デビルナイツ・ジン

緋色優希

文字の大きさ
上 下
13 / 59
第一章 孤独の果てに

1-13 厳冬山岳の籠城

しおりを挟む
「グーバンガルフ」
 朝の陽光に目覚めた小鳥が鳴くような涼やかな少女の声に、俺は振り向いて自然な笑顔を見せた。

「グーバンガルフ、アリエス。
 気分はどうだ」

「ありがとう、平気よ。
 でもメリーベルは少し参っているみたい。

 なんていうか、お友達というか弟みたいに可愛がっているシルバーが、あんな風に無残にやられちゃったのが凄くショックみたいで。

 心配でしょうがないのよ」

「ああ、無理もない。

 厳しい逃避行が続いた中で、まだ幼い自分にもっとも近しいような存在に出会って、やっと心が緩みかけたところでこんな事になってしまったのだからな。

 すべては俺の不徳が招いたものだ、許せアリエス」

 だが、彼女はくすくすと笑って近寄ってくると俺の下側の左手を取った。

「どうして、ジンはそんな風に自分を責めるの。
 あなたは私達のために、あんなに一生懸命に戦ってくれて、今も皆を護ろうとしてくれているのに。

 世界一強くて、世界一優しくて、世界一誇り高く気高い、私達の魔神の騎士」

 そう言って、アリエスはそっと俺の手の甲に、まるで大切な物にするかのように何度も頬ずりした。

 その寄せられた心に俺も思わず心が熱くなった。
 なんとしても、この子達を親族の元に送り届けてやらねばなるまい。

 この異形で、何者からも受け入れられぬ魔物の俺をこうも慕ってくれる、この子達を。

 どうせ人ならぬこの身なのだ、異界から迷い込んだ魂は同じ魔物からさえも異形の物と見做されるだろう。

 おそらくは何物にも相容れられないだろうよ。
 俺の孤独は生涯尽きまい。

 そしていつかは勇者だの最強冒険者などという輩達に、ただの化け物などという扱いで狩られてしまうかもと思っていた。

 それくらいならば、この命、この異形を友と呼んでくれる小さな者達のために喜んで使おう。

 だが、そう易々とこの首は獲らせはせん。
 何故なら、この子達はまだ旅の鳥羽口にさえ立っていない。

 陸路なり海路なりで、親族の待つ目的地への算段が付いて、初めてこの子達の旅は始まったと言えるのだから。

 今はただ逃げ回って彷徨っているだけの状態なのだ。
 まずは全員で生き延びる。話はそこからだ。

「アリエスよ、今この世界はどうなっている?

 俺はその手の事にはあまり関心を払ってこなかった。
 知ったところで特に関わる事もないだろうからな。

 挑んできた冒険者から様々な話は聞かせてもらったのだが、政治や国家体制のような世界情勢は皆目わからぬに等しい。

 お前の国は大国だったか?
 お前の国を滅ぼしたという帝国とやらは強いのか」

 アリエスは少し口籠った。

 なんというか、話したくないとかいうのではなく、何から説明したものかというような様であった。

「それでは話は朝食を摂ってからにしよう。
 いきなり敵が現れたならば、飯を食いっぱぐれるぞ。
 メリーベルも起こしてきなさい」

「そうね。
 この前も出がけに敵がわんさかと来ちゃったものね」

 そう言って彼女は妹を揺さぶって起こしていた。
 ルーは食事の用意をしてくれている。

 寝ぼけ眼をこすりながらメリーベルは起きてきて、ほぼ出来合いの食事を始めた。

 子供達は白雪で彩られた屋外のオープンテラスの中で、ただの木材を切り出したようなテーブルセットの上で定番の食事を始め、俺は雪の上に胡坐をかいたまま山羊の肉を齧った。

 内臓に一撃もらってまだ弱っているシルバーには生肉ではなく、肉入りのスープが与えられ、奴ものそっと起き上がり伏せのような体勢を取った。

 毒弾は既に取り出してあり毒はもう抜けているし、体も回復させたので別にシルバーもまったく動けないわけではない。

 だが弱ってしまったあの子は以前の体を取り戻すまでに少し時間を要した。

 だから俺は移動せずにここで待っているのだ。
 新たな敵の攻撃を。

 もう追撃者の存在はバレているから奇襲はしてくるまい。
 敵は焦ってはいない。

 むしろ、物量作戦で動きの取れない状態の俺達を押し潰そうとしてくるだろう。

 俺は腹を括ってそいつを待ち受けて、大群相手に痛恨の一撃をくれてやろうというわけなのだ。

 できたら昼中に大軍勢が来てくれると非常にありがたい。
 一応考えている策はあるのだが、そいつが使えるかどうかは時間が鍵となる。

 まあなければないで、こちらも物量というか、俺の圧倒的な攻撃で広範囲の面制圧を行うまでだ。

 幸いな事にこの山岳地帯は無人に等しいので、というか完全に無人地帯だから死ぬのは奴らだけなので都合がいいといえば都合はいい。

 無関係な人間は絶対に巻き込みたくないのだ。
 それもあって戦場にこの無人地帯を選んだ。

 ここで徹底的な戦いを演じて俺の力を示し、有人地帯で奴らが簡単に手を出せないようにするためだ。

 ここはまだアリエス達の占領されてしまった国の中にあたるので奴らも大っぴらに行動できるのだが、この険しい山岳地帯を抜けてしまえば他国の領土での戦争となる。

 そいつらがまた帝国の味方であるなら厄介な事になるのだが。
 そういう事もあってアリエスと話がしたい。

 とにかく、ここでの一戦が俺達の運命を死と生、あるいは虜囚とに分かつだろう。

 別に俺が殺人狂な訳ではないが、無体に軍勢で追い詰めようというのであれば、こっちだって黙ってやられるわけにはいかない。

 もう死にたい奴だけかかってこいという感じだった。
 なんで、こんな事になってしまったのかねえ。

 まあ軍勢を相手に十分に戦える力があるだけまだマシなのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

処理中です...