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第一章 渡り人

1-19 本命攻略

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「ああ、そうだな。お前の言う通りだ。皆さん、こっちへ集まってください」

 思惑通りの反応だ。理に適っている言い分だしね。叔父さんがどう動くかなどすべて把握している。

 そして、黒い革服の上下に身を包んだ短髪強面なリーダーの彼と、彼のチームは叔父さんを取り囲むようにした。

 そして、さりげなくアリエスの手を繋いで俺も一緒に行き、ターゲットの左側へアリエスを誘導した。そして背伸びして覗こうとするかのように、あのアベックの後ろでちょろちょろしてやった。

 エバンスの野郎は俺の存在に気づいておりニヤリと笑って、女を抱きかかえ、わざと俺をブロックして輪の中に入れさせない動きに終始した。

 アホか、そんな話、俺は全部知っとるわい。こうしていれば、お前ならすぐに気づくだろうと思ってな。そこはもう射程圏内なんだよ。

 奴は楽しむために、わざと俺を追い払わなかった。根性悪を相手にする時には、それなりにやり方っていうものがあるのだ。作業を手早くやるために俺は新技を披露した。

『ダブル・ダウンロード』
 なんのことはない。単に二人が同時に射程圏内に入っているので、同時にデータをいただいたまでだ。

 俺もスキル窃盗がだいぶ板についてきたね。一回バレたんで、もう大胆になってきたな。後は大物一人残すまでか。

 マリア姉はアウトだからな。そもそもエルフのスキルって人間に使える物なのかどうかもよくわからないのだし。

 まずはさっきの女のスキルから見る。お、魔法使いなのか。こいつ、神官系の魔法使いか。支援魔法に優れ、攻撃魔法も持つか。なかなかのものだ。性格は最悪だけどよ。

『ブレードアップ』
 基本は味方の攻撃を一定時間倍にする、か。こいつもリソースの関係で、時間やアップ率は変わると。

 効力範囲にいれば、俺の弓矢も上がるのかな。まあ、自前で使えるからいいかな。ただ習熟していないから、最初は効果がほぼゼロとか十分ありうるねえ。

『ファストアップ』
 速度三倍までアップか。攻撃時や撤退時に非常に有効だな。これと瞬歩などと組み合わせたら、逃げ足に磨きがかかりそうだぜ。

『スローダウン』
 相手の速度を半分に減らす。重ね掛けも可能だが、ランクの高い魔物には通用しない、か。まあゴブリン相手なら楽勝じゃないか? こいつもリソースの問題があるみたいだな。まああって困るものじゃない。

『リジェネレート』
 時間回復か。たいした量じゃないみたいだが、あれば助かるな。うまくすると、どこかで上位魔法を入手できるかも。

『バブルアタック』
 風(空気)、水、土などの泡で相手を包んでしまう。動きを止めるのか。これもスローダウンのような制約があるな。ゴブリンの群れなんて、これ食らわすだけでイチコロじゃない?

『神々の裁断』
 切断のスキル。これは攻撃できる強力な技だが、やっぱり支援魔法と同様の制約があるな。鋏で紙や布なんかは切り放題だが、自動車や戦車は切れませんってことだな。

『神々の射的』
 こいつは命中補正か。いいね。まあ、俺はあってもなくてもどうでもいいかな。でも悪いものじゃないさ。たとえば、村のみんなが石を投げていたら、これを使うとゴブリンへの命中率が上がるとからしい。
 男の方は、シーフだが、また変わり種だな。

『地中探査』
 地中に潜む魔物や敵兵、落とし穴のような罠を見破れるらしい。こいつはいい。

『水中探査』
 これは水中バージョンか。

『上空警戒』
 これは。上から襲ってくる敵がいるという事か。まるで全方位超次元レーダーみたいな男だな。

 陸海空の特殊感知能力をすべて備えているとは。並みのシーフの能力は当然持っているので、それも上書きされて俺の能力が強化された。

『天界の一撃』
 急所攻撃か。スキルが示す場所を攻撃するとクリティカルが出やすい。戦闘中は機動力を生かした遊撃戦士となるシーフならではか。

 あのコンビの女と組めば、かなりやれるな。大物相手には戦士の盾で抑えながら、こいつの攻撃で削っていくスタイルもありだ。

 さあってと、いよいよ最後の獲物だが、俺はすうっと近寄ったつもりだったが、そいつはギロっと俺を睨みつけた。

 なんて勘のいいやつだ。別に、奴自身に危害が加わる訳ではないのだが、不穏な気配を感じ取ったか。さすがだぜ。それなら、こうだ!

 俺は「ちぇーっ」とか言いながら首を竦めて、大きな足音をさせながら会議の輪から離れていった。そして使ってやったのだ、シーフ達からかっぱらった技を惜しむことなくすべて。

 不意に消えた俺の気配に、驚いて振り返った奴。ここからどうするかな。だが、我が敬愛する師匠である叔父上ったら。

「アラビムさん、何を余所見しているんですか。今一番大事なところなんですから」
「あ、ああ、すいません。お気になさらずに」

「そうですよ。アラビムらしくもない」
「でも本当、ゴブリンども、何かおかしいですわ。応援を呼んできたいくらいの気持ちですわ」

「無理を言うな、フラウ。あれは町の領主様と冒険者ギルドで交わした契約に基づいている。今すぐ、どうこうするという訳にはいかん。だが、確かに妙だ。納得いかん」

 ああ、すっきり。見事にパクってやったぜ。マリアがウインクしてくれたので、俺は優雅な礼を返し、それからエバンスの野郎のマントに大量の鼻水を擦り付けてやった。さっきから貯めておいたんだよな。お金と違って、すぐに貯まるんだ、これは。
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