デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-39 しばしの休息

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 時折は体を休ませなければいけない子供達に合わせて速度も抑えていたとはいえ、フェンリルの移動速度は十分に速かった。

 およそ、成人の足と比べて四倍の距離、子供の足ならば五倍の距離にも上る、およそ五時間で百キロメートル以上を夜明けまでに休まずに稼ぎ出した。

 アリエスも襲撃された上に十分な睡眠が取れなかったため、疲労からウトウトしていたのだが、俺が落ちないように見張っていたので、シルバーによる背中にいる乗客への気遣いも相まって落ちる心配はなかった。

 いざとなったらルーもポケットから飛び出して捉まえてくれるように打ち合わせておいたのだし。

「ふう、なんとか距離を稼げたな。
 こうしておかないと、至近で罠を張られてしまって居場所をいちいち捕捉されて、その躓く回数も増えてしまうからな」

 俺は電磁波を雲や電離層に反射させて調査し、おおよその地形や距離は把握してある。

 昨日山脈から出た時点では海岸まで約千キロメートルの地点だった。

 ここへ来る途中でアリエスに地政的な情報について確認したが、この平原と呼ばれている部分は、この大陸の三分の二を占めているらしく、そのまた三分の二以上を帝国の奴らが占めている。

 この大陸のおよそ半分を奴らの版図にしてきたわけだ。

 二つの南北に跨る大山脈で区切られた大陸の内、一番真ん中の区域に当たる西の平原と呼ばれる国は次々と奴らに併合され、この今いるサンマルコス王国を含めて残りは三か国のみ。

 そして、それは残したままに正面作戦として、電撃的な側面攻撃として東の平原の本丸アーデルセン王国を落としていったわけだ。

 まあバックとなる東の平原の国々を落とされたら、こちら側の西の平原に残っていた三国も帝国軍から挟み撃ちになる訳で、その方が早いという計算もあるのだろうな。

 連中は蛮族などと呼ばれながら、なかなか頭が切れる。
 国力、特に軍事力に勝る帝国にはそのような作戦すらも余裕でやってのけられたはずだ。

 やはり海を制しているのは強い。

 まあ海を行くには多くの犠牲を生んで激しい損耗があるとの事だが、そんな事を気にする連中ではなさそうだし。

 激しく損耗させる役割の兵士は、主に併合された立場の悪い国の人間なのだろう。

 そのような真似ができるのは強い独裁政権があり、また力で反乱を抑えられるという事なのだ。

 また長らく辺境の蛮族扱いされてきて、従属的で屈辱的な扱いを受けてきた歴史が、また彼らをそのまるで長年に渡る支配への意趣返しのような激しい征服欲に駆り立てるのだそうだから、その妄執も原動力となっているので余計に始末に負えない。

「しばらく、ここで休んでいくか」

「いいの?
 もっと離れた方が安心できそうだけど」

「俺達はよくても、お前達の体がもたぬ。
 しばし休んでから昼中は五刻の間、駆け通す。

 それで海までの直線距離の三割、まあ実際の道程の二割少しの行程を確保できるだろう」

「わかった。
 じゃあありがたくそうさせてもらうわ」

「ああ、食事をしてゆっくりと一刻ほど休め」

 道から少し入った場所に広い平地があったので、そこに敷物を敷いただけの簡易な陣地を設営し、ルーが簡単に食事を用意した。

 あまり匂うと誰かに見つかるといけないので、暖かい食事がよかったのだが出来合いのイモや木の実にサラダなどの食事で済ませ、お茶だけは暖かい物を用意した。

 山岳山羊の毛皮の布団を敷き、暖かい犬を枕に同じく毛皮製の屋外用の掛け布団を被せてやったら、子供達はあっという間に眠りについた。

 シルバーも眠りについたが、こいつは常に聞き耳を立てており、探索の魔法もパッシブに作用しているので、何かあれば瞬時に飛び起きてくれる。

 人間のように寝ぼけている事はない。

 俺の魔神脳に至っては起きている間にイルカのように自動的に半分ずつ随時メンテしてくれるので特に眠る必要がまったく無いし、体も眠らなくても回復させられる無敵の魔神ボディだ。

 寝るのは、まあ趣味みたいなものだな。
 人間の頃の習慣が抜けないのだ。

 そして人間と違い本来ならば必要もないのだが、何故か夢を見る事もある。

 大概は転生前の日本の夢なので、それは記憶や情報を整理するためというよりも、文字通り故郷を夢見る郷愁という奴なのだろう。

「ふう、時間との競争になるのだが、一度は十分な休息を取らせないとこの子達の体が参ってしまうな。

 あの街で、せめて一晩ゆっくり寝られれば、かなり疲労が違ったはずなんだが。
 この先も街に入るのは厳しいしなあ」

「そいつはしょうがないわ。
 ちょっと哨戒も兼ねて食料になりそうな物を採集してきます。

 その子達が買って来た分だけだと長引いた時に、人間用の食糧がこの先心許ないかも」

「ああ、構わないが十分に気を付けてくれ」

「わかってます。
 このポケットサイズのままでも、食材の探索や魔法による掘り出しなんかは可能だし」

 そして、子供のポケットに入るほどのサイズのガルーダは出かけていった。

 パッと見ただけでは魔物だとは気づくまい。多分、鳥かなんかだと思われるはずだ。

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