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第二章 王都へ

2-12 お披露目

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「ほう。あれをか。それは何故なんだね」
「はい、私の家臣にあれを返してやりたいのです」

 さすがに王様も妙な顔をする。二歳の村人に家臣とは。それに「返す」という単語にだ。

「家臣とな」
「はい」

 彼は物問いた気に伯爵に視線を向けたが、伯爵は冷や汗を流していた。どう説明したものか内心困っているのだろう。

 俺はもう決めていたのだ。狂王達の事はいずれ伝わってしまうだろう。隠し立てはしても仕方がない。

 この王様はボンクラではなさそうだ。こちらの事は調査済みなのに違いない。だったら、あれを狂王のためにもらっておいてやろうと。

「その家臣とやらは、どこにおる?」
「ここに」

「ここだと」
 さすがに王様も理解できなかったようだ。そして言った。

「その者を呼ぶ事はできるのかな」
「はい。でもよろしいので?」

「構わぬよ」
 えー、いいのですかと狼狽する挙動不審な伯爵。それにチラっと目をやった王様。

「それでは遠慮なく。狂王、おいで」
 そして、その場に現れた大巨人。大広間はすさまじい怒号と叫び、殺到する護衛の兵士のざわめきに満ちた。

「静まれっ」
「しかし、王!」

 だが、そこには恭しく片膝をつく、目立つ赤や金で彩られた房付きの従魔証を首にかけた狂王と、同じく膝をついたまま頭を抱えている伯爵がいるのみであった。俺は狂王の傍に行くと、よじ登って頭を撫でてやった。

「これが僕の従者、狂王です。さっき言った魔核の持ち主だったものです」

「魔核の持ち主とな。それでは、まさか」
 俺は目いっぱい悪戯っぽい感じに笑って、狂王の肩に座り胸を張った。

「はい、これがその時の賢者、僕が狂王と名付けたものです」
「しかし、お前はそれを倒したのではなかったのか」

 まじまじと、狂王を見ながら王様は更に訪ねてくる。周りの兵士はどうしたものかと様子見状態だ。

「はい。倒しましたが、彼はティムとなり甦ったのです。そして、今では僕を主と崇めてくれるのです。僕は主として彼に報いたい。他の子達は皆僕に魔核を捧げてくれた。こいつにもそうさせてやりたくて。一人だけ魔核が無くて可愛そうなのだし」

「他の子だと⁉」
 俺は笑って呼び掛けた。

「ばあや、それと従魔証を持った者、出ておいで」
 そして現れた四体のティム。

「そやつらは何だ。ティムが五体もいるのだと?」

「ああいえ、彼らは同期と呼ばれるティムの一種なのです。彼らは狂王と深い絆で結ばれた部下達です。そういう時に起きる現象だそうで」
 それを聞き、再び謁見の間がざわめいた。

「ティム! しかも、なんという巨大さか」
「同期だと! 神話の世界の出来事ではないか」

 そして身を震わせた王様は爆笑した。
「うわっはっはっは。まったく、とんでもない小僧だな。ティムを五体も持つのだと」

「いえ、国王陛下。お前達、みんな出ておいでー」
 そして、うわーっという感じに湧いて出た六千二百体のティム達。大広間はすべて奴等で埋め尽くされた。

「こ、これは!」
「みんな、僕の従者なのです。みんな働き者ですよ。主人の躾にも熱心なのが玉に瑕なのですが。みんな、国王陛下の御前だから頭を下げて」

 この有様を見て、さすがに兵士達も色を失ったが、その大量のティム達は、跪き頭を垂れたので呆然と推移を見守っていた。王様はこの期に及んでも動じてはおらず、組んだ足の上で頬杖をついていた。

「なんともはや、これは愉快爽快。あり得ぬなあ。この軍勢を二歳児が有するのだと? これらならば、いかなる国も落とせようぞ。まさに神話の中の軍勢だな」

 そして、しばしその光景に見とれていたが、彼はやおら立ち上がると指を鳴らした。あまりの光景に、おっかなびっくり近寄って来た小姓は申し付けられた用を果たしに駆けていった。

「してアンソニー。それらを持って何をするつもりだ」
 今までとはうって変わって、真剣な様子で訊いてくる王様。

「いえ特に。とりあえず、畑の草むしりを一緒に」
「なんだとっ」

「ええ、ですから畑の草むしりを一緒に。何せ辺境の村の農家の末っ子でございますれば。でも王様、もうすぐ可愛い妹が生まれるのでございます。うちの母も身重ですので、もう畑仕事にも出られないものですから助かります」

 一瞬ポカンとする王様。しかし、続けて訊いてくる。
「この神話の軍勢を率い、一緒に畑の草むしりをするだけだと」

「いえ、他にも仕事はたくさんあるのですが、彼らは有能ですからきちんとこなせるでありましょう。逆に陛下にお聞きしたいのでありますが、辺境農家の二歳児に他に何をすればよいのだと?」

「いや、そう言われてしまうと、私も困ってしまうのだがねえ」

 どうしたものかと、その光景に眉を顰めたままの王様と、相変わらず頭を抱えたままの伯爵がいて、俺は狂王の肩をソファ代わりにしている。いつの間にかミョンデ姉も、ちゃっかりとばあやの肩に座っていた。
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