102 / 104
第二章 世直し聖女
2-45 スラム・パルマの夜明け
しおりを挟む
間もなく、王国騎士団がやって来た。
あの方を先頭に。
英雄。
まさにそう呼ぶのが相応しい、相当な髭面で半端ない体格をした威厳のある漢。
すべてにおいて豪快過ぎるのが玉に瑕。
だが今の私にとって、これ以上頼もしいと思える男もそうはいない。
「やあ、バルカム騎士団長。御機嫌いかが?」
「燃料満タンですこぶる快調ですな。
して、戦はどこですかな、聖女閣下」
「とりあえず、あなたが来ると言ったら戦すら逃げていきましたよ。
このスラムは、私が『スラム・パルマ開放宣言』により、正式に聖女権限を用いて開放いたしました。
ここは私、聖女小夜の直轄地といたします。
以後は王国の治安維持機関の手により秩序を回復します。
そちらは、私が聖女サヤの特務インスペクターに任命し、任務遂行中のブラウニー・ジョーンズ警邏隊長ですわ」
「御疲れ様です」
英雄騎士団長から敬意の籠った敬礼をいただき、目を白黒して返す特務インスペクター。
「お、お疲れ様です、王国騎士団長閣下」
団長としては、また聖女サヤが始めた無茶に付き合わされて、いきなりの職務を遂行しているこの隊長に素直に敬意を払っただけなのだろう。
まあそれで何も間違っちゃいないからね。
「それでサヤ、お前の枕はあそこか」
「そうですね。
もうすっかり可愛らしい天使様の僕のようでゴンス」
「ふはははは、さすがは俺のマブダチだけあるでごわすな」
ああ、そういや確か二晩続けて『マブダチ』だったもんなあ。
王太子殿下も含めて。
そういや、この人私の枕を勝手に使っていたんだった。
アレも今夜はきっと天使様専用の枕なんだな。
そういや、ここには敷き布団すらないんだった。
「団長」
「なんだ」
「とりあえず、ベロニカを呼んでくれませんか。
それと出来たら冒険者ギルドのサンドラも。
この【孤児院】の今夜の塒を設営したいので。
子供達の世話もあるし。
冒険者ギルドの下っ端の人なんか、そういう仕事があったらいいかもだし。
その費用は私が支払うから」
そういや、この小夜様自身も冒険者ギルドの下っ端の、そのうちの一人なんだった。
「そうか。手配させよう」
「チャック」
『イエスマム』
「他勢力の動きは?」
『本官の知覚をベースとした見立てによれば、マースデン並びに犯罪組織系の敵は撤収完了。
マースデン王国では、他国におけるこのような活動に関しては、こういう不測の収集不可能な事態が発生した場合は、まず何をおいても全軍が撤収し証拠を残さないようにしますから、すべての敵は一旦撤収したはず』
「それは喜ばしいわね。それから?」
『ただし、彼らに便宜を図るアースデンの貴族もいるでしょうから貴族街に潜む者はいますし、残りの者も速やかに王都以外の近隣の拠点に移動したのみと思われます。
なお犯罪組織系の場合は、聖女の直轄支配宣言並びにマースデン勢力逃亡により街の勢力図が書き換えられてしまったせいで治安組織に追われるのを恐れ、もれなく近隣他都市へと速やかに撤収するのが普通だろうという考察を聖女サヤに捧げます』
「ありがとう、チャック」
それから警邏隊のメンバーに向かって言った。
「ジョーンズ・インスペクター」
「は。何でございましょう、聖女様」
「速やかに、この街の治安を回復させたいです。
なお、住人達の中には止むを得ず犯罪に加担していた者も大勢いますが、彼ら一般住人を逮捕しないでください。
彼らには聖女サヤの名において恩赦を与えます」
「は、ではそのように手配を」
それからは素晴らしく慌ただしい動きとなった。
ここがもうスラムではなくなった事実は、彼らへの恩赦の福音と共に街中を疾風の如くに駆け巡った。
そして、彼らがやってきた。
我々を最初に監視していただろう敵対意思の薄かった組織の者だ。
彼らはここの住人だから逃げたりはしない。
顔には悲壮が張り付けられているものの、悪相ではないのが一目で見て取れた。
それは総勢五人の男と女だった。
騎士団長は、私の後ろで腕組みをして目を瞑っているだけで、アメリはいつの間にか馬車で着替えてきたのかメイド姿に戻っている。
チュールが私に抱かれているだけで、チャックはペタンと身体を降ろし、臨戦態勢にはない事を相手に伝わるようにしていた。
『我々はお前達を敵とは認識していない』という無言のメッセージを、一切の打ち合わせもせずに全員で意思表示している。
このチーム、なんか凄いな。
あの方を先頭に。
英雄。
まさにそう呼ぶのが相応しい、相当な髭面で半端ない体格をした威厳のある漢。
すべてにおいて豪快過ぎるのが玉に瑕。
だが今の私にとって、これ以上頼もしいと思える男もそうはいない。
「やあ、バルカム騎士団長。御機嫌いかが?」
「燃料満タンですこぶる快調ですな。
して、戦はどこですかな、聖女閣下」
「とりあえず、あなたが来ると言ったら戦すら逃げていきましたよ。
このスラムは、私が『スラム・パルマ開放宣言』により、正式に聖女権限を用いて開放いたしました。
ここは私、聖女小夜の直轄地といたします。
以後は王国の治安維持機関の手により秩序を回復します。
