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第二章 王都へ

2-11 謁見

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 王宮の中も広かった。兵士の後についていきながら辺りを見回したが、天井も高さ十メートルくらいはありそうだ。



 地球の王宮はもっと天井が低いはずだ。どちらかというと、大富豪の家みたいな感じで。ヨーロッパの城なども比較的こじんまりしている事が多い。



 元は戦時の砦なので城郭などは立派にできていて外は広いが、中は案外と狭い事は多いように思う。海外旅行も女連れでよく行ったよ。



 奴ら、お城というと絵本の中のものを想像してロマンティックな物と思っていくのだが、どちらかというと遺跡とか文化財といった側面が多く、少しがっかりさせられるようだ。



 テーマパークのお城のイメージがあるのだろうし、雑誌で紹介される豪華な雰囲気の外観写真が目を引くからな。



 ああいうものは迂闊に購入すると文化財貧乏になる可能性が高い。あれは維持するのが大変で、日本人でもフランスでシャトーを所有し大変な手間をかけて維持してフランス政府から文化功労で表彰されていたような人もいたな。



 現代でも城を維持するというのは、それほど大変なのだ。ヨーロッパのお城も、昔の現役時代は今みたいに小綺麗にしていたわけではないだろうしな。軍事基地なので焼け落ちてしまう事も多かっただろう。



 どちらかというと、平和な時代に建てられた王宮の方が素晴らしい。観光のため公開されている事も多いので綺麗に整えられているし。



「ここは魔法で建築され維持されているのですね」

「そうだよ、坊や。特に王宮建築や維持は専門の王宮魔法士が指揮を執っている専門の部署があるんだ。他にも離宮などもあるしね」



「それはきっと、国王様ではない王族や公爵様などが住む場所なんでしょうね」

 兵士は目を瞠って、俺の博識を褒めてくれた。



「ああ、その通りだ。坊主は小さいのに物知りだな」

「神父様が本をたくさん持っていますし」



「はは、本を読むのはいい事だ。頑張れよ、坊主。伯爵、まだ時間があります。この先の待合室で待っていただきますよ」

「ああ、ありがとう」



 そして俺達は待合室で出番を待つ事になった。だが、それは幼児に取り思いのほか退屈な時間だったのだ。大はしゃぎしているわけにはいかないのだからな。そして、しばしの時が過ぎた頃。



「アンソニー、おいアンソニー。ミョンデも」

 少し焦った声の伯爵に揺り起こされて起きる俺とミョンデ。目を擦りながら訊いた。



「あれ、伯爵。もう朝御飯なの」

「ば、馬鹿者。今から王と謁見だ。お前ら、その眠そうな面をなんとかしろ。まったく、なんという肝をしておるのだ」



 おっと、いっけねえ。上等なソファの座り心地がとってもいい具合だったので、お互いを枕にして俺とミョンデ姉は寝てしまっていた。



「ふわあ、仕方がないよ、伯爵。こればっかりは親譲りなもんでねえ」

 主に女親からのね。



「やれやれ、では行くぞ」

 伯爵自ら俺達の服装を整えて、苦笑する兵士の後に続いて控室を出た。



 いくつかある控室のドアの対面に大きな扉の謁見の間の入り口の大扉があり、警備兼開閉係の兵士が扉をあけてくれた。窓のない魔法ランプだけの待合ホールと異なり、謁見の間は陽光の溢れる光に満ちた大広間だった。



「おー、なかなかの物だなあ」

 俺は小声で口に出しながら伯爵の後をついていった。



 ちらっとミョンデ姉を見たが、太々しく歩いてきている。これが初めてG1レースに出てきた若駒の人気サラブレットのように『足取り確か』と評してもらえそうなくらい、しっかりした足取りで。我が姉ながらたいしたもんだ。かく言う俺だって飄々としているんだが。



「ブルームン伯爵とブックフィールド家の人間をお連れしました!」

 きびきびとした兵士の声に王様も満足そうに頷いた。



 なるほど、威厳はあるのだが優しそうな人だな。まだ三十代の後半といったところか。あごひげではなく、黒々とした口ひげを生やしている。



 俺達は教わった通りに伯爵に倣って、膝を着いて顔を伏している。今のところは上出来だ。まあ大きなミスが無ければいいのだ。村人幼児なのだから、少々ぎこちなかったりするのは多めに見てもらえるだろう。



「面を上げよ」

 そして、俺達は顔を上げた。王様の隣には、まだ二十代と思われる王妃様が座っていた。



 彼らは威厳を放ちつつも、豪奢だが落ち着いた作りの玉座に比較的ラフな感じの姿勢で座っている。子供が相手だから緊張しないように、わざとそうしてくれているのかもしれない。



 宝石で金ピカに仕上げてもいなければ金細工の装飾でもない。控えめだが、趣味良く最高の設えになっている。これはなかなかの物だった。国の格を表すのに相応しい作りだ。



「ブルームン伯爵、いろいろご苦労であった」

「は、ありがたきお言葉」



「そちらの子供達が例の?」

「は、アンソニー・ブックフィールドと姉のミョンデ・ブックフィールドにございます。何分、アンソニーはまだ幼きゆえ姉も連れてまいりました」



 はは、伯爵も言い訳が苦しいよな。そういう役なら親か、せめてエマ姉でないと務まらないもの。



「アンソニーよ。お前がゴブリン・スタンピードを止めたのだと」



「はあ、恐れながら申し上げます。実際には冒険者チームと共にですが。何しろ、二歳児でございますゆえ、一人で移動もままなりませんで。あとサポートしてくれる者がいないと、さすがに幼児一人で国難の排除など無理な芸当でございます。



 恩賞などございますようであれば、是非チームマリアと、殉死したチームアラビムへの配慮などもありますれば幸せに存じます」



 それを聞いた王様は途端に高笑いを始め、伯爵も驚いた様子だった。



「はっはっは。いや、聞きしに勝る大人ぶりよのう。報告書通りの子供だわ。これが二歳、しかも辺境の村人の子とは。いや愉快すぎるぞ、なあ妃よ」



「まったくでございます。これアンソニーよ。何か欲しいご褒美とかはないの?」

 美しい王妃様も楽し気に御笑いになっている。それを聞いて、ミョンデ姉は期待に目を輝かせている。



 俺は片膝立ちのまま、顎に手をやって難しい顔をしてみた。別に今考えているわけではない。もし、こういう事を言ってもらった場合の事は考えておいたのだから。ちょっと言ってしまっていいのかなと思っただけで。言うだけ言ってみようか。



「それでは、恐れながら国王陛下へ申し上げます。もし、よろしければ、本当によろしければの話でございまするが。私が倒した賢者の魔核をいただけないものでしょうか。おそらくは王都に送られているはずなのですが」



「ふむ」

 国王陛下は、これまた少し考える風なご様子だった。



 ミョンデ姉ったら、「あんたは一体何を考えているのよ、せっかくのご褒美の機会に!」とでも言いたそうな顔で、これまた驚愕を顔に張り付けていた。



 えーい、うるさい。俺には主としてやらなければならない事があるのだから。



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