魔眼無双の最強賢者~チートな瞳力で世界最速の成り上がり~

月島秀一(ツキシマシュウイチ)

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魔術合戦

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「それでは……行きますよ?」

「さっさと来ぉい゛!」

 両者の視線が激しく交錯する中、エレンは素早く術式を構築。

青道せいどうの一・蒼球そうきゅう

 透明度の高い水の球が、ゼノを取り囲むようにフワフワと浮かび上がる。

 それと同時、彼の瞳に危険な色が宿った。

「てめぇ……そりゃ舐めてんのか?」

 自分に向けられる魔術が、まさかこれほど低レベルなものだとは、想像だにしていなかったのだ。

「俺はいつだって本気ですよ。――白道の一・せん

 続けざまに唱えられたのは、最弱の攻撃魔術『白道の一』。
 眩い光を放つ魔力が、ひたすら真っ直ぐに突き進む。

「……そうか。そんなに死にてぇのなら、お望み通りにしてやるよ!」

 ゼノは怒声をあげながら、迫り来る閃光を左手で迎え撃つ。

 しかし、両者がぶつかり合う直前、閃は四方八方に拡散。

「なっ!?」

 散り散りになった光線は、周囲の蒼球に乱反射を繰り返し、ゼノの全身へ襲い掛かる。

(ぐっ、これは属性変化と形態変化か……ッ)

 エレンは蒼球の属性を白道へ変え、光の反射率を大幅に向上。
 そこへ形態変化させた拡散性の閃を放ち、回避の難しい『指向性のない多重攻撃』を実現させたのだ。

「うざってぇなぁ、お゛い――黒道の三十・闇曇神樂あんどんかぐら!」

 ゼノの全身を覆うようにして、濃密な闇が吹き荒れる。
 凄まじい魔力の込められた『黒』は、乱反射する閃と周囲の蒼球をいとも容易く破壊した。

「はっ、精一杯工夫したつもりか知らねぇが……所詮、曲芸の域を出ねぇな。言っちまえば、『弱者の戦い方』だ。そんなんじゃ、天地がひっくり返っても、この俺には勝てね……あ゛?」

 そこで彼は、とある異変に気付く。

(……蒼球が、消えてねぇ……?)

 先ほどしっかりと潰したはずの蒼球が――その残滓ざんしとも呼べる細かい霧状の粒が、薄っすらと周囲に立ち込めているのだ。

(ほんの僅かにエレンの魔力を感じる……。だが、こんな粉でいったい何をするつもり……待てよ、『粉』!?)

 気付いたときには、もう遅かった。

「――赤道の三・蛍火ほたるび

「この野郎……ッ」

 エレンの繰り出した小さな炎は、美しい弧を描きながら宙を舞い――周囲に満ちた粉へ引火。

 凄まじい速度で燃焼が伝播でんぱしていくその現象は、『粉塵爆発』。

 灼熱の波動が大気を打ち鳴らし、耳をつんざく爆音が学園中に轟いた。

「きゃぁ!?」

「エレンの野郎、マジか……っ」

「いったい何が起きてんだよ!?」

「オイオイオイ、あいつ死んだわ……っ」

 A組の生徒たちは、その場に深くしゃがみ込み、強烈な爆風をなんとかやり過ごす。

 そんな中、

(うーん、ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ……)

 エレンは不安げな表情で、ポリポリと頬を掻く。

 彼は手元から離れた蒼球を遠隔操作し、その属性を燃えやすい緑道りょくどうへ、さらにその形態を液体から粉末状へ変化。そこへ蛍火をほうることで、この凄まじい大爆発を引き起こしたのだ。

