デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-42 進撃の魔神団

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 それから俺達は速度を一・五倍にして、三日がかりで更に九百キロの距離を走破してみせた。

 街道の先、南方面で待ち受けているだろう敵の罠を警戒して途中で方向を変えて山脈を離れ、逆L字の形になっているサンマルコス王国の中で隣国であるハリオス王国との国境沿いにある逆L字の内側の角部分にまで辿り着いた。

 それにあのまま直進して山脈の南の果てを越えてしまうと、すぐに東の平原側でアルブーマ大山脈沿いに流れてきている大きな河の河口へと出てしまい、その対岸には帝国に占領されたアモスの港に出てしまう。

 その近辺は警戒が非常に厳重なはずだ。

 帝国に捕捉されたら最後、帝国の軍勢が河を挟んだ国境を越境してきて、そのままなし崩しに侵略戦争にすらなるであろう。

 現在地よりもう百キロ西へ移動すると、そこはサンマルコス王国の中央港パルセン港の上に当たるのだが、そこは東の平原を越えたところにある大きめの国家群である西方諸国への船が出ていないので立ち寄らずに通過する予定だ。

 アリエス達が山脈越えのために目晦ましとして、アーデルセン王国沿いにパルミシア王国を移動していた手を真似て、今から行くルートから見てすぐ上に位置するハリオス王国側から進む事も考えていた。

 だが、今の俺達は帝国相手に派手にやり過ぎたし、同行者が人間サイズではないので、隠蔽していてもともすれば目立ちすぎる。

 国境でうっかりと見つかる可能性を考慮して、このままサンマルコス王国内の国境沿いの街道を西へ行く事にした。

 本来なら国境を離れた部分を行くのが安全なのだが、それだと行軍がかなり困難になる。

 こう言っちゃなんだが、たとえ魔物であろうとも道なき道よりは街道の方が進みやすい。

 それに実を言うと、なによりも街道の上を歩く方があまり痕跡を残さずに済むのだ。

 そして慎重に進んで六日の後、俺達は帝国と直接対峙する形になっている、かつての王国同盟群の中では西の平原で最強のオルガノ王国との国境に近い位置まで歩を進めた。

 その国を越えたところに、西の平原三か国を除く残りの西の平原を支配する覇者であるルーゲンシュタット帝国の広大な版図がある。

 そう、ここは目的地であるブシュレの港の真上およそ二百キロの地点である。

「ようやく、ここまで着いたな。
 罠に引っかからずに来れたなど奇跡のようだ」

「そうね、却って怪しいくらいだわ」

 そう、へたをすると、これこそが敵の狡猾な罠だ。

 こちらを安心させ油断させておいて、港へ到着した途端に港に潜ませた部隊と追撃部隊とで挟み撃ちにする。

 開けた海沿いは山中と違って簡単には煙に巻けない場所なのだから。

 それこそ、海にドボンしてフェンリルの犬かき動力のワンワン船で逃げないといけなくなる。

 そうなった暁には敵の海軍総出で追いかけてくるだろう。
 そのような事にでもなったら子供達が堪ったものではない。

 俺とシルバーだけなら海水浴気分の遠泳みたいなもので、その辺の強力な海の大型魔物でも引き連れて敵の船に押し付けるモンスタートレインごっこをして遊ぶのだが。

 それが出来たなら、さぞかし派手な見物になる事だろう。

「でも、港に近いんでしょ。
 あの山の中で逃げ回っていた時に比べたらいいよ。
 山の中って、すごく寒いんだもの」

「はは、確かにそうだな」

「メリーベル、寒い?
 僕が温めてあげる」

「わあい、もふもふだあ」

 天然毛皮のもふもふ狼は、嬉しそうに頭をすり寄せてから少女を柔らかい体をくねらせて包みこんだ。

 まだ少々子供気分が抜けないシルバーにとっては、このメリーベルが初めての『年相応』のお友達なので、二人とも仲のいい事この上ない。

「では、用心しながら南にある港を目指すぞ」
「うん、了解」

 ルーはここまでに、かなりの食糧を集めてくれてある。

 ここから先は海に出る予定なので、食料調達が困難になるかもしれないから留意するように頼んでおいたのだ。

 彼女も賢いので、その辺りは常に自主的に動いてくれてあるので助かる。

 そして、その多くは二人の収納ポシェットに持たせてある。
 俺達はいつ別れねばならなくなるか知れたものではないのだ。

 幸いにして二人が持っていたのは、なりは小さいのだが高価な無限収納タイプなのでそうしても困らない。

 さすが今は規模が小さくなってしまおうとも、平原の盟主と呼ばれた国の王族だけの事はある。

 あるいは、彼女達の親も今日ある日を予測していたのかもしれないのだが。

 それから、俺達は少し進行速度を落として、なるべく痕跡を残さないように努めた。

 ここからは街道で敵が罠を張って待ち受けていてもおかしくはないので、少し大回りをするオルガノ王国との国境沿いに南下する主街道を行くのはやめにした。

 シルバーが土魔法で上手に痕跡を消してくれている。

 なんというか、尻尾の箒で綺麗にしていきますよという感じに、俺達が歩いた後ろの痕跡を上手に魔法で消していく。

 まったく器用なもんだ。

 山中などはなるべく開けた場所を通っていくので、大きくジグザグになり距離が長くなってしまったが仕方がない。

 荒れ地部分もなるべく痕跡を残さないで済む場所を選んで進み、湖沼などに出会うとその上を俺の操る水系の魔法に乗って波乗りに乗るかのように滑るように進み、それはまるで水中翼船かホバークラフトにでも乗るかのような雰囲気だったので、まだ幼いメリーベルを大層喜ばせた。

 まあフェンリルの尻尾も大いに喜んでいたのだが。水上の方が痕跡も残らないので、わざとそうしているのだが、ついでに子供向けのアトラクションになってしまった。

 まあ子供には大層厳しい旅なのだから、少しくらいは旅のお楽しみがあってもいいか。
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