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第一章 渡り人
1-33 野営
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それから貴族様ペースで、ゆったりと進み、俺と叔父さんで先行してあたりをつけておいた野営地に行き、あっというまにキャンプベースを構築した。
手慣れた作業なので、あっという間に、なかなかの寝心地の寝所が完成した。草にもいろいろ種類があって、クッション性が異なるので、うまく組み合わせると寝心地は最高なのだ。
乾いた布や引き抜いてきた青草などで素晴らしい寝心地だ。木の枝でフレームを組み、そこに乗せて組み込んでいく。雨濡れの心配などはない。
俺は天気予報士のスキルがあるので、何故か気象庁の情報とかなくても正確な天気予報が可能だ。おそらく魔法で代わりをやってくれているのだろう。気象衛星による予測よりも正確だぜ。間もなくお客様も到着した。
「本日は晴天なり。あー、本日は晴天なり」
「あー、確かに晴れちゃあいるが、それがどうかしたのかい?」
叔父さんから軽く突っ込みが入った。マイクテストなんて、この世界に無いからね。
「あ、なんでもないです。ちょっと言ってみただけ」
貴族二人が不思議そうな顔をしているが、叔父さんが笑って説明してくれる。
「この子の天気予報は、はずれた事がなくてね」
「ふふ。山の天気は変わりやすいですからね。僕を連れていると大変便利なのです。なお。帰りは気合を入れて帰らないと雨の中で御泊りになりますです、ハイ」
「本当に変わった子だね。まあそれなら明日は気合を入れていくか。用事を済ませてから帰り道で御泊りにしよう」
領地の山間部の天気の変わり方をよく知る領主様が妙な感心をしつつも、そう言った。
「多分、その方がいいですねえ。じゃあ、叔父さん。先に調理を始めていてください。残りの食材を調達してきますので」
「そうか、任した」
「いや、本当に生活力のある幼児だな。本当に二歳なのか、そいつ」
叔父さんは笑って伯爵に、木の枝や草で作った即席のテーブルセットに座るように勧めた。
「まあ、我々は慣れてしまいましたが、よく知らない人が見たら驚くのかもしれませんね」
「いや、その図体だけでも十分に驚きなんだがねえ」
そんな事を言われても、自力で能力を強化した生体サイボーグみたいな幼児ですから。とりあえず、食料は適宜に採集して速やかに帰還した。
「じゃあん!」
そう言っておじさんに見せびらかしたのは鹿!
「おやおや、お前ったらいつの間に一人で鹿を仕留められるように?」
「叔父さん、今更そんな事を言いますか」
「う、あ、そうだな」
うちのロバが笑って叔父さんの肩をポンポンと叩き、他の冒険者達も笑っていた。
何しろ、一人でなかったとはいえ、あの狂王に止めを刺した二歳児なのだ。叔父さんも見ていただろうに。
鹿はそれほど手強くはなかったぜ。ただ、革に傷をつけないように倒し方に非常に気を使ったね。まずフラッシュで足止め、それから一気に距離を詰め、山刀のスラッシュで首を落とした。
足運びも冒険者のスキルだ。これだけ派手に獲物をやるのは初めての経験なので、吹き上がる血に若干ビビったが、それでもきっちりと作業はこなした。
後ろ脚をロープで縛り、『ハンターズ・パワー』に物を言わせ、木の枝に引っ掛けてきっちりと血抜きを済ませる。
一通り血が出終わったら手早く降ろして内臓を抜き、何かに使おうと思ってそれも仕舞っておいた。首も、いつか自分が家を持った時には飾ろうと思って大事に仕舞っておく。もちろん剥製にしてだ。さすがに生首のまま家の壁に飾ってはおかない。
「そして! じゃあん」
俺が見せたのは、鹿肉専用の調味料だった。それを見て呆れる領主様と感心する伯爵。
「お前も食い意地だけならオリハルコン級だな」
オリハルコン級というのは、冒険者階級の話だ。
一等級である最高峰の冒険者は敬意をこめて、そう呼ばれるのだ。強く曲がらず、そして雇うのにも莫大な金がかかる事から、そう呼ばれる。
二歳児の体重としてなら、もう既にオリハルコン級の自負はある。そして焼き肉にスープ、ウサギの『ウサギ・シチュー専用調味料』を奢ったシチュー。
これは、はっきり言って、高価な材料を惜しみなく使っている。一回のシチューに、ウサギ丸ごと三羽分の金がかかるのだ。だが妥協する事は許されない。何せ、俺は『ウサギのアンソニー』の異名を取る男なんだぜ!
