魔眼無双の最強賢者~チートな瞳力で世界最速の成り上がり~

月島秀一(ツキシマシュウイチ)

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魔王の寵愛と史上最悪の魔眼【一】

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 エレン・フィールは、『魔王の寵愛』と呼ばれる呪いを受け、『史上最悪の魔眼』を持って生まれた。

 エレンが初めてその魔眼を発現させたのは、彼がまだ五歳の頃だ。
 生家せいかの近くにある森で、弟と妹と一緒に遊んでいたとき、突如出現した巨大な魔獣に襲われてしまい……。
 長兄であるエレンは、幼い二人を守ろうと必死にもがいた末、魔眼を覚醒。わけもわからずに行使した魔術は、襲い掛かる魔獣だけでなく、森を丸ごと・・・・・殺してしまった・・・・・・・

 その日の深夜遅く、エレンの両親は屋敷の居間で激しい口論を交わす。

「あんな恐ろしい子ども、今すぐ殺してしまいましょう!」

「まぁ落ち着け。アレ・・は、魔王の寵愛を受けているんだぞ? そんなことをすれば、どんな災いがあるかわかったものじゃない……」

「それなら魔術教会に連絡して、引き取ってもらうのはどうかしら!?」

「馬鹿を言うな。史上最悪の魔眼を持った忌子いみごが、うちから生まれたなどと世間様に知られれば……これまで築き上げてきたフィール家の栄誉が、地の底に落ちてしまうじゃないか」

「だったら、どうすればいいのよ……ッ」

「それはお前……うちで面倒を見るしかないだろう。幸いにも、魔眼持ちの寿命は短い。死ぬまで物置小屋に閉じ込め、あの子の存在をなかったことにしよう」

 ヒステリックに泣き叫ぶ母とそれを静かになだめる父。

 幼いエレンは、そんな二人を見て理解した。

 自分はいらない人間なのだ、と。

 その後、エレンは魔術から遠ざけられ、魔眼を表に出すことを固く禁じられた。
 そして「弟と妹に悪影響があってはいけないから」と、狭く暗い物置小屋に押し込まれてしまう。
 食事と呼べるものは朝に一度のみ、それも乾いたパンとコップ一杯の水だけだ。

 孤独で退屈な毎日を送る中、

「……あっ、綺麗な鳥だなぁ」

 小屋にある十センチ四方の小さなのぞき窓、そこから見えるほんの僅かな外の世界が、エレンに許された唯一の楽しみだった。

 それから十年、人並みの愛情も注がれず、最低限の教育も受けられず、飼い殺しにされた彼は――只々ただただ無気力。
 生きる目的のない、人形のような少年に育った。

「…………」

 かつての綺麗な白髪は見る影もなく、漆黒の瞳はくらく淀んでいる。
 このまま緩やかに死んでいくと思われたエレンだが……ある日、彼にとって転機となる出来事が起こる。

 それはシンシンと雪の降る、月の綺麗な夜のこと――。

 とある高名な魔術師が、フィール家の屋敷に招かれた。
 彼の名はヘルメス、超名門魔術家系の十八代目当主であり、五爵の最高位『公爵』の地位をいただく大貴族だ。
 長くつややかな緑色の髪、身長はおよそ百九十センチ、外見年齢は三十代前半であろうか。
 切れ長の眼・高く通った鼻・柔らかい口元。その整った顔立ちは、白塗りのクラウンメイクの上からでも、気品のある凛々しさを感じさせる。
 黒い豪奢ごうしゃなローブをまとった彼が、送迎の馬車からゆっくり降りると――エレンの両親が大慌てでそこへ駆け付けた。

「ヘルメスきょう、ようこそおいでくださいました!」

「本来ならば、こちらからお伺いすべきところなのに……大変申し訳ございません」

「いえいえ、お気になさらずに。名門フィール家の御子息・御令嬢に、魔術を教えられるまたとない機会。一人の教育者として、とても光栄に思っております」

 ヘルメスはそう言って、柔和な笑みを浮かべる。
 彼は今日、エレンの弟と妹に魔術の講義を施すため、遠路はるばる足を運んで来たのだ。

「ヘルメス卿、ここにいては雪で濡れてしまいます。どうぞ、中へお入りください!」

「ささっ、こちらへ!」

「ありがとうございます」

 感謝の言葉を述べたヘルメスは、屋敷に踏み入る直前――エレンの住む物置小屋に目を向ける。
 のぞき窓越しにぶつかる視線と視線。
 両者の距離は十メートル以上も離れており、窓のサイズは僅か十センチ四方。さらに付け加えるならば、既に陽が落ちて久しく、周囲は夜闇に包まれている。

 常識的に考えれば、互いが互いを認識している可能性はゼロに等しいのだが……。

 ヘルメスは柔らかく微笑み、空中に聖文字せいもじを記した。
 夜闇にポゥッと浮かび上がるそれは、時間にしてコンマ数秒で消えてしまう。

 しかし、

(『一時間後、こっそり屋上においで』……?)

