魔眼無双の最強賢者~チートな瞳力で世界最速の成り上がり~

月島秀一(ツキシマシュウイチ)

文字の大きさ
上 下
14 / 16

感動

しおりを挟む

 ゼノには今のこの現状が、まったく理解できなかった。

 魔術とは、すなわち『力』。
 戦いは当然、より力の強い術師が勝つ。

 これが彼の魔術観まじゅつかんであり、自身の打ち立てた『絶対の法則』。
 しかしどういうわけか、目の前の相手には、この絶対の法則が通用しないのだ。

 この見るからに弱そうな謎の魔術師は、こちらの圧倒的な黒道を摩訶不思議まかふしぎな方法でいなし――創意工夫の凝らされた独特な魔術で、確実に削りを入れてくる。

 一度は『無能』と嘲笑った魔術師に、『弱者の戦い方』と切り捨てた戦術に、自分が押されているという現実。

 それがどうしても、受け入れられなかった。

(何故だ……っ。魔術も魔力も知識も、基礎スペックでは、俺の方が全て上回っているはず……。それなのに、どうして勝てねぇんだ……ッ)

 窮地に追いやられたゼノは激昂げきこうし、禍々まがまがしい魔力を解き放つ

「く、そがぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛! ――黒道の五十・黒凰こくおう天墜てんつい!」

 彼が左手を振り下ろすと同時――遥か天空より、漆黒の大結晶が振り落ちる。

「漆黒の波動と落下の衝撃波による『広域殲滅魔術』……! どうだエレン、てめぇの貧弱な魔術じゃ、こいつはさばけねぇだろ!?」

 ゼノは勝利を確信し、邪悪な笑みを張り付けるが……。

(こういうときは――眼を凝らす・・・・・!)

 エレンの魔眼は、ありとあらゆる魔力を『色』で見分ける。

 荒れ狂う魔力の流れから、黒凰天墜の落下地点を正確に予測。
 未来予知に近い精度で安地あんちを――『青色』に染まった地点を割り出し、必要最小限の動きで、吹き荒れる漆黒の波動とそれに続く衝撃波を回避した。

「へ、へへ……っ。勝った、勝ったぞ……この勝負、俺の勝ちだ……!」

 ゼノが勝利の余韻よいんに浸る中、

「――いいえ、まだですよ」

 土煙から、無傷のエレンが飛び出した。

「こ、こいつ……!?」

 仕留め損なったうえ、ここに来ての接近戦。
 虚を突かれたゼノは、わずかに反応が遅れてしまう。

「ハッ!」

 エレンの繰り出した鋭い中段蹴りが、隙だらけの脇腹を正確に射貫く。

「ぁ、が……っ」

 ゼノは体を『く』の字に曲げ、荒れた校庭に何度もその体を打ち付けながら、遥か遠方まで転がっていった。

「はぁはぁ……っ。くそ、が……なんでだ……ッ。どうして俺の魔術だけが、当たらねぇんだ!?」

 彼はゆっくりと立ち上がり、心の声を叫び散らす。

 たとえどれほど強力な攻撃でも、当たらなければ、どうということはない。
 まるで未来でも視ているかのようなエレンの動きに、ゼノは大きな苛立ちと未知の恐怖を感じていた。

