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第一章 渡り人
1-23 蹂躙の時間
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「さあ、では第一弾いきますよー。はい、そこのゴブリン幹部さん達、動かないでねー。それ、『フラッシュ』威力百倍補正で。ドンっ」
最後のドンって何⁉ 向こうは全員が、こちらに注目していたので堪らないだろう。ノーマルでも相手の視力を一時的に奪える代物なのだ。
奴らは、まともに食らってしまったようだ。光源である俺には被害が無いし、前に向けて発射されているので後ろにいる冒険者や村の人には関係がない。
俺は何というか、表示されるコマンドのイエスボタンをクリックしていくだけというか、ゲームなんかでよくある自動攻撃モードのスイッチを入れっぱなしでゲームを観戦しているような、そんな感じだった。
もうこんなものは、チュートリアル以前の問題だった。ただのデモ画面に等しい。しょせん、相手は雑兵ゴブリンの軍勢なのだ。
数を頼みに背中から騙し討ちにすればいいものを、勝ち誇ったりするから、こんな事になるのだ。同情する気にはまったくなれない。
「次は?」
俺の冷ややかというか、白けたような声が静かに響く。傍から聞いていると冷静に対応しているかに見えるのかもしれない。
「はい、お次は『風の刃』威力百倍補正でいきますよ。火は使いたくないシーンですね。火属性魔法でやたらと威力を上げると、村と森が壊滅して、明日から皆さん全員が生きていけなくなりますよ~」
「あーのーなあ。ここで、そんな物を使いやがったらぶっ殺すぞ、てめえ」
こいつ、俺を怒らせようとしているとしか思えない。
もしかして、長年出番がなくて退屈していたのか。えらい物を拾ってしまったな。こいつ、スキルないし、その説明に過ぎない存在なのに、疑似人格のような物を持っていやがるらしい。
元々、俺の能力はDNAに記録された他人の能力の情報を読み出して自分のDNAに書き写すものなのだ。
科学的な理屈から自己開発したもので、元の世界のどんな論文にも書かれていない、文字通りのオンリーワンの理論なのだ。さすがに無理があると思って卒業論文にも選ばなかったのだが。
もともとは、こんな異世界なんてところで、魔法だのスキルだのをコピーするためのものではない。このおかしなチュートリアル野郎も、ただのコピープログラムだ。
オリジナルはアイリーンの『魔法威力増大』の中に組み込まれたまま眠っている。いつか、あいつの子供、あるいはその子孫に渡り人の魂が宿って生まれてくるまで。
そして、その子がこの変な奴を解凍して起動させるまで。アイリーンと同じくDNAの中に、この『魔法威力増大』を持った一族の者がいるだろうから、そいつらも同様の条件が揃えば、こいつが発動するのだろう。考えると頭が痛くなるな。
そして、次の瞬間に地獄絵図が繰り広げられた。もれなく緑色の。俺も含めて、全員が呆然とそれを眺めていた。真空の嵐が吹き上げる。
荒れ狂う刃は、相乗効果で、おそらく数倍の効果を発揮しているのだろう。すぐに消えてしまわないで、何度も何度も切り付けまくっている感じだ。
もしかすると、渡り人が使うと補正とは別で、効果や威力にも影響があるのかもしれない。特別の魂によるものだからな。こんな補正プログラムまで用意してくれているくらいなのだから。
先頭にたむろっていた、ゴブリンキング・ゴブリンリーダー・ゴブリンメイジは全滅、そしてその後ろにいた雑魚ゴブリンも、もれなく全滅だった。
「こ、これは!」
「いや凄いな、お前。こいつはちょっと引くな」
おい、マリア。確か、あんたが使えって言ったんだよな、これ。
「あんたねえ」
この碌でなしのスキルを寄越した張本人であるアイリーンが呆れている。
呆れるのはこっちだ。よくもこんな碌でもないスキルをDNAに持っていやがったもんだなあ。自分には用もないくせに。
他の三人も、うんうんと頷いている。どうしようか。明日から俺は魔王扱いで、村に居場所が無くなるかもしれない。何が勇者アンソニーだよ、これじゃ魔王アンソニー誕生だぜ。いっそ、そっちの方向を目指してもいいか。
「うむ、はずれじゃったようじゃの」
「ええ、いませんね」
マリアとアネッサがそんな事を言っている。あいつらは。棒付きアイスじゃねえんだがな。何の話だ。
