異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-32 異世界ぬらりひょん

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 そして宴会は続いた。
 あのウワバミ三銃士どもはずっと飲んでいるし。

 いつのまにか、王様はダウンしたものか、貴族が入れ替わり立ち代わりで熱心に連中の御世話をしている。

 こっちには、いろんな女性がスイーツに釣られてやってきて『聖女のサロン』と化していた。

 メンバーはまず私とアメリとベロニカさん。

 そして王宮のメイドさんに回復魔法士なんかの人達、貴族の子女やその護衛の方なども随時参加してきていた。

 たまに貴族の子女などでもアメリを知っている人がいて、彼女が聖女の御世話係になっているのを見て爆笑している。

 大変に和やかな集まりだ。

 何故か、あれこれとやってくれているチャックなんかも皆が見慣れたものか、割と聖女サロンの施設の一部のような感じに扱われてしまっている。

 奴もスケッチブックを用いて淑女と会話などをしていて、あのカチっとした軍人気質が妙に感心されたりもしている。

 なんたって『ホンカン』だものね。

 あと、サロンの話題として『神獣議論』も活発で、聖女と神獣の関係性などについて熱心に議論し、この宴会は男臭い飲み会の神獣区画と、雅な聖女区画のスイーツ女子会の二つが中心となった。

 どうせ後で神獣は聖女が引き取っていく事になるのだろうし。

 また聖女のおやつもかなり話題になった。
 たくさん作っておいて良かった事だ。

 そして、いつしか私はチュールを抱いたまま寝てしまっていた。
 チャックが触手のベッドで寝かせてくれていたものらしい。

 もうあいつは執事枠に入れてしまってもいいくらいだ。

 同じく隣ではアメリが仮眠していたが、彼女は何かあればすぐ飛び起きて対応できるのが私との大きな違いだ。

 そして誰かに強く揺り動かされた。

「ん、だーれー」

 見たら、なんと草色の奴本人だった。
 どうやら飲み会は終了したようだ。

 って、もうしっかり朝じゃないの。

 しかも、こいつめ。
 なんと私を引きずりおろして、チャックのベッドを占領しやがった。

 私の幸せそうな寝顔を見て、そこで寝る欲望にうっかりと憑りつかれてしまったものらしい。

 神獣なんて言ったってこれだもの。

 アメリはとうに起きており、私の食事の準備をしてくれていた。

 お兄ちゃんと団長は、まだマブダチ席に座ったまま突っ伏した状態で、そのまま寝こけている。

 お兄ちゃんなんか、まだ酒瓶を握り締めているし。
 お兄ちゃんは左腕を枕にして横を向いたまま寝ているが、なんて幸せそうな寝顔なんだ。

 また夕方あたりまで寝る気だろうか。
 本当にしょうもないな。

 うちの新モフモフはすでに快適なベッドで大鼾をかいているし。

 なんかもう、まるで『異世界のぬらりひょん』のような奴だな。

 ある日突然に、ぬらりひょんと現れて、家に居座って派手に飲み食いしていく。

 しかも、それがこいつの場合は福の神効果があるものだから誰も拒否出来ず、それどころか大歓迎されてしまうのだ。

 まあいいんだけど。
 とりあえず、私の管轄の魔物第三号という事にしておこう。

 ああ、これは魔物じゃなかったんだったっけ。

 とにかく、これは聖女管轄という事で歴史的に認識が出来ているらしいので、私専用の枕という事にしておくか。

 まあ団長には貸してあげてもいいかな。
 あと、こいつの飲み代は王国に請求しても絶対に許されるレベル。

「では、そろそろ帰るとするか」

 どうやらずっと起きていて、事態を見守っていたらしいリュールがそう言った。

「そういえば、サリタスさんは?」

「ずっと寝込んでいたらしいが、明日には出てくるだろう。
 ああ、もう今日になったか」

「ああ、御疲れ様です。
 あなたからも、よく労ってあげてください。
 どうせ、いつもの事なのでしょうが」

 リュールは、にっこりといいイケメンフェイスな笑顔で返答に代えてくれた。

 それから王宮の宴会の元締め係の人に、草色の奴は聖女が持ち帰ったと王様に伝えるようにお願いしておいた。

 持ち帰るもへったくれもない、聖女を専用ベッドから追い出して自分がそこに居座っているのだから。

 これが本物のぬらりひょんなら、飲み食いした後はまたふらっと出ていくのだが、こいつは聖女飯(含むスイーツ)に惹かれてやってきたので、そのまま聖女のところに居座るという貧乏神スタイルの神獣だ。

 まだ百鬼夜行を引き連れていないだけマシだな。
 どっちかというと、私の下にいる魔物が百鬼夜行みたいなものだし。
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