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第一章 孤独の果てに
1-29 辺境の街ローエングリム
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その街ローエングリムは、辺境のごくありふれた、うらぶれた街の一つだった。
本来、このサンマルコス王国は隣国アーデルセン王国との境になっているような山脈や長い海岸沿いに張り付くような按排でL字のような形になっている国家だ。
特に海運などに力を入れており、また主たる街道は海沿いに発展しているため、交通の要衝でもない北方の街は、せいぜい国がそこまでありますよというくらいの意味でしかない。
寂れているが故に表の産業は少なく、また領主も正式な者は置かれておらず、代官が置かれているだけで好きにやりたい放題であった。
そのため治安もあまりよくなく、袖の下次第で悪党もお目こぼしされているのであった。
それをよしとしない街の者も少なからずいるのであったが、いかんせん権力者からして腐っているのでどうにもできず、また周辺の村にとってもここが中央からの物流拠点として命綱でもあった。
そのような事情で街の現状を憂えている人々の中の一人でもある、街の青年団ともいえる自治組織、ローエングリム青年騎士団の副団長であるハリオス・セイデンはその少女達を見つけた。
なんと、街一番の悪徳宿である札付きのロッシェムの宿へ入ろうとしているのだ。
思わず早足で駆け寄って、その華奢な肩を掴んだ。
息を切らせながら、彼はアリエスに声をかけた。
「おい、お前ら。旅の者か?
そこがどういう宿なのか知っているのか。
この街一番の極悪宿、札付きの中の札付きであるロッシェムの宿だぞ。
そんなところへ女の子だけで入ったら、どうなると思っている?
お前達、親はどこだ。
まったく、こんな子供だけをこの街で放っておくなんて」
思わず、うわーっという感じに顔が歪むアリエスだったが、か細い声で答えた。
「あの、ちょっと事情があって子供二人で旅をしているのです。
今夜泊まるところを探して、もう十軒目なのですが、多分ここが最後の宿だと思うのだけど、今までの宿が全部怪しい感じだったので……」
それを聞いて思わず額を抑えながら天を仰ぐハリオス。
「ああ、帝国のあの呪わしき神アルクスに賭けて、君達はまったくもって賢いよ。
まさに君のいう通りだ。
住人として恥ずかしいとしか言いようがないが、この悪徳の蔓延る街にまともな宿なんか一つもありはしないよ。
君達みたいな女の子なら外で野宿した方がまだ安心なくらいだ。
よく話がわかっているのならそうするのだろうし、そもそも事情を知っている女の子ならこんな辺境の街にわざわざ来るものか」
今度はアリエスとメリーベルが天を仰ぐ番だった。
「どうしよう、メリーベル。
予想以上に状況が悪いわ」
「どうしようたってどうしよう、お姉ちゃん」
困った姉妹は二人でこそこそ話をしていたが、不審に思ったハリオスが問い質す。
「君達はどこから来たのだい。
見たところ、怪しい者ではなさそうだが。
ああ、申し遅れた。俺はこのローエングリムの治安維持のために活動する、住人による自治組織ローエングリム青年騎士団の副団長、ハリオス・セイデンだ。
どうしても、ここに泊まらなければならないのなら、うちの女性団員の家を紹介しよう。
そこも昔は宿を経営していたのだが、賄賂を要求する代官になびかなかったので潰されてしまったのだ。
彼女も連中にかどわかされそうになって我々が救った縁で彼女はうちの団にいる。
あの子はそういう身の上だし、君達は女の子だから彼女も親身になってくれるだろう」
「う、うーん」
治安維持組織か。
よく見れば軽装の鎧のような姿で、腰には御大層なものではない古いありきたりのものだが剣を下げている。
もしこの人物が帝国に通じていたら最悪だ。
しかし、帝国の神を呪わしいと言ったし、この街の支配者とは対立しているようだ。
そしてルーがテレパシーでアリエスにそっとアドバイズしてきた。
「彼の言葉に甘えなさい。
彼は悪い人間には感じない。
どちらかといえば、ジンに近いタイプのいい人よ。
万が一の時は、あなた達を抱えて私が飛べる。
それをやると大騒ぎになってしまい、敵に居所がバレるけどね。
それに、あまり無防備にウロウロしていると敵の間者に見咎められるわ。
フードで顔を隠していても、探している連中に見られればバレバレだから。
あんた達は目立つ。
この辺境の街で年端も行かない女の子二人組なんて聞き込みされれば一発で露見するわ。
それに、あなた達には例の『御守り』があるでしょ」
「うん、わかった」
「でも気をつけなさい。
正体が露見するような迂闊な言動は避けるように」
「了解」
本来、このサンマルコス王国は隣国アーデルセン王国との境になっているような山脈や長い海岸沿いに張り付くような按排でL字のような形になっている国家だ。
特に海運などに力を入れており、また主たる街道は海沿いに発展しているため、交通の要衝でもない北方の街は、せいぜい国がそこまでありますよというくらいの意味でしかない。
寂れているが故に表の産業は少なく、また領主も正式な者は置かれておらず、代官が置かれているだけで好きにやりたい放題であった。
そのため治安もあまりよくなく、袖の下次第で悪党もお目こぼしされているのであった。
それをよしとしない街の者も少なからずいるのであったが、いかんせん権力者からして腐っているのでどうにもできず、また周辺の村にとってもここが中央からの物流拠点として命綱でもあった。
そのような事情で街の現状を憂えている人々の中の一人でもある、街の青年団ともいえる自治組織、ローエングリム青年騎士団の副団長であるハリオス・セイデンはその少女達を見つけた。
なんと、街一番の悪徳宿である札付きのロッシェムの宿へ入ろうとしているのだ。
思わず早足で駆け寄って、その華奢な肩を掴んだ。
息を切らせながら、彼はアリエスに声をかけた。
「おい、お前ら。旅の者か?
そこがどういう宿なのか知っているのか。
この街一番の極悪宿、札付きの中の札付きであるロッシェムの宿だぞ。
そんなところへ女の子だけで入ったら、どうなると思っている?
お前達、親はどこだ。
まったく、こんな子供だけをこの街で放っておくなんて」
思わず、うわーっという感じに顔が歪むアリエスだったが、か細い声で答えた。
「あの、ちょっと事情があって子供二人で旅をしているのです。
今夜泊まるところを探して、もう十軒目なのですが、多分ここが最後の宿だと思うのだけど、今までの宿が全部怪しい感じだったので……」
それを聞いて思わず額を抑えながら天を仰ぐハリオス。
「ああ、帝国のあの呪わしき神アルクスに賭けて、君達はまったくもって賢いよ。
まさに君のいう通りだ。
住人として恥ずかしいとしか言いようがないが、この悪徳の蔓延る街にまともな宿なんか一つもありはしないよ。
君達みたいな女の子なら外で野宿した方がまだ安心なくらいだ。
よく話がわかっているのならそうするのだろうし、そもそも事情を知っている女の子ならこんな辺境の街にわざわざ来るものか」
今度はアリエスとメリーベルが天を仰ぐ番だった。
「どうしよう、メリーベル。
予想以上に状況が悪いわ」
「どうしようたってどうしよう、お姉ちゃん」
困った姉妹は二人でこそこそ話をしていたが、不審に思ったハリオスが問い質す。
「君達はどこから来たのだい。
見たところ、怪しい者ではなさそうだが。
ああ、申し遅れた。俺はこのローエングリムの治安維持のために活動する、住人による自治組織ローエングリム青年騎士団の副団長、ハリオス・セイデンだ。
どうしても、ここに泊まらなければならないのなら、うちの女性団員の家を紹介しよう。
そこも昔は宿を経営していたのだが、賄賂を要求する代官になびかなかったので潰されてしまったのだ。
彼女も連中にかどわかされそうになって我々が救った縁で彼女はうちの団にいる。
あの子はそういう身の上だし、君達は女の子だから彼女も親身になってくれるだろう」
「う、うーん」
治安維持組織か。
よく見れば軽装の鎧のような姿で、腰には御大層なものではない古いありきたりのものだが剣を下げている。
もしこの人物が帝国に通じていたら最悪だ。
しかし、帝国の神を呪わしいと言ったし、この街の支配者とは対立しているようだ。
そしてルーがテレパシーでアリエスにそっとアドバイズしてきた。
「彼の言葉に甘えなさい。
彼は悪い人間には感じない。
どちらかといえば、ジンに近いタイプのいい人よ。
万が一の時は、あなた達を抱えて私が飛べる。
それをやると大騒ぎになってしまい、敵に居所がバレるけどね。
それに、あまり無防備にウロウロしていると敵の間者に見咎められるわ。
フードで顔を隠していても、探している連中に見られればバレバレだから。
あんた達は目立つ。
この辺境の街で年端も行かない女の子二人組なんて聞き込みされれば一発で露見するわ。
それに、あなた達には例の『御守り』があるでしょ」
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「でも気をつけなさい。
正体が露見するような迂闊な言動は避けるように」
「了解」
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