俺の饒舌な講釈を聞かされて呆れる貴族様と、気にせずにお相伴に預かる冒険者で綺麗に空気が分かれたが、貴族様も美味しい物を食べる事には反対しないらしい。
「まあ、美味しい物を食べる情熱というものはよいものさ。それが生きるという事なのだから」
「それには私も特に反対はしませんよ。しかしまあ、贅沢を言ったらキリがないですからな。日頃は倹約して有事に備えておくのはいい事だと私は堅く信じております」
笑えねえ、領主様。それは笑えねえわ。あなたの、その崇高な使命感のお蔭で、領民一同まだ生きております。心からの感謝を言葉にしたいところだが、そうなると俺のやった事を全部ゲロしないといけなくなるからなあ。
それについては全員、心が一つだったらしくて、うんうんと頷いていた。案外と通じるもんだな。
手慣れた作業なので、あっという間に、なかなかの寝心地の寝所が完成した。草にもいろいろ種類があって、クッション性が異なるので、うまく組み合わせると寝心地は最高なのだ。
乾いた布や引き抜いてきた青草などで素晴らしい寝心地だ。木の枝でフレームを組み、そこに乗せて組み込んでいく。雨濡れの心配などはない。
俺は天気予報士のスキルがあるので、何故か気象庁の情報とかなくても正確な天気予報が可能だ。おそらく魔法で代わりをやってくれているのだろう。気象衛星による予測よりも正確だぜ。間もなくお客様も到着した。
「本日は晴天なり。あー、本日は晴天なり」
「あー、確かに晴れちゃあいるが、それがどうかしたのかい?」
叔父さんから軽く突っ込みが入った。マイクテストなんて、この世界に無いからね。
「あ、なんでもないです。ちょっと言ってみただけ」
貴族二人が不思議そうな顔をしているが、叔父さんが笑って説明してくれる。
「この子の天気予報は、はずれた事がなくてね」
「ふふ。山の天気は変わりやすいですからね。僕を連れていると大変便利なのです。なお。帰りは気合を入れて帰らないと雨の中で御泊りになりますです、ハイ」
「本当に変わった子だね。まあそれなら明日は気合を入れていくか。用事を済ませてから帰り道で御泊りにしよう」
領地の山間部の天気の変わり方をよく知る領主様が妙な感心をしつつも、そう言った。
「多分、その方がいいですねえ。じゃあ、叔父さん。先に調理を始めていてください。残りの食材を調達してきますので」
「そうか、任した」
「いや、本当に生活力のある幼児だな。本当に二歳なのか、そいつ」
叔父さんは笑って伯爵に、木の枝や草で作った即席のテーブルセットに座るように勧めた。
「まあ、我々は慣れてしまいましたが、よく知らない人が見たら驚くのかもしれませんね」
「いや、その図体だけでも十分に驚きなんだがねえ」
そんな事を言われても、自力で能力を強化した生体サイボーグみたいな幼児ですから。とりあえず、食料は適宜に採集して速やかに帰還した。
「じゃあん!」
そう言っておじさんに見せびらかしたのは鹿!
「おやおや、お前ったらいつの間に一人で鹿を仕留められるように?」
「叔父さん、今更そんな事を言いますか」
「う、あ、そうだな」
うちのロバが笑って叔父さんの肩をポンポンと叩き、他の冒険者達も笑っていた。
何しろ、一人でなかったとはいえ、あの狂王に止めを刺した二歳児なのだ。叔父さんも見ていただろうに。
鹿はそれほど手強くはなかったぜ。ただ、革に傷をつけないように倒し方に非常に気を使ったね。まずフラッシュで足止め、それから一気に距離を詰め、山刀のスラッシュで首を落とした。
足運びも冒険者のスキルだ。これだけ派手に獲物をやるのは初めての経験なので、吹き上がる血に若干ビビったが、それでもきっちりと作業はこなした。
後ろ脚をロープで縛り、『ハンターズ・パワー』に物を言わせ、木の枝に引っ掛けてきっちりと血抜きを済ませる。
一通り血が出終わったら手早く降ろして内臓を抜き、何かに使おうと思ってそれも仕舞っておいた。首も、いつか自分が家を持った時には飾ろうと思って大事に仕舞っておく。もちろん剥製にしてだ。さすがに生首のまま家の壁に飾ってはおかない。
「そして! じゃあん」
俺が見せたのは、鹿肉専用の調味料だった。それを見て呆れる領主様と感心する伯爵。
「お前も食い意地だけならオリハルコン級だな」
オリハルコン級というのは、冒険者階級の話だ。
一等級である最高峰の冒険者は敬意をこめて、そう呼ばれるのだ。強く曲がらず、そして雇うのにも莫大な金がかかる事から、そう呼ばれる。
二歳児の体重としてなら、もう既にオリハルコン級の自負はある。そして焼き肉にスープ、ウサギの『ウサギ・シチュー専用調味料』を奢ったシチュー。
これは、はっきり言って、高価な材料を惜しみなく使っている。一回のシチューに、ウサギ丸ごと三羽分の金がかかるのだ。だが妥協する事は許されない。何せ、俺は『ウサギのアンソニー』の異名を取る男なんだぜ!
俺の饒舌な講釈を聞かされて呆れる貴族様と、気にせずにお相伴に預かる冒険者で綺麗に空気が分かれたが、貴族様も美味しい物を食べる事には反対しないらしい。
「まあ、美味しい物を食べる情熱というものはよいものさ。それが生きるという事なのだから」
「それには私も特に反対はしませんよ。しかしまあ、贅沢を言ったらキリがないですからな。日頃は倹約して有事に備えておくのはいい事だと私は堅く信じております」
笑えねえ、領主様。それは笑えねえわ。あなたの、その崇高な使命感のお蔭で、領民一同まだ生きております。心からの感謝を言葉にしたいところだが、そうなると俺のやった事を全部ゲロしないといけなくなるからなあ。
それについては全員、心が一つだったらしくて、うんうんと頷いていた。案外と通じるもんだな。
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