「小僧、残念ながら、この集団の中に【賢者】めはおらぬ」
ああ、そういう事か。親玉を【討ち漏らした】っていう事なのか。ちっ、むかつくな。
「となると、次は今回のような訳にはいきませんね」
「そうなるのう」
気がつくと、父が俺の肩に両手を当ててくれていた。温かい。俺はいつものように無邪気な瞳で父を見上げた。
「ごめん、父さん。しくじった。こっちにゴブリンの指揮官はいなかった。残りの半分は逃がしてしまったかも」
「ゴブリンの指揮官だと?」
父は驚いたようだ。父にとっては、ゴブリンの指揮官とは、今まさにその辺に大量に残骸が散らばっているゴブリンキングであるのだから。その団体と鋤一本で向き合っていたんだから、この人、我が親ながら凄いわ。さすがに無謀だけどな。
「用心深い奴さ。万が一に備え、部隊の半分を先行させ、自分は後方で指揮を執る。前線部隊を奇襲で壊滅させつつね。
自分で指揮を執った方が成功率は高いし、後ろから討ったんだから安全なのさ。そして今奴は考えている。あれだけの相手なのだから、今は軍を引いて、次回にまただまし討ちの奇襲をしようと。そうなると、こっちが負ける公算が強い。それに」
今のチートは今回限りのサービスなのだ。あとは俺が自分で習熟度を上げていかないと、その力に耐えられない。
チートに使用制限がつくのは、おそらくスキルが所持する人間の意志ではなく暴走するのを防ぐためだろう。
多分、地球のAIと同様に完璧なものではないのだ。初回だけは能力の使い方を学ばせるために、瞬間的にコントロールしつつ強制開放されているだけだ。
奴らに態勢を立て直されて直後に襲われたら俺は勝てないだろう。数が多すぎるのだ。この賢者の事だ。失った数さえ短期間で揃えてから万全の態勢で襲ってくるかも、いや本人は雲隠れしてしまって、永遠のいたちごっこになる可能性さえある。
「行こう、マリア。今、賢者を倒しておかないと、この村は終わる」
「その通りじゃ。坊は本当に賢いのう」
「じゃあ、行きますか」
事もなげに間髪入れずにチームの行動を決定するアネッサ。それ故彼女はリーダーなのだ。
「うわあ、あれと同じ規模の団体さんとやるんですよね」
「嬉しくないぜ」
「勘弁願いたいですね。でも仕事は請け負ったのですから」
「そうそう、最初に仕事をするのは、シーフのあんたよ、アイサ」
「へーい」
という訳で今度は俺達が追う番だ。まあ、俺は狩人。元から獲物を追うのが商売なんだがな。
最後のドンって何⁉ 向こうは全員が、こちらに注目していたので堪らないだろう。ノーマルでも相手の視力を一時的に奪える代物なのだ。
奴らは、まともに食らってしまったようだ。光源である俺には被害が無いし、前に向けて発射されているので後ろにいる冒険者や村の人には関係がない。
俺は何というか、表示されるコマンドのイエスボタンをクリックしていくだけというか、ゲームなんかでよくある自動攻撃モードのスイッチを入れっぱなしでゲームを観戦しているような、そんな感じだった。
もうこんなものは、チュートリアル以前の問題だった。ただのデモ画面に等しい。しょせん、相手は雑兵ゴブリンの軍勢なのだ。
数を頼みに背中から騙し討ちにすればいいものを、勝ち誇ったりするから、こんな事になるのだ。同情する気にはまったくなれない。
「次は?」
俺の冷ややかというか、白けたような声が静かに響く。傍から聞いていると冷静に対応しているかに見えるのかもしれない。
「はい、お次は『風の刃』威力百倍補正でいきますよ。火は使いたくないシーンですね。火属性魔法でやたらと威力を上げると、村と森が壊滅して、明日から皆さん全員が生きていけなくなりますよ~」
「あーのーなあ。ここで、そんな物を使いやがったらぶっ殺すぞ、てめえ」
こいつ、俺を怒らせようとしているとしか思えない。
もしかして、長年出番がなくて退屈していたのか。えらい物を拾ってしまったな。こいつ、スキルないし、その説明に過ぎない存在なのに、疑似人格のような物を持っていやがるらしい。
元々、俺の能力はDNAに記録された他人の能力の情報を読み出して自分のDNAに書き写すものなのだ。
科学的な理屈から自己開発したもので、元の世界のどんな論文にも書かれていない、文字通りのオンリーワンの理論なのだ。さすがに無理があると思って卒業論文にも選ばなかったのだが。
もともとは、こんな異世界なんてところで、魔法だのスキルだのをコピーするためのものではない。このおかしなチュートリアル野郎も、ただのコピープログラムだ。
