88 / 104
第二章 世直し聖女
2-31 福の神
しおりを挟む
そして会場へ向かったのだが、なんというか上座というかステージっぽい感じというか、そういう感じに大きな椅子が置かれていて、草色用の席が出来上がっていた。
「おや、神獣様。
もう、おいででございますか。
皆の者、支度を早く」
なんと国王陛下が自ら接待をするらしくて張り切っている。
よかった。
私がホステスなんじゃなくて、王様自らホストとして頑張る所存なものらしい。
その他にマブダチの王太子もいるし。
ところで、王様ったらこいつをどうするつもりなのかな。
そこまで張り切っているところを見ると、この王宮で世話をするつもりなのだろうか。
そうなったら仕方がないので、お菓子を手土産にして存分にモフらせてもらうとしよう。
「御飯はまだでごわすか」
あいつめ。
やっぱり御飯の欲求に負けると、王様相手でもまったく人見知りしていない。
宴会が始まったら、私なんていなくたっていいよね。
まあ、今日はお菓子を作りに来たようなものだから別にいいんだけど。
「は、ははあ。ただいま」
王様、そんな奴に下手に出て、付け上がらせては絶対に駄目だと思うの。
一体、そいつにどんなご利益があるっていうのだ。
だが、笑ってリュールが私の頭をくしゃっとした。
そこのイケメン、そういう子ども扱い、今だけは止めるのです。
ここは王様、つまりあなたのお父上もおられる王宮の、しかも何やら訳のわからない行事のために、またしても貴族さん達が集められてしまっている場所なのですから。
気安く成人になった女の子の頭、しかもあんたらが言う所の聖女なる物の頭をそういう風にしてはならんと思うのは私だけ?
ああ、誰も気にしていませんね。
みんな、あの草色をした何かにもう夢中だ。
何なんだろう、あれは。
そんな私の顔を見て、リュールが解説してくれた。
「あれはな。
なんというか伝説の代物で、まあ縁起物みたいに考えておけ。
やはり、聖女のいる時に現れる事が多いものらしい。
建国神話に登場する存在で、一体どういう理屈なのかわからんのだが、国家の躍進・国防・災厄除けなどに貢献すると言われている」
「聖女があれを呼ぶのだと?」
「偶然かもしれんがな」
そんな訳がないでしょ。
それは絶対に『稀人聖女の作るおやつ』の匂いに惹かれてやってくるのだ。
しかし、どう見たってそのような福の神には見えないのですが。
強いて言うのであれば『残念神』あたり?
わからん。
どう見ても人畜無害なモフモフにしか見えない。
「とにかく、もう否定が出来ぬほどにはっきりと歴史上の統計からみて、そういった国益に圧倒的に貢献してくれている者なのでな。
今のようにあれこれと面倒な時代には大歓迎されるというわけだ。
見ろ、父のあの必死な姿を」
「お兄ちゃんの時代なら、何の苦労も要らないですね。
ただのマブダチなんだし。
サルの両側にマブダチ席でも作ってやったらいかがです?」
仕方がないな。
そのような福をもたらすような物ならば、後で聖女の新おやつでもやるしかあるまい。
そういう良い物だとわかった以上は、やっぱり家に持って帰ろう。
聖女が呼んだというのであれば、あれの管理権限は私にあるのだ。
もう完全にスイーツに対する期待感から私の後ろを追尾しているのだろう。
出会った時もそうだったし。
中身は殆どチュールみたいなものだからな。
もっと性質が悪いけど。
どうせ宴会が終わったら人見知りも始めて、私の背後をロックオンするのに違いあるまい。
「まあ、あいつらなら勝手に居座るさ」
「では、あの宴会が終わるまで、私らは女子会でも始めさせていただきますね」
「女子会?」
「女の子だけでやるお食事会とかスイーツパーティの事ですよ。
私の魔物騎士は参加資格ありです。
概ね、男に聞かれたくないような、えげつない生々しい話をしたりしますね」
「はっはっは、それはまた。
私は訊かなかった事にしよう」
「あ、あのマブダチども。
何の遠慮もなく、マブダチ・ポジションに収まりましたね。
モフモフともども、王様本人からサービスを受ける心積もりのようです。
なんという図々しい連中でしょう」
「まあ、一人は実の息子だし、もう一人は要人警護だと思えばいいさ。
うちの騎士団長のやる事には、誰もケチをつけんよ。
特に今みたいな時代にはな。
この前だって大活躍してくれただろう」
「ああ、納得しました。
それは王様だって少々労ったって罰は当たらないですよねえ」
まるでサーガの主人公のように、味方の絶体絶命大ピンチに登場して、強大な敵性魔物に躊躇いなく踊りかかっていき、あっさりと一撃で仕留める爆裂な勇者。
そして、あのような理不尽な『死の行軍』にも、痛みも苦しみもすべてを背負って先頭を切って臆することなく突っ込んでいき、体を張ったリーダーシップで部下を叱咤激励できる漢。
あの人が行くのなら、すべての部下が諦めて一緒に地獄まで行くしかないという、まさに騎士団長の鏡のような人物だ。
そりゃあ、周りの貴族達も文句を付けられないというか、あれを引きずり降ろした時点で自分がそれをやる破目になりかねないのだ。
団長ってそう野心があるようにも見えない、裏表のない豪傑だしなあ。
たぶん平民でしょ、あの人。
おまけに騎士団が大好きっぽい。
世の中、適材適所なんだなあ。
あの王太子も大概だけど。
まったく、いいコンビとしか言いようがない。
「おや、神獣様。
もう、おいででございますか。
皆の者、支度を早く」
なんと国王陛下が自ら接待をするらしくて張り切っている。
よかった。
私がホステスなんじゃなくて、王様自らホストとして頑張る所存なものらしい。
その他にマブダチの王太子もいるし。
ところで、王様ったらこいつをどうするつもりなのかな。
そこまで張り切っているところを見ると、この王宮で世話をするつもりなのだろうか。
そうなったら仕方がないので、お菓子を手土産にして存分にモフらせてもらうとしよう。
「御飯はまだでごわすか」
あいつめ。
やっぱり御飯の欲求に負けると、王様相手でもまったく人見知りしていない。
