デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-50 大木仁

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「じゃあ、さっそくだけれど、こいつを使ってちょうだいな」

 そう言って彼女は俺に何かのアイテムを手渡してくれた。

 それは長さが三十センチくらいある長細くて銀色をした何かの金属質な不思議な形状の、まるで何かのゲームに出てきそうな細長いカプセル状のアイテムだった。

 俺の図体からすると人間比で六センチほどに感じるが、俺達の需要に合わせてそういう縮尺比も考えて大きめに作って、なおかつ操作も簡単にしてくれてあるように感じる。

「これはもしかして君達の仲間が作ったものなのかい」

「当たり。
 やっぱり同郷人が見れば、デザインを見ただけでなんとんなくわかるよね。

 使い方はこう。
 先っぽを回して、ひっぱると伸びるから。

 ええ、それで起動状態になったわ。
 それをこう手の平あたりから体の中に入れる。
 そう、そんな感じね」

 そして、そいつは軽いハム音と共に俺の体の中に吸い込まれていった。
 なんだかわからないが、これでいいのだろうか。

 そして次の瞬間、俺は四本の腕で自分を抱き締めながら激しく身悶えする羽目になった。

 熱い、いや眩暈と悪寒が止まらない!
 足が震えて腰が砕けそうだ。

 いや砕けたなんて物じゃなくて、俺は膝から崩れ落ちて四つん這い、いや六つん這いになってしまった。

 なんというのか、苦痛であるとか体が引き裂かれそうとかいうのではなくて、なんとも言い難い感覚に二本の足で立っていられないのだ。

 体全体が縮んでいくような、そのような不思議な感覚だ。

「うおおお、なんじゃこれは~」
「ジン!」

 アリエスが慌てて近づこうとしたが、その女が前に立ち、警備所のゲートバーのように真っ直ぐに腕を伸ばして制した。

「慌てないで、それは初めて使う時だけの感覚ですぐに収まるわ。
 そして」

 そう言って彼女は、俺の目の前に立ち笑顔で腕組みしていた。

 そして、その姿がだんだんと近づいてきて、ついには追い越して俺は彼女を這いつくばった格好で見上げる事となった。

 そして、へたばってしゃがみこんでいる俺に彼女は膝を折って、底抜けな笑顔をトッピングに片手を差し出した。

「いやあ、初めての人化体験は何時見てもいいなあ。
 はい、立てるかな?」

「人化だと」

 俺は驚いたが、その女の子は俺の立ち上がった目線に、自分の顔を上向きに上げてよく拝ませてくれた。

 改めて見直してみても、アイドル並みの美少女だった。

「あたしの事はショウって呼んでちょうだい。
 水晶のショウ。

 本当はアキラって読むのだけれど、アキラだとこっちの世界に馴染まない呼び方なので、あなたと一緒で音読みにしているの。

 あなたの事はジンって呼ぶわ。

 よろしくね、あなたの姿も私の姿も、これが生前の姿よ。
 正しくは死んだ時の年齢の姿。

 私達のような人外転生者は何故か人化すると、その時の姿になるの。
 死の瞬間に、魂に形が深く刻み込まれているのかしらね」

 気がつくと、アリエスが近寄って俺を見上げていた。
 どうやら、俺は生前かなりの長身だったらしい。
 アリエスの頭が結構下にある。

「ジン、それがあなたの本当の顔なの」

 不思議そうな顔で、俺の顔をエメラルド系のグリーン調の翡翠のような瞳が覗き込んでいる。

 目を合わせた時もいつもと勝手が違うので、つい面食らってしまうな。

「いや、いつもの奴が今の本当の俺の姿だ。
 これは俺が日本という場所で生きていた頃の人間としての姿なのだ。

 鏡を見た感じでは死んだ時は多分二十代半ばくらいかな。
 あまりそういう記憶がないんだ。

 そっちのお姉ちゃんも若くして亡くなったようだな」

 彼女はドレッサーのような大きな鏡を収納から取り出して見せてくれた。

 真っ黒な目と、日に透かすとやや焦げ茶がかかった髪。
 ややガッチリとした体形で、足は長めの、そこそこいい男といった感じだろうか。

 身長百八十センチほどの身長、それほど目立ち過ぎるほどではなく、少なくともこの世界においても、ひ弱と舐められるような体ではない。

 はっきりとは覚えてはいないのだが、何か武道のような物で体を鍛えていたような記憶がある。

 何故か裸ではなく、冒険者から巻き上げた服を身に着けていた。

「ふふ、あたしは病気でね。
 もっと丈夫な体で長生きしたいと願いながら死んだから、不憫に思った神様がその願いを叶えてくださったのかしら。

 お蔭で天下無敵で長寿な最上級ドラゴンボディよ。

 さしずめ、あなたは『仕事が忙しいから手がもう二本くらい欲しい』とか言いながら過労死した口なのかしらね」

「お前、可愛い顔をして酷い事を言うなあ。

 俺は少しというか、かなり記憶が曖昧だな。
 嫌だな、あまり思い出したくない記憶だって事なのかよ。

 でも、俺はいいんだがシルバーとルーはどうしようか。
 俺は仲間を置いてなんかいけないぞ」

「大丈夫よー。
 そんな、あなたにはこちらの素晴らしい商品がー」

 何かテレビショッピングか何かみたいな口調で楽しく解説してくれるショウ。

 そして渡してくれたのは、不思議な金属でできている細い輪っかのような物だった。

「これは偽装リングという物よ。
 元々は人間用の物なのだけど魔物にも使えるわ。

 そして、そこの結界もちゃんと通り抜けられる優れ物なの。

 結構、魔物の仲間を連れている人も多くてね、それで開発されたものなのよ。
 皆、人外転生して苦労しているし、結構寂しいらしいわ」

同胞はらからの苦労は、いずこも一緒か」

「ええ、じゃあフェンリルとガルーダね。
 まあ普通に使えるんじゃない。

 これは伸縮自在よ。
 ガルーダさんは一度大きくなってくれないかしら」

 アリエスのポケットの中から飛び出したルーは、それを受取り、一旦大きくしてから腕に通しサイズを合わせた。

「ルー、器用だなあ」
「これはそういうアイテムですもの。それ」

 そして、次の瞬間に彼女は小さな小鳥になった。

「ありゃあ、こいつは凄いな」

「ふふ、これらのアイテムを使っていても、魔物としての探知には引っかからないけど元の力は使えるという優れものよ。

 ただし、姿による制限は受けるわ。

 ジンならば、手は二本だけだし、大きさを生かして足で踏み潰すような真似はできないし、身長やリーチも人間のものに過ぎないわけだから。

 でも魔法は使えるし、力や耐久性もギガンテスの物だし、また人間のように振る舞えるように力を制限する事はできるの。

 細かいところは自分で練習してちょうだい。元の姿には随時戻れるけれど、当分はそのままがいいんじゃないの」
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