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第二章 世直し聖女
2-36 最悪な事態
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チャックは同時にスケッチブックに私との会談の模様を認めており、それを読んだリュールもさすがに米神を押さえる破目になった。
「サヤ、あそこは特別な問題地区なのは知っているな。
そこに騎士団を送り込むと大暴動が起きるとまで言われている。
おそらく、それはスラムを飛び出して、あっという間に王都全域に広がるだろう」
「それはもう典型的なアカンやつですね」
「そうだ。
しかも、それはマースデンの奴らが場合によっては使う予定の手管であり、絶対に我々自身がやってしまう訳にはいかない。
同じく国軍であろうと近衛兵であろうと駄目だ」
「神殿の炊き出しみたいなものは入れるんでしたっけ」
「ああ、だがそれがまた最悪の悪手だ。
神殿は聖女のお前を欲しがっている。
未だおかしなちょっかいがかけられていないのは、父が早々にお前を派手に聖女として認定し、正式に国王の保護下に置いたせいだ。
しかも、お前は数々自分が有能である事を示した。
だが、自ら神殿の懐に飛び込むというのならば!」
「もう、それだと本当に手がないじゃないですか。
冒険者は?」
「まあ、そういう連中の中にもスラムの住人はいるし、逆のパターンもあるが、サンドラが犯罪傾向の強いスラムの住人には比較的厳しくしているのでな。
そう覚えが目出度くもないぞ」
「でも、飼い主がペット探しをしにいくのは有りですよね」
「むう、だがお前に何かあると更に事は面倒になる。
いっそ、奴が自主的に帰ってくるのを待つ……というのも悪手と、お前の優秀な部下であるマースデンの連中にもっとも詳しい騎士が言ったのだったな。
八方塞がりで実に頭が痛い事だ」
「ちょっと待ってね」
私は一つ気になる事をチャックに訊いてみた。
「ねえ、マースデンの魔物部隊がスラムにいる事は考えられる?
なんというか、あなたとチュールとアメリが護衛でも厳しいのかどうかが知りたいの」
『あくまで汎用的な物の考え方として、可能性としてはイエスとお答えします。
あの魔道魔導の手管で転移のスクロールを封じていた王宮の中にさえ私は召喚され得ました。
魔物使いが魔物と共にスラムに常駐していたという知識はありませんが、私は急遽潜入工作のための戦力として別部隊より緊急で送り込まれただけの一介の魔物兵に過ぎませんので、その種の王都パルマ関連に関する知識は非常に限定的かつ過去のデータです。
一応、魔物部隊にいた者としては特に聞いていないという程度の回答であります』
「そうかあ、そうだよね」
『さらに、誰か強力な魔物の召喚スクロールを持ってスラムへ潜入したテイマー工作兵がいた場合は最悪な戦場と化す可能性があります。
あそこは王宮とは違い、必要とあらば超大型魔物の召喚が可能です。
マースデンの魔物部隊には、三体しかいない師団壊滅級のウルトラ・モンスターがいたと記憶しています。
本官は現在の主である聖女サヤに対し、あなたはマースデン王国から、あれら虎の子の魔物三体を全力投入してもいいくらいの殺意を持って、激しく恨みを買っているのだと、強く強く警告いたします』
「げはあっ」
同時筆談通訳で会話の内容を知ったリュールは、その貴公子のような手で顔を覆ってしまった。
「サヤ……」
「行く!
あたし、絶対行くからね」
「止めても無駄か」
「あたしの新モフモフ、まだ一回も枕として使っていないのにー!」
「そうだった。お前はそういう奴だったな」
「それでは、サヤ様。
御支度をなさいますか。
あの鎖帷子装束は推奨できません。
あれはスラムでは喧嘩を売っているようなものですから」
今までの話に、相変わらず顔色一つ変えずに、そのようにただのお出かけのような感じに言ってくるアメリ。
「アメリは一緒に来てくれる?」
「もちろんでございますよ。
ただ、私の戦闘装備はあなたが収納に入れておいてください。
あなた用の鎖帷子も。
護身用の武器は皆が持ち歩いているような場所ですが、あなたはどうなさいます?」
彼女は自分用のミスリルの武器を見せてくれた。
「えー、203ミリ榴弾砲とか大型の地対地ミサイルみたいな物ってないよね。
車両搭載型の大口径連装ロケット砲とかないのかしら。
あと四十ミリ機関砲で戦車などを狩りまくれる圧倒的な対地攻撃力を持つ、対ゲリラ戦に今でも超有効な地上攻撃機もいいな。
ベトナム戦争あたりで使っていた三十ミリ機関砲や七十ミリロケット弾ポッドに各種機関銃なんかを装備した空中トーチカみたいな凄い攻撃ヘリとか、歩兵が使う強力なロケットランチャー系とか、やっぱりこっちにはないよね。
敵が飛行魔物の場合には対空ミサイルが要るのかなあ」
「さあ、存じませんね。
もしかして向こうの世界の武器の話ですか?」
「ああ、うんまあ」
とりあえず、武器っぽいものは包丁や工作用のナイフくらいしか使った事がない。
ああ、ソフトボールで使っていた金属バットやシャベルくらいはあるかなあ。
後は体育で使った剣道の竹刀くらい?