オリジナルはアイリーンの『魔法威力増大』の中に組み込まれたまま眠っている。いつか、あいつの子供、あるいはその子孫に渡り人の魂が宿って生まれてくるまで。
そして、その子がこの変な奴を解凍して起動させるまで。アイリーンと同じくDNAの中に、この『魔法威力増大』を持った一族の者がいるだろうから、そいつらも同様の条件が揃えば、こいつが発動するのだろう。考えると頭が痛くなるな。
そして、次の瞬間に地獄絵図が繰り広げられた。もれなく緑色の。俺も含めて、全員が呆然とそれを眺めていた。真空の嵐が吹き上げる。
荒れ狂う刃は、相乗効果で、おそらく数倍の効果を発揮しているのだろう。すぐに消えてしまわないで、何度も何度も切り付けまくっている感じだ。
もしかすると、渡り人が使うと補正とは別で、効果や威力にも影響があるのかもしれない。特別の魂によるものだからな。こんな補正プログラムまで用意してくれているくらいなのだから。
先頭にたむろっていた、ゴブリンキング・ゴブリンリーダー・ゴブリンメイジは全滅、そしてその後ろにいた雑魚ゴブリンも、もれなく全滅だった。
「こ、これは!」
「いや凄いな、お前。こいつはちょっと引くな」
おい、マリア。確か、あんたが使えって言ったんだよな、これ。
「あんたねえ」
この碌でなしのスキルを寄越した張本人であるアイリーンが呆れている。
呆れるのはこっちだ。よくもこんな碌でもないスキルをDNAに持っていやがったもんだなあ。自分には用もないくせに。
他の三人も、うんうんと頷いている。どうしようか。明日から俺は魔王扱いで、村に居場所が無くなるかもしれない。何が勇者アンソニーだよ、これじゃ魔王アンソニー誕生だぜ。いっそ、そっちの方向を目指してもいいか。
「うむ、はずれじゃったようじゃの」
「ええ、いませんね」
マリアとアネッサがそんな事を言っている。あいつらは。棒付きアイスじゃねえんだがな。何の話だ。
「小僧、残念ながら、この集団の中に【賢者】めはおらぬ」
ああ、そういう事か。親玉を【討ち漏らした】っていう事なのか。ちっ、むかつくな。
「となると、次は今回のような訳にはいきませんね」
「そうなるのう」
気がつくと、父が俺の肩に両手を当ててくれていた。温かい。俺はいつものように無邪気な瞳で父を見上げた。
「ごめん、父さん。しくじった。こっちにゴブリンの指揮官はいなかった。残りの半分は逃がしてしまったかも」
「ゴブリンの指揮官だと?」
父は驚いたようだ。父にとっては、ゴブリンの指揮官とは、今まさにその辺に大量に残骸が散らばっているゴブリンキングであるのだから。その団体と鋤一本で向き合っていたんだから、この人、我が親ながら凄いわ。さすがに無謀だけどな。
「用心深い奴さ。万が一に備え、部隊の半分を先行させ、自分は後方で指揮を執る。前線部隊を奇襲で壊滅させつつね。
自分で指揮を執った方が成功率は高いし、後ろから討ったんだから安全なのさ。そして今奴は考えている。あれだけの相手なのだから、今は軍を引いて、次回にまただまし討ちの奇襲をしようと。そうなると、こっちが負ける公算が強い。それに」
今のチートは今回限りのサービスなのだ。あとは俺が自分で習熟度を上げていかないと、その力に耐えられない。
チートに使用制限がつくのは、おそらくスキルが所持する人間の意志ではなく暴走するのを防ぐためだろう。
多分、地球のAIと同様に完璧なものではないのだ。初回だけは能力の使い方を学ばせるために、瞬間的にコントロールしつつ強制開放されているだけだ。
奴らに態勢を立て直されて直後に襲われたら俺は勝てないだろう。数が多すぎるのだ。この賢者の事だ。失った数さえ短期間で揃えてから万全の態勢で襲ってくるかも、いや本人は雲隠れしてしまって、永遠のいたちごっこになる可能性さえある。
「行こう、マリア。今、賢者を倒しておかないと、この村は終わる」
「その通りじゃ。坊は本当に賢いのう」
「じゃあ、行きますか」
事もなげに間髪入れずにチームの行動を決定するアネッサ。それ故彼女はリーダーなのだ。
「うわあ、あれと同じ規模の団体さんとやるんですよね」
「嬉しくないぜ」
「勘弁願いたいですね。でも仕事は請け負ったのですから」
「そうそう、最初に仕事をするのは、シーフのあんたよ、アイサ」
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