 史上最悪の魔眼は、秘密のメッセージをしっかりと捉えていた。

(……そんなこと言われても、俺はここから出られないんだ)

 エレンの眼前にそびえ立つのは、厳重に施錠された鉄壁の扉。
 外界への道を閉ざす、唯一にして絶対の壁だ。

「…………はぁ」

 彼は深いため息をこぼし、額をゴツンと扉にぶつけた。

 すると次の瞬間、

「……え?」

 扉はゆっくりと奥へ倒れていき、視界一面に外の世界が広がる。

「ど、どうして……?」

 エレンが恐る恐る物置小屋から出ると――いったいどういうわけか、全ての鍵が破壊されていた。

(もしかして、さっきの人が……?)

 どれだけ考えても、これという答えは出ない。

(……行ってみよう)

 一時間後、屋敷の屋上に足を運ぶとそこには、先ほどの男が――ヘルメスが立っていた。

「やぁ、いらっしゃい。やっぱり君、ボクの魔術が見えているんだね」

「魔術って、あの光る文字のことですか?」

「そうそう。さっきのは、隠匿術式を施した聖文字。あの一瞬であれを判読できるのは、聖文字に特化した専門家か、とびきり探知力に優れた術師か、それとも……魔王の寵愛を・・・・・・受けた・・・魔眼の持ち主・・・・・・とか?」

 全てを見透かしたような言葉と視線。
 エレンはコクリと頷き、自身の左目に魔力を集中させた。
 すると――深い漆黒の瞳に、煌々こうこうとした緋色が灯る。

「……素晴らしい」

 ヘルメスの口からこぼれたのは、万感の思いの込められた呟き。

「曇りのない漆黒に緋色ひいろ輪廻りんね……。嗚呼ああ、これまでいろいろな魔眼を見てきたけど、こんなに美しい瞳を見たのは初めてだ」

「あ、あの……この魔眼のこと、本当にご存じですか?」

 左の眼窩がんかに収まるこの忌物いぶつは、史上最悪の魔眼と呼ばれ、決して褒められるような代物ではない。

「あぁ、もちろん知っているとも。世界で最も忌み嫌われている眼だね」

 男は平然とそう答えた後、スッと右手を差し出す。

「――ねぇ、うちに来ないかい?」

「え?」

「ボクはこう見えて、慈善家というやつでね。ちょっと訳ありの子を育てたり、魔術の素養のある子を導いたり、恵まれない子を集めたり、他にも野生動物の保護・自然環境の保全・魔術教育の普及などなど、いろいろな社会貢献活動をしているんだ。もしも君さえよければ、うちで一緒に暮らさないかい?」

 ヘルメスからの提案は、非常に魅力的なものだった。

「……ありがとうございます。ただ、父さんと母さんが許してくれないと思うので……」

 エレンの両親は、彼を外に出すことを嫌っている。
 ヘルメスのもとで暮らしますと言ったところで、「はい、そうですか」と返ってくるわけがない。

 それに何より、お腹を痛めて生んでくれた恩、ここまで丈夫に育ててくれた恩――両親への大恩を返さぬまま、別の人のもとへ行くのは、とても不義理なことに思えたのだ。
 たとえ今は酷い扱いを受けていたとしても、いつかきっと昔のように、優しかった父と母に戻ってくれるはず。 

 純粋なエレンが、そんなことを考えていると、

「あぁ、それについては問題ないよ。二人の許可は、もう取ってあるからね」

 ヘルメスはそう言って、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

「これはボクと君の両親が交わした魂の誓約書、ここに記された誓いを破れば、契約神ラクトゥスによって魂を壊されてしまう。まぁ簡単に言えば、絶対に破れない約束だね。内容は……見てもらった方が早いかな」

 エレンは魂の誓約書を受け取り、その内容に目を通していく。
 そこに記されていたのは、フィール家が長子エレン・フィールの親権を、ヘルメスへ無償譲渡するというものだった。

「…………そっか、そうだったんだ」

 両親はもう、エレンのことを子どもだとは思っていなかった。

 もちろん、彼とて馬鹿ではない。

 そんなことは、とっくの昔にわかっていた。
 だけど、理解したくなかった。
 心のどこかで、父と母のことを信じていた。

 しかしそれは、ただの幻想に過ぎなかった。

「っとまぁこういうわけで、エレンを縛るものは何もない。そこでさっきの質問に戻るわけだけど……。もしも君さえよければ、うちで一緒に暮らさないかい?」

「……はい、よろしくお願いします」

 孤独な物置小屋から出られる喜び。
 実の両親に捨てられたという悲しみ。

 その二つがせめぎ合い、幼いエレンの心はぐちゃぐちゃだった。
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