「サヤ、あそこは特別な問題地区なのは知っているな。
そこに騎士団を送り込むと大暴動が起きるとまで言われている。
おそらく、それはスラムを飛び出して、あっという間に王都全域に広がるだろう」
「それはもう典型的なアカンやつですね」
「そうだ。
しかも、それはマースデンの奴らが場合によっては使う予定の手管であり、絶対に我々自身がやってしまう訳にはいかない。
同じく国軍であろうと近衛兵であろうと駄目だ」
「神殿の炊き出しみたいなものは入れるんでしたっけ」
「ああ、だがそれがまた最悪の悪手だ。
神殿は聖女のお前を欲しがっている。
未だおかしなちょっかいがかけられていないのは、父が早々にお前を派手に聖女として認定し、正式に国王の保護下に置いたせいだ。
しかも、お前は数々自分が有能である事を示した。
だが、自ら神殿の懐に飛び込むというのならば!」
「もう、それだと本当に手がないじゃないですか。
冒険者は?」
「まあ、そういう連中の中にもスラムの住人はいるし、逆のパターンもあるが、サンドラが犯罪傾向の強いスラムの住人には比較的厳しくしているのでな。
そう覚えが目出度くもないぞ」
「でも、飼い主がペット探しをしにいくのは有りですよね」
「むう、だがお前に何かあると更に事は面倒になる。
いっそ、奴が自主的に帰ってくるのを待つ……というのも悪手と、お前の優秀な部下であるマースデンの連中にもっとも詳しい騎士が言ったのだったな。
八方塞がりで実に頭が痛い事だ」
「ちょっと待ってね」
私は一つ気になる事をチャックに訊いてみた。
「ねえ、マースデンの魔物部隊がスラムにいる事は考えられる?
なんというか、あなたとチュールとアメリが護衛でも厳しいのかどうかが知りたいの」
『あくまで汎用的な物の考え方として、可能性としてはイエスとお答えします。
あの魔道魔導の手管で転移のスクロールを封じていた王宮の中にさえ私は召喚され得ました。
魔物使いが魔物と共にスラムに常駐していたという知識はありませんが、私は急遽潜入工作のための戦力として別部隊より緊急で送り込まれただけの一介の魔物兵に過ぎませんので、その種の王都パルマ関連に関する知識は非常に限定的かつ過去のデータです。
一応、魔物部隊にいた者としては特に聞いていないという程度の回答であります』
「そうかあ、そうだよね」
『さらに、誰か強力な魔物の召喚スクロールを持ってスラムへ潜入したテイマー工作兵がいた場合は最悪な戦場と化す可能性があります。
あそこは王宮とは違い、必要とあらば超大型魔物の召喚が可能です。
マースデンの魔物部隊には、三体しかいない師団壊滅級のウルトラ・モンスターがいたと記憶しています。
本官は現在の主である聖女サヤに対し、あなたはマースデン王国から、あれら虎の子の魔物三体を全力投入してもいいくらいの殺意を持って、激しく恨みを買っているのだと、強く強く警告いたします』
「げはあっ」
同時筆談通訳で会話の内容を知ったリュールは、その貴公子のような手で顔を覆ってしまった。
「サヤ……」
「行く!
あたし、絶対行くからね」
「止めても無駄か」
「あたしの新モフモフ、まだ一回も枕として使っていないのにー!」
「そうだった。お前はそういう奴だったな」
「それでは、サヤ様。
御支度をなさいますか。
あの鎖帷子装束は推奨できません。
あれはスラムでは喧嘩を売っているようなものですから」
今までの話に、相変わらず顔色一つ変えずに、そのようにただのお出かけのような感じに言ってくるアメリ。
「アメリは一緒に来てくれる?」
「もちろんでございますよ。
ただ、私の戦闘装備はあなたが収納に入れておいてください。
あなた用の鎖帷子も。
護身用の武器は皆が持ち歩いているような場所ですが、あなたはどうなさいます?」
彼女は自分用のミスリルの武器を見せてくれた。
「えー、203ミリ榴弾砲とか大型の地対地ミサイルみたいな物ってないよね。
車両搭載型の大口径連装ロケット砲とかないのかしら。
あと四十ミリ機関砲で戦車などを狩りまくれる圧倒的な対地攻撃力を持つ、対ゲリラ戦に今でも超有効な地上攻撃機もいいな。
ベトナム戦争あたりで使っていた三十ミリ機関砲や七十ミリロケット弾ポッドに各種機関銃なんかを装備した空中トーチカみたいな凄い攻撃ヘリとか、歩兵が使う強力なロケットランチャー系とか、やっぱりこっちにはないよね。
敵が飛行魔物の場合には対空ミサイルが要るのかなあ」
「さあ、存じませんね。
もしかして向こうの世界の武器の話ですか?」
「ああ、うんまあ」
とりあえず、武器っぽいものは包丁や工作用のナイフくらいしか使った事がない。
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