そちらは、私が聖女サヤの特務インスペクターに任命し、任務遂行中のブラウニー・ジョーンズ警邏隊長ですわ」
「御疲れ様です」
英雄騎士団長から敬意の籠った敬礼をいただき、目を白黒して返す特務インスペクター。
「お、お疲れ様です、王国騎士団長閣下」
団長としては、また聖女サヤが始めた無茶に付き合わされて、いきなりの職務を遂行しているこの隊長に素直に敬意を払っただけなのだろう。
まあそれで何も間違っちゃいないからね。
「それでサヤ、お前の枕はあそこか」
「そうですね。
もうすっかり可愛らしい天使様の僕のようでゴンス」
「ふはははは、さすがは俺のマブダチだけあるでごわすな」
ああ、そういや確か二晩続けて『マブダチ』だったもんなあ。
王太子殿下も含めて。
そういや、この人私の枕を勝手に使っていたんだった。
アレも今夜はきっと天使様専用の枕なんだな。
そういや、ここには敷き布団すらないんだった。
「団長」
「なんだ」
「とりあえず、ベロニカを呼んでくれませんか。
それと出来たら冒険者ギルドのサンドラも。
この【孤児院】の今夜の塒を設営したいので。
子供達の世話もあるし。
冒険者ギルドの下っ端の人なんか、そういう仕事があったらいいかもだし。
その費用は私が支払うから」
そういや、この小夜様自身も冒険者ギルドの下っ端の、そのうちの一人なんだった。
「そうか。手配させよう」
「チャック」
『イエスマム』
「他勢力の動きは?」
『本官の知覚をベースとした見立てによれば、マースデン並びに犯罪組織系の敵は撤収完了。
マースデン王国では、他国におけるこのような活動に関しては、こういう不測の収集不可能な事態が発生した場合は、まず何をおいても全軍が撤収し証拠を残さないようにしますから、すべての敵は一旦撤収したはず』
「それは喜ばしいわね。それから?」
『ただし、彼らに便宜を図るアースデンの貴族もいるでしょうから貴族街に潜む者はいますし、残りの者も速やかに王都以外の近隣の拠点に移動したのみと思われます。
なお犯罪組織系の場合は、聖女の直轄支配宣言並びにマースデン勢力逃亡により街の勢力図が書き換えられてしまったせいで治安組織に追われるのを恐れ、もれなく近隣他都市へと速やかに撤収するのが普通だろうという考察を聖女サヤに捧げます』
「ありがとう、チャック」
それから警邏隊のメンバーに向かって言った。
「ジョーンズ・インスペクター」
「は。何でございましょう、聖女様」
「速やかに、この街の治安を回復させたいです。
なお、住人達の中には止むを得ず犯罪に加担していた者も大勢いますが、彼ら一般住人を逮捕しないでください。
彼らには聖女サヤの名において恩赦を与えます」
「は、ではそのように手配を」
それからは素晴らしく慌ただしい動きとなった。
ここがもうスラムではなくなった事実は、彼らへの恩赦の福音と共に街中を疾風の如くに駆け巡った。
そして、彼らがやってきた。
我々を最初に監視していただろう敵対意思の薄かった組織の者だ。
彼らはここの住人だから逃げたりはしない。
顔には悲壮が張り付けられているものの、悪相ではないのが一目で見て取れた。
それは総勢五人の男と女だった。
騎士団長は、私の後ろで腕組みをして目を瞑っているだけで、アメリはいつの間にか馬車で着替えてきたのかメイド姿に戻っている。
チュールが私に抱かれているだけで、チャックはペタンと身体を降ろし、臨戦態勢にはない事を相手に伝わるようにしていた。
『我々はお前達を敵とは認識していない』という無言のメッセージを、一切の打ち合わせもせずに全員で意思表示している。
このチーム、なんか凄いな。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは


「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

最後に報われるのは誰でしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。
「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。
限界なのはリリアの方だったからだ。
なので彼女は、ある提案をする。
「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。
リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。
「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」
リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。
だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。
そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。


【完結】逆行した聖女
ウミ
恋愛
1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる