デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-26 雪山の王

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「よし、そっちがその気だというのであれば、こっちにだって考えというものがあるぞ」

 俺はその場で大量の魔力を練って、ぐいぐいと更にそれを大きくしていった。

 だが、魔力の流れをも捻じ曲げて隠蔽しているため、その強大な嵐のように荒れ狂う強烈な魔力の渦も完全に隠匿されていた。

  そして、テレパシーでルーに頼んだので俺達の周りには穏やかで暖かな空気が流れているが、あちこちに猛然と激しい吹雪が巻き起こっていた。

 それは俺達の姿を上空から隠してくれ、吹き荒れる風は何体もの魔獣を地上へ猛烈な勢いで叩き落として仕留めていった。

 慌てて影響範囲内から逃げようとしていた奴らも、俺が氷魔法でまったく違う場所から発射して狙撃し、串刺しにして仕留めていったので、これまでに確認できていた十体は全て、彼らを操っていたライダーもろとも完璧に仕留めた。

 二重の罠で、別動隊として隠密していた奴がいたかもしれないが、そいつらも捜索を断念して引き返さざるを得ないほど強烈な冬の大嵐だ。

 そして、俺はこの山岳地帯の厳しい道程を亀の歩みで抜け切るまでの二週間というもの、ただの一度もこの氷雪魔法を解除する事はなかったのである。

 もちろん、その間は帝国の捜索隊も地空共にどうする事もできなかった。

 このアルブーマ大山脈を根城とする、雪山怪獣のような俺様を敵に回すからそういう事になるのだ。

 そして長く苦しい彷徨の末、ついに越えられた山脈の端から眺められる雄大な山向こうの世界の景色にアリエスの顔も綻んだ。

「わあ、ここがサンマルコス王国なのね。
 よかったわ、あの大山脈を無事に越えられて」

「安心するのはまだ早いぞ。
 このアルブーマの険しい連峰は、これまで俺達の目立つ姿を敵から覆い隠してくれていた。

 それが、ここから先はないのだからな。
 俺達はここから常時隠密していかないといけないだろう。

 それとて、まだ容易い芸当に過ぎない。
 ここはまだ帝国の版図ではないが、この国の目と鼻の先の港に帝国軍が拠点を築いてしまっているのだから、今にも陥落したとておかしくはない。

 そして敵は我々が山脈を越えて、ここを目指していたことを知っている。
 その上、お前が目指す先も目星をつけられてしまっている事だろう」

 それに対しアリエスは頷き、眼下の新天地に向けて白い溜息を吐いた。

「悲しいかな、私達の係累で平原の外の国にいるのは、あの叔母だけ。

 そのことはあの皇帝や皇太子にも知られているでしょうね。

 後は平原の国にしかいないし、その殆どが帝国に下ったから無事な人もあまりいないの。

 いたとしても、帝国の元にいるのでは私達の力になってくれるような人は誰もいないわ。

 その他の国にいる人も難しい顔をするでしょう。

 何より、私達を受け入れた国は真っ先に帝国の進軍に晒される事になるでしょうし。

 たとえそれが和睦を望んで帝国の下についてもいいと思っている国でも容赦なく力づくで踏み潰されるわ」

 なるほど、それは厳しい。

 それでは、この子達の味方になってくれる国は少ない、いやそれどころか皆無だろう。

 これから頼ろうとしている国でさえ危ぶまれるな。
 だがそれは言うまい、この子にもそれは十分わかっていよう。

 だがそこへ行ってみる以外の選択肢は現在の彼女達にはないのだから。

 もう既に帝国が件の伯母上が王妃をしているという国へ密書でも届けて先方に揺さぶりをかけていたっておかしくない情勢なのだが。

 だが、お前達よ忘れるな。
 ここに少なくともお前達の味方をしてくれる者が、たった一人だけでも亡国の王女のための強大な騎士がいるのだからな。

「とりあえず、あそこに見える大きな街を目指してみるか。
 お前達には休息と物資の補給が早急に必要だ。

 今までは山中につき、どうにもしようもないので我慢させていたが、食事だってパン一つない有様なのだからな。

 お姫様暮らしのお前達には随分と堪えた事だろう。
 だが街へ正規に入れるのは、お前達だけだ。
 大丈夫か」

 この大丈夫か、という言葉には敵の手の他に、いきなり街へ放り込む事となった世間知らずのお姫様に対する危惧があったのだ。

 アリエスもそれはわかり過ぎるほどわかっているのだろうが、まあ慣れてもらうしかないな。

 この子だって、なかなかのしっかり者のようなのだし、見たところそこまでポンコツではあるまい。

 世間知らずなのは、生まれてこの方王宮暮らしならば致し方が無い。

「が、頑張るわ。
 いざとなったらルーも一緒にいてくれるのだし」

「だが、いらぬ騒ぎはマズイぞ。
 わかっていような、追われる者よ」

「わかってる、と言いたいところだけど、少々自信がないわ」

 俺としても非常に心許ない。

 俺とて、この世界では人間の街にて暮らした事など一度もないのだから、このシーンでの的確なアドバイズもできない訳なのだし。

「ねえ、僕は。僕は~」

 尻尾を振って一緒に街までついていきたそうにしている、うちのワンコがいたのだが、さすがにそれはな。

 こいつだけだと俺のような特殊な隠密は使えないし、飼い犬だと言い張るにも些か無理なサイズだ。

 犬らしい芸なんかは、かなり教え込んで覚えさせておいたのだが。

「そいつは駄目だ、お前が二人のお供のうちの一匹だという事は敵にバレている。
 だが、いざとなったら頑張って助けに走れ」

「あい、お父さん」
 かくして、俺達一行は人間の街を目指す事となった。
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