 それから少しの間、燃え上がる爆炎を眺めていると――前方から一陣の突風が吹き、見るからに疲弊した様子のゼノが現れた。

「はぁはぁ……っ」

 爆発の瞬間、防御魔術が間に合わないことを悟った彼は、咄嗟とっさの判断で自身の魔力障壁を最大強化。
 全身から膨大な魔力を解き放ち、爆風のダメージを軽減したのだ。

「あ、あの……大丈夫で――」

「――ぶち殺す」

 物騒な返答の直後、ゼノの陰から七匹の狼が生み出される。

「黒道の三十七・陰狼かげろう円舞えんぶ!」

 漆黒の軍勢は、鋭い爪と牙を剥き出しにしながら、エレンの元へ殺到。

「うわっととと……っ」

 彼は大きく後ろへ跳び下がりつつ、新たな魔術を展開する。

「――青道の四・無色沼むしきぬま

 次の瞬間、七匹の狼の足元に極小の底なし沼が発生し、彼らの動きを完全に封殺。

「一番台の魔術で、俺の三十番台を……っ」

 魔術の原則は等価交換。
 エレンは展開する沼の面積を極小サイズに絞ることで、通常では考えられない深度を実現したのだ。

「さっきから低級魔術ばっかり使いやがって……っ。人を虚仮こけにするのも大概にしやがれ!」

「い、いえいえ、ゼノさんを馬鹿にする意図はありませんよ……!? 俺の実力じゃ、簡単な魔術しか使えないだけです!」

 エレンが魔術の修業を始めたのは、今よりわずか一か月前。
 魔術師的にはひよっこもひよっこ、『駆け出し』と表現することさえはばかられるほどの学習時間だ。
 そうなれば当然、使用できる魔術の種類も、同学年の術師と比較すれば雀の涙。
 具体的には、適性ありとされた白道と無理強いされた青道が十番まで、他の属性については一番から五番しか使えない。
 しかしこれでも、一か月という極々短い修業期間を考慮すれば、驚異的な成長速度と言えるだろう。

 一方のゼノはこれまでの人生、そのほとんど全てを魔術の研鑽に費やしてきた。
 天賦てんぷの才能を持って生まれた彼は、適性の高い黒道ならば、五十番台の高位魔術さえ無詠唱で行使可能。

 両者の魔術師としての実力差は、海よりも深く山よりも高い……はずなのだが……。

「――黒道の三十九・覇弓衝はきゅうしょう!」

「――白道の五・雲鏡くもかがみ

 現在の戦況は完全に互角――否、『消費魔力』と『削り』の観点から見れば、むしろエレンの方が押していた。

(はぁはぁ、くそったれ……っ。この俺が、こんな弱そうな奴に……ッ)

 ここまで強力な魔術を連発してきたゼノは、魔力の消耗が非常に激しく、見た目以上に追い詰められている。

 そのうえさらに、精神的にも削られていた。

「赤道の四・火焔朧かえんおぼろ

「ちぃっ……(くそ、今度はなんだ……こいつはいったい、どんな攻撃なんだ!?)」

 エレンの魔術は、まさに変幻自在。
 型にはまらない柔軟な発想から繰り出されるのは、属性変化と形態変化で魔改造された『未知の魔術』。
 次から次へと襲い掛かってくる攻撃に対し、ゼノは後手に回らざるを得なかった。

 しかもそれだけではない。
 エレンは次手じての組み立ても、本当に巧みだった。

「緑道の一・草結び」

「なっ、しまっ!?」

「黄道の四・紫電しでん

「が、は……ッ」

 一つの魔術が単発で終わらず、次の攻撃の伏線になっている。
 息もつかせぬ波状攻撃により、ゼノは着実に追い詰められていった。

「お、おいおい……。あのローゼスの末裔が、完璧に押されてんぞ……っ」

「エレンの使っている魔術は、どれも低位のものだけど……とにかく巧いな」

「優れた魔術センスにひとつまみの工夫……なるほど、『首席合格』は伊達じゃないってことね」

「エレンくん、ちょっとかっこいいかも……っ」

 最初はクラスメイトのほぼ全員が、ゼノの勝利を確信していたのだが……。
 彼らはいつの間にか、エレンの操る変幻自在の魔術に魅せられていた。
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