宴会が始まったら、私なんていなくたっていいよね。
まあ、今日はお菓子を作りに来たようなものだから別にいいんだけど。
「は、ははあ。ただいま」
王様、そんな奴に下手に出て、付け上がらせては絶対に駄目だと思うの。
一体、そいつにどんなご利益があるっていうのだ。
だが、笑ってリュールが私の頭をくしゃっとした。
そこのイケメン、そういう子ども扱い、今だけは止めるのです。
ここは王様、つまりあなたのお父上もおられる王宮の、しかも何やら訳のわからない行事のために、またしても貴族さん達が集められてしまっている場所なのですから。
気安く成人になった女の子の頭、しかもあんたらが言う所の聖女なる物の頭をそういう風にしてはならんと思うのは私だけ?
ああ、誰も気にしていませんね。
みんな、あの草色をした何かにもう夢中だ。
何なんだろう、あれは。
そんな私の顔を見て、リュールが解説してくれた。
「あれはな。
なんというか伝説の代物で、まあ縁起物みたいに考えておけ。
やはり、聖女のいる時に現れる事が多いものらしい。
建国神話に登場する存在で、一体どういう理屈なのかわからんのだが、国家の躍進・国防・災厄除けなどに貢献すると言われている」
「聖女があれを呼ぶのだと?」
「偶然かもしれんがな」
そんな訳がないでしょ。
それは絶対に『稀人聖女の作るおやつ』の匂いに惹かれてやってくるのだ。
しかし、どう見たってそのような福の神には見えないのですが。
強いて言うのであれば『残念神』あたり?
わからん。
どう見ても人畜無害なモフモフにしか見えない。
「とにかく、もう否定が出来ぬほどにはっきりと歴史上の統計からみて、そういった国益に圧倒的に貢献してくれている者なのでな。
今のようにあれこれと面倒な時代には大歓迎されるというわけだ。
見ろ、父のあの必死な姿を」
「お兄ちゃんの時代なら、何の苦労も要らないですね。
ただのマブダチなんだし。
サルの両側にマブダチ席でも作ってやったらいかがです?」
仕方がないな。
そのような福をもたらすような物ならば、後で聖女の新おやつでもやるしかあるまい。
そういう良い物だとわかった以上は、やっぱり家に持って帰ろう。
聖女が呼んだというのであれば、あれの管理権限は私にあるのだ。
もう完全にスイーツに対する期待感から私の後ろを追尾しているのだろう。
出会った時もそうだったし。
中身は殆どチュールみたいなものだからな。
もっと性質が悪いけど。
どうせ宴会が終わったら人見知りも始めて、私の背後をロックオンするのに違いあるまい。
「まあ、あいつらなら勝手に居座るさ」
「では、あの宴会が終わるまで、私らは女子会でも始めさせていただきますね」
「女子会?」
「女の子だけでやるお食事会とかスイーツパーティの事ですよ。
私の魔物騎士は参加資格ありです。
概ね、男に聞かれたくないような、えげつない生々しい話をしたりしますね」
「はっはっは、それはまた。
私は訊かなかった事にしよう」
「あ、あのマブダチども。
何の遠慮もなく、マブダチ・ポジションに収まりましたね。
モフモフともども、王様本人からサービスを受ける心積もりのようです。
なんという図々しい連中でしょう」
「まあ、一人は実の息子だし、もう一人は要人警護だと思えばいいさ。
うちの騎士団長のやる事には、誰もケチをつけんよ。
特に今みたいな時代にはな。
この前だって大活躍してくれただろう」
「ああ、納得しました。
それは王様だって少々労ったって罰は当たらないですよねえ」
まるでサーガの主人公のように、味方の絶体絶命大ピンチに登場して、強大な敵性魔物に躊躇いなく踊りかかっていき、あっさりと一撃で仕留める爆裂な勇者。
そして、あのような理不尽な『死の行軍』にも、痛みも苦しみもすべてを背負って先頭を切って臆することなく突っ込んでいき、体を張ったリーダーシップで部下を叱咤激励できる漢。
あの人が行くのなら、すべての部下が諦めて一緒に地獄まで行くしかないという、まさに騎士団長の鏡のような人物だ。
そりゃあ、周りの貴族達も文句を付けられないというか、あれを引きずり降ろした時点で自分がそれをやる破目になりかねないのだ。
団長ってそう野心があるようにも見えない、裏表のない豪傑だしなあ。
たぶん平民でしょ、あの人。
おまけに騎士団が大好きっぽい。
世の中、適材適所なんだなあ。
あの王太子も大概だけど。
まったく、いいコンビとしか言いようがない。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは


「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

最後に報われるのは誰でしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。
「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。
限界なのはリリアの方だったからだ。
なので彼女は、ある提案をする。
「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。
リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。
「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」
リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。
だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。
そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。


【完結】逆行した聖女
ウミ
恋愛
1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる