異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

文字の大きさ
上 下
104 / 104
第二章 世直し聖女

2-47 最高の枕

しおりを挟む
「おい、代官どの。
 こいつはどこへ運べばいいんだ?」

 筋肉任せに上半身裸になってでかい資材を担ぎ、逞し過ぎる筋肉の塊を見せつける英雄がいる。

 あれは絶対に本日の鍛練を兼ねているのに違いないと私は踏んでいる。

「あ、ああ騎士団長。
 ちょっと、ちょっと待ってくれ」

「よお、代官様。
 今夜はどこまでやる?
 子供達の臨時宿舎はもう出来るからいいとして。

 あの『自称孤児院はいきょ』とやらは、我が王国としては証拠隠滅のために、早いところ跡形もなくバラしたい気持ちなんだがな。
 他国の間諜にあれの存在がバレると面倒だ」

「え? い、いや。
 あなたって、もしかして時期国王様であられる王太子殿下なのでは⁉
 な、何故あなた様がここにいらっしゃるのか」

 だがそれを豪快に笑い飛ばす、同じく荷物を肩に担いだイケメン王太子に、思わず膝が震えるメルヒャン代官。

 そして、背後からチョンチョンして、振り返った彼に物問いた気に眉を寄せる巨大神獣。

 その両肩にはでかい柱様の資材を担いでいる。
 あれで結構パワーはあったようだ。

 思わず息を飲んだ代官。
 まあ、確かにそこの建築現場は面子がヤバ過ぎる。

 そして、これらの騒ぎの元締めたる、この聖女サヤ様と来た日には。

「よっし、聖女印の小夜の愛情オムライスが完成よー。
 美味しく美味しく美味しくなあれっ」

 子供達のために、もっぱら「おさんどん」の時間だった。

 あと、他の肉体労働者と化した奴らのためにも飯を作ってやらねばなるまい。

 今日から、『おさんどん聖女』とでも名乗るか。
 非力な私には工事の手伝いとかは無理だし。

 代わりに現場には『魔物重機』たるチャックを貸し出してある。
 かつて彼にボコボコにされていた騎士団の連中も、うちの本官にだいぶ免疫が出来てきたようだ。

 また、工事の中でどうしても出るのが避けられない怪我人のために、騎士団の回復魔法士も出張ってきてくれている。

 まるで騎士団総出でやる演習のような騒ぎだ。

 サンドラは冒険者の貸し出しのための算段をしてくれているし、今後はここの出身の人間にも、冒険者ギルドへ大きく門戸を開いてくれるようだ。

 ベロニカは騎士団の切り盛りをしながら子供達の面倒を見てくれていたりする。

 公爵家からも、リュールが手配してくれたメイドさんや調理人などの応援がやってきて、アメリはもっぱら私の手伝いや給仕などで頑張ってくれている。

 王太子殿下は、あの後で私が駆け込んで即日王宮へ出した旧スラム・パルマへの支援要請を受けて、その方面の調整のために出張ってくれているのだが、何故か団長や草色枕などのマブダチと一緒に張り切って現場に入っているし。

 まあ役人を連れてきてくれているのでいいか。
 彼らは国王陛下に言われ、あれこれと支度などを請け負ってくれている。

『王都スラム地区再開発』

 これは王都では悲願とも謳われたプロジェクトなのであったが、なかなか進まなかった。

 欲に塗れた計画は、現実のスラムに渦巻く数多の絶望の前にあえなく頓挫し、腰を据えて覚悟を持って火中の栗を拾う人間は誰もいなかったのだ。

 そして長年その闇の負債が累積してしまっており渦巻いていたのだが、マースデン王国との暗雲犇めく軋轢の結末が、逆にスラムの肥大化した闇の勢力を、あっさり引かせる結果を招いてしまった。

 聖女・神獣と、立て続けに現れた、福音をもたらす象徴に近いような物。
 国王の苦渋の決断による、第二王子の粛清による排除。

 特に王の厳しい決断はアースデン王国の決意を内外に示した。
 それのきっかけとなったのも、よく考えてみたらこの私なのだった。

 今それらの障害の消失が突然に現実のものとなったので、役所も国からの緊急予算付きという事で、本腰を入れてスラムに人材を出してきつつあるのだ。

 その辺が一番ここに足りないと代官がボヤいていたところなのだし。

 その予算に関しては、私が前に渡した特殊鉱石の上がりなどに加えて、私がいただく予定だった恩賞分も回してもらったのだ。

 さすがにこれだけの騒ぎにしておいて、口だけ出すのでは決まりが悪い。

 この王都新都市計画対象・聖女直轄開発特区サヤードの総責任者たる私がそこまでやっているので、他の連中もあまりおかしなことは言えないらしい。

 大体、こういうものは一枚噛んでいるだけでも十分に利益が上がるものなのだから、そう欲張るでないわ!

 とりあえず、うちの枕が望んだであろう理想は立派に形を結ぼうとしているようだった。

 神獣って、ある意味で自由人かつ妙に人間臭い。
 もしかしたら、そういうところが福を呼ぶのではないだろうか。

 とりあえず、今の時点で判明している事はある。

 子供達はもう違法な仕事などはしなくてもいいし、美味しい御飯を食べて、屋根のある家で暖かい布団の中で眠れる。

 そして学校へ行き、また商人や工房などでの丁稚奉公なんかも道が開ける。
 そのあたりは国としても本格的に取り組んでくれているのだ。

「とにかく一つ言える事としては、うちの『枕』はやっぱり最高だな」

『サヤはやっぱりどこまでいってもサヤだなあ』

『本官もチュール先輩の意見に激しく賛同であると聖女サヤに報告いたします』

「そうよ。
 だって私はどこへ行ったって、やっぱりミス・ドリトルなんですもの。
 みんな、これからもよろしくね」

                           ーFINー
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

解除

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。