 激情と混迷――その狭間に生まれた僅かな隙を、魔眼は決して見逃さない。

「――黄道おうどうの二・雷鳴らいめい

「~~ッ」

 意識の間隙かんげき、完全な死角を打ち抜かれたゼノは、静かにその場で膝を突く。
 これまでジワリジワリと与えられたダメージが、体の芯まで到達してしまったのだ。

 戦いの趨勢すうせいは明らかであり、エレンの勝利はもはや確実に思われた。

「あの……ゼノさん、このあたりで引き分けにしませんか? これ以上やると、明日の授業に響いちゃうと思うので……」

 エレンのそんな優しい提案は、

「く、くくくく……っ。はーはっはっはっは……ッ」

 不気味な笑い声によって掻き消された。

「ぜ、ゼノさん……?」

「……いいぜ、認めてやるよ……。魔術師エレン、てめぇは確かに強ぇ。それも、今まで見たことのねぇ『唯一無二の強さ』だ」

「えーっと……ありがとう、ございます?」

 突然褒められた彼は、困惑しながらもお礼を返した。

「だがよぉ……俺は絶対に諦めるわけにはいかねぇんだ。たとえどんな手を使ってでも、『交渉権』を手に入れる……!」

 ゼノは胸に秘めた願いをたぎらせ、静かに呼吸を整える。

「――見せてやるよ。『呪われた蛇の力』を……!」

 瞬間、『呪蛇じゅじゃの刻印』が妖しく輝き、漆黒の大魔力が吹き荒れた。

「――我は夜を紡ぐ者、黒天を編み、からの座を継ぎ、くらき誓いを此処ここに記す」

 おごりとあなどりを捨てた彼は、この戦いで初めて『完全詠唱』を行う。

「おいおい、待て待て待て……っ。いくらなんでも、その魔力量はやば過ぎんだろ!?」

「と、とにかく、逃げろ……! 今すぐこの場を離れるんだ……!」

 死の危険を感じたクラスメイトたちは、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。

崩玉ほうぎょくの龍、偽聖ぎせいの果実、あま庭代にわしろが罪に染まる――黒道の六十・死龍しりゅう天征てんせい!」

 刹那、巨大な闇の龍が、凄まじい速度で解き放たれる。

 それはかつて死の秘宝を呑み込んだ邪龍。
 天地鳴動すその大魔術は、触れたもの全てを呪い殺す『必殺の一撃』。
 ゼノの使用可能な『最強の黒道魔術』である。

「か、完全詠唱の六十番台……!?」

「ゼノの野郎、この学園を吹き飛ばすつもりか!?」

「馬鹿、振り返るな! とにかく、死ぬ気で走れぇええええ……!」

 生徒たちが顔を青く染め、我先にと逃げ出す中――エレンはその場から動かなかった。
 否、動けなかった。

(あぁ、なんて『綺麗』なんだ……っ)

 彼の心を満たしているのは――只々ただただ、純粋な感動。

 長い歴史の中で編み出された美しい術式構成・生命の萌芽ほうがとも呼べる輝かしい魔力・厳しい修業経てこの大魔術を成し遂げた術師の執念。

 死龍しりゅう天征てんせいに込められた、目一杯の情熱――それら全てに、強く心を打たれたのだ。

(嗚呼……凄い。魔術って、本当に凄い……っ)

 エレンが感動の渦に包まれる中、特殊なレンズの奥底――史上最悪の魔眼が、煌々と紅い輝きを放つ。

 それと同時、彼の体からまるで汚泥おでいのような漆黒の大魔力が溢れ出し、王立第三魔術学園を黒く染め上げていった。

「白道の十――」

 エレンが迎撃魔術を展開しようとした次の瞬間、

「――そこまでです」

 天空より激しい迅雷じんらいが振り注ぎ、生成途中にあったエレンの魔術とゼノの解き放った死龍天征を消し去る。

 周囲に焼け焦げた臭いが充満する中、

「……り、リーザス・・・・副学長・・・……っ」

 とある男子生徒がポツリと呟き、辺り一帯がシンと静まり返る。

 そこに立っていたのは、この学園のナンバーツー。
『雷神』リーザス・マクレガーだった。

「ミスター・ゼノ、今のは明らかにやり過ぎです。私闘で六十番台の魔術を使用するなど、決してあってはなりません。私が止めに入らなければ、エレンを殺していましたよ?」

「……ちっ」

 注意を受けたゼノは、不機嫌さを隠そうともせず、大きな舌打ちを鳴らす。

「ミスター・エレン、あなたもです。勇敢と蛮勇を履き違えてはなりません。魔術師たる者、彼我の実力差をしかと見極め、格上の魔術師との戦いは避けなさい」

「す、すみません……っ」

 至極もっともな注意を受けたエレンは、申し訳なさそうに謝罪する。

「とにかく今回は、喧嘩両成敗。それぞれの成績に『減点一』を付します。ミスター・ゼノとミスター・エレンは、明日の放課後までに反省文を書き、職員室まで持参すること――いいですね?」

「はい、わかりました……」

 エレンが肩を落とす一方、

「くそが……っ」

 全てを・・・理解した・・・・ゼノ・・は、悪態をつきながら、きびすを返した。

「はぁ、まったく……」

 リーザスは小さくため息をついた後、パンパンと手を打ち鳴らす。

「――さてみなさん、いったいいつまで油を売っているつもりですか? 立派な魔術師になるには、日々の研鑽が必要不可欠。さぁ、早く自習を再開なさい」

「「「は、はい……っ」」」

 リーザスの鋭い視線を受けた生徒たちは、大慌てでダールに課された自習課題を再開させるのだった。



 エレンとゼノの決闘を止めたリーザスは、周囲に誰もいない旧校舎へ移動し、何もない虚空へ話し掛ける。

「――どうせどこかで視ているのでしょう? 返事をなさい、ヘルメス」

 すると次の瞬間、

「んー、どうしたのかな?」

 周囲に霧のようなものが立ち込め、そこからヘルメスの声だけが響いた。

「あなたが推薦したエレンという少年……彼はいったい何者なんですか?」

「ボクの大切な家族さ」

「はぁ……まともに答える気はないようですね」

「まぁね」

 相も変わらずといったヘルメスの態度に、リーザスは小さくため息を零す。

「それにしても……さっきの出力、あれは明らかに異常です。私があそこで止めに入らなければ、間違いなくゼノは・・・殺されて・・・・いましたよ・・・・・?」

「あはは。相変わらず、リザは心配性だなぁ。エレンは優しい子だから大丈夫だよ。さっきの魔術だって、無意識のうちにかなり手加減していたみたいだし、君の恐れるような事態にはならなかったさ……多分ね」

「もしも万が一ということがあったら、いったいどうするつもりなんですか?」

「そうなったとき、また考えるさ」

 しばしの沈黙。

「……あなたのそういう適当なところ、反吐へどが出るほど嫌いです」

「君のそういう生真面目なところ、ボクはけっこう好きだけどなぁ」

「黙りなさい!」

「おー、怖い怖い」

 直後、薄い霧が晴れていき、ヘルメスの声は消えた。

「魔術師エレン……。彼のことは、学園長に報告する必要がありそうですね……」

 こうしてエレンは、当人のあずかり知らぬところで、学園の上層部に目を付けられることになったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

処理中です...