の前でピタリと足を止めた。

「はぁはぁ……っ。シルフィ……お前、一人で勝手に家を出るなって言っただ……ッ!?」

 次の瞬間、彼の顔は憎悪に染まっていく。

「ぜ、ゼノさん……!? もしかして……あなたがシルフィのお兄さんなんですか!?」

「エレン……そうか。てめぇが、妹を連れ出したのか……ッ」

 大きな勘違いしたゼノが、凄まじい怒気を放つ中、シルフィが「待った」を掛けた。

「お兄ちゃん、違うの! エレンさんはとても優しい人よ! さっきだって、私のことを助けてくれ……た……っ」

 直後、彼女は突然その場にうずくまり、苦しそうに胸元を抑えた。

「し、シルフィ!?」

「くそっ、こんなときに発作か……ッ」

 ゼノはすぐにシルフィのもとへ駆け寄り、彼女のことを優しくおんぶする。

 一方のエレンは、

「――赤道の三・蛍火ほたるび、白道の二・聖風せいふう

 赤道と白道の混合魔術を展開。
 温かく柔らかい空気の膜を生み出し、シルフィの全身を優しく包み込んだ。

「てめぇ、何を……!?」

「赤道と白道の形態変化で、保護膜を張りました。この中にいれば、走ったときの衝撃や冷たい風が緩和されます」

「ちっ、相変わらずのやり口だが……よくやった! 薬はこっちだ、付いて来い! そのヘンテコな魔術、死んでも切らすんじゃねぇぞ!?」

「はい!」

 ゼノはシルフィをおぶったまま駆け出し、エレンもその後に続いた。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

最弱帝王
2022.05.29 最弱帝王

普通に面白いです。
更新楽しみに待っています

解除
花鳥風月(元オーちゃん)

中々面白い設定ですねこういった感じは嫌いじゃないですお気に入りしときます

解除

あなたにおすすめの小説

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。