異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-35 忠実でノーマムな部下と、神獣とは名ばかりのアレな奴

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「じゃあ、サヤ。
 今から言う物が手持ちにあったら言ってね。
 そういうやり方でわかるかしら」

「はい、私は自分の収納に索引を付けられましたから、それでわかります」

「へえ、優秀な収納なのね」
「そうなんでしょうか?」

「そうよー。じゃあ、行くわよ。
まずはバルドンの皮革」

「あります。三枚ありますが」

「全部ちょうだい。
 一枚金貨五十枚見当ね。
 大きさや状態にもよるけれど」

 そして私が出した物を見て、彼女も唸った。

「こいつは上物ね。
 これなら三枚で白金貨三枚出せるわ。
 もう青い鳥の捜索費用が出ちゃったわね」

「あっはっは。
 そんな物は、この間の宴会の酒代にもなりませんね」

「マジで? あれ一体幾ら使ったのよ……。
 あー、じゃあ次はベルドネスの爪と牙」

「あります」

 こいつは素人目に見ても、かなり立派な物だと思うが、買い取りのお値段の方は如何なものか。

「うーん、こいつはまた立派なものね。
 これは商業ギルドからの特級の依頼なんだけど、殆ど取引がないものだから、実際に取引が終わってみない事には金額の提示が出来ないわね」

「そうなのです?」

「ええ、どうやらクライアントは高位の貴族か冒険者で、一点物の強力な武具を製作したいらしいのだけれど。

 こいつは実勢価格で取引終了後に計算でいいかな。
 悪いけど、取引が不成立に終わる可能性さえあるわ。
 その時は素材を返却ね」

「それで構いませんので、よろしくお願いいたします」

 その他、かなりの上物の素材を卸す事が出来て、結局預かり品を除いては、金貨三千二百枚になった。

 三千枚はギルドのカードに入れて置き、二百枚は手元に置いた。

「こういう素材の売却代金なんかが入らないと、サヤの持っているような高額素材はまとめてなんて買い取れないわ。
 この前に引き取った分はもう換金出来たからね」

「そうかあ。
 まだまだありますから、またよろしくお願いしますね」

「あははははは。 
 もう笑っちゃうしかないわねえ。
 まあ、お陰様でこっちも潤っているわ」

 私なんぞ、『貰い物のゴミ』を言われるままに出すだけで、お金がザクザク入ってくるのが凄い。
 ガルさんとナナさんに感謝だな。

 昼食はギルドの食堂で済ませた。
 本日は駆け出し冒険者のためのお得ランチだ。

 いつか食べてやろうと狙っていたのだ。
 安いけど美味しくてボリュームもある。

 こいつは冒険者資格がないと一般人は注文できないサービス・メニューなんだもん。

 そして公爵邸へと帰ったはいいのだが、なんとあの草色野郎が家から消えたという。

 私はサロンにてリュールさんと話をした。

「あいつめ、酔っ払いの分際で何故大人しく寝ていない。
 一応、私が王宮から預かってきたようなものだから、いなくなったじゃ済まないと思うのだけれど。
 まあ、あいつが勝手にチャックに乗り込んでついてきただけなんだけどね」

「まあ、お前のせいではないさ。
 あれは、ああいうものなのだから。
 だが、このまま何もしないというわけにもいかん。
 どうだ、サヤ。あいつを捜せるか」

「ちょっと待って。
 チャック! いるかな」

 しばらくして、外にいたらしいチャックがサロンまでやってきた。
 相変わらず猫のようにドア幅に体を縮めて入ってくる姿はシュールだ。

『お帰りなさい、聖女サヤ。
 そして本官の不明を恥じます。
 あれは、突然に消失しました。
 ただ、本官の見識によれば、あれはそのまま公爵家よりいなくなるのではなく、そのうちに戻ってくるのではないかと考察します』

「その説に根拠はある?」

『イエスマム。
 あれは基本的にチュール先輩と似たような物。
 大酒飲みで食いしん坊で自由気ままなチュール先輩であると考えれば、おおよそ符号が合う。

 今までの観察経過より、あれはそういう物と考えます。
 元は聖女サヤ由来のお菓子に釣られて出現したもの。

 従って、アレがあなたの傍を離れる具体的な動機が見当たらないと、本官は聖女サヤに通達いたします』

「な、なるほど、そう言えばそういう存在かもしれないなあ」

『えー……』

『まあまあ、チュール先輩。
 従って、何らかの欲求に従って、一時的にふらっといなくなっただけという可能性が大きいと本官は考察いたしました』

「なるほど。じゃあ放っておいても大丈夫かしら」

『ノーマム。
 本来なら上官であるあなたに対して、本官からこのように無礼な返答は有り得ません。

 本来であるならば、軍属であった本官の身として、いかなる場合もイエスマムの返事一択しかないのです。
 ですが、ここは聖女サヤへの警告の意味で、あえてノーマム』

「え、駄目?」

『あれが何をしでかしているものか、我々は王宮関係者として把握し、監視する義務があります。
 あの国王さえも甲斐甲斐しかったという神獣歓迎の儀をお忘れか。

 何か不測の事態が発生した場合、それが聖女サヤへの糾弾にすり替わらないとは断言できないと、本官はあなたの警護騎士として、聖女サヤの事態への楽観視に対して激しく警鐘を鳴らします』

「ぐはあっ。
 確かにあんたの言う通りだわ。
 そ、それで?」

『彼奴めの居場所を本官はすでに探知し把握済みです。
 ただし、奴は非常にマズイ場所へ出現したようですと、本官は聖女サヤに報告します。
 速やかなる対処が必要なのではないかと、本官は聖女サヤに提言いたします』

「そ、それはどこ?」

『王都パルマ西部、通称スラム・パルマ。
 王都パルマ棄民地区にして犯罪結社が拠点にする王都最悪の犯罪多発地区であります。

 なお悪い事に、本官のマースデン軍属時代の知識によると、今なお活動を途切らせずに潜伏しているはずのマースデン王国関係者の強力な拠点でもあります。

 速やかなる対応が求められていますが、事は慎重に運ぶべしという提言も、本官からやや弱気に聖女サヤへ捧げたいと考察します。

 命は大事にというモードを優先する謙虚さを、本官は最大級の警戒措置と共に推奨いたします』

「うわああああああ。
 あ、あの草色野郎は~~~~」

 なんて事。このチャックの今までになかったほど奥歯に物が挟まったような、遠回しで弱気な言い回しだけで頭が痛くなりそう。
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