異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-27 イベント通過

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「おお。お前、やっぱりいい飲みっぷりだなあ」

「ぷっはあ。
 ロルーシャもねー」

 そんな感じに出来上がっているのは、当然のように、おいどんとお兄ちゃんだ。

 いつも王太子殿下としか呼んでこないし、周りもそう呼ぶから名前を知らなかったよ。

 それにしても、このモフモフめ。
 熊みたいに気の小さいチキン野郎のくせに、一杯入った途端に王太子殿下を呼び捨てマブダチモードか。

 こいつのどこが人見知りなんだよ。

 お兄ちゃんもいつの間にか起き上がってやってきて、本当にあんた二日酔いだったのみたいな感じで、当たり前のように飲んでいるし。

 まあ、一応ここはロルーシャお兄ちゃんの家なのだし、それは別にいいのだが。

「ねえ、ロルーシャ殿下。
 それはよろしいのですが、何故私にあてがわれた部屋で宴会なのです?

 これだと私が寝られないじゃないですか。
 そもそも女の子の部屋に男衆が堂々と居座るなんて、どういう了見ですか。

 あんたら、きっと朝まで宴会するんですよね。
 もう明日宴を開く必要なんてどこにもないんじゃないの」

「それは、サルがお前の傍を離れたがらないからだろう」

「いや? そいつ、宴会なら人見知りしないはずなのでは?」

「サヤ、お前は本当に細かい事を言う奴だなあ」

「バルカム・グランダース団長。
 あなたが大雑把過ぎるのではないでしょうか」

 なんか私の言い草がベロニカさんっぽくなってきている。

 いかんなあ。
 この団長と付き合っていると、自然体でこうなってくるのか。
 危険だ。

「はっはっは。サヤ、お前も飲め」

「飲みませんよっ。
 たとえ飲めたって、あんたらみたいなウワバミになんか付き合ってられますか!」

 そう、もう一人既に出来上がっている大雑把な奴もいたんだった。
 その団長は止むを得ず私が自ら召喚したんだけど。

 しまった。
 せめてベロニカさんも呼んでおくのだった。

 こんな事態は想定できる話だったのに。
 この私ともあろう者が、なんと迂闊な。

 リュール一人で彼のどっぷりと濃い関係者を二人も担当するのはキツイ。
 もう今更手遅れだけど。

 今日はアメリもまだ寝ていたから家に置いてきちゃったしなあ。
 あの人も昨日は一体どこまで飲むんだって感じに、最初から最後まで弾けていたし。

 ああいうのも久しぶりなんだろう。
 公爵家預かられメイドさんだとは知らなかった。

 ラストはリュールがお姫様抱っこで馬車に運んでいたからね。
 さすがに、あれはちょっと羨ましかったのは否めない。

 アメリの元お仲間の冒険者連中がまた盛大に弾けまくっていたし。
 あの人、あんなに生き生きとして笑うんだって初めて知った。

 うちのチャック君はまだ横倒しになったままだろうか。

 明後日くらい?
 私が帰る頃には起き上がっていてくれればよいのだが。

 アメリはもう復活している頃ではないかな。

 サリタスさんの方はまだ駄目かもしれない。
 きっと累積でダメージがあるのだろうから。

 いい機会だ。騎士団長も副騎士団長もこんな状態になっているのだから。
 この際だから彼もゆっくりしていればいい。

 騎士団の方はベロニカさんが見てくれるはずだ。
 後でこの宴会の話を聞いたら、サリタスさんもさぞかし頭を抱える事だろう。

 何だろうな。
 イケメン王子と元イケメン王子とモフモフに囲まれているから、私としては本来なら楽しくて仕方がないはずなのに、ちょっと何かが違うような気がして今一つ楽しめていないのだが。

 本日は、自分で大金払っての自腹の買い出しや、お料理をしに行かなくていいだけ昨日よりもマシだと思っておこう。

 いざとなったら耳栓をして寝るとしよう。

 そして、はっと気がついた。
 いつの間にか、もう朝になっていた。

 どうやら寝つきのいい私には耳栓の必要はなかったようだ。
 しかし、いつの間にベッドに入って寝てしまったものか。

『サヤはねえ。
 御飯食べて、おしゃべりして欠伸して、そのまま座ったまま寝てたよ』

「そ、それで?」

『リュールがお姫様抱っこ。そして今に至る』

「ガーン。
 せっかくの記念すべき初お姫様抱っこのイベントが知らぬ間に終了してた⁉」

『ちなみに無意識のうちに垂らしていた涎は僕が拭いておきました』

「うわああああ」

『今晩も宴会するの?』

「たぶんねえ。
 なんというか、王様が貴族なんかに御披露目したいらしいよ。
 しかし、くそう大切なイベントが~」

『今更そんな事を言うくらいなら、起きている間に甘えておいたらよかったのに』

「そんな器用な事が、この小夜様に出来るとでも?
 寝つきが良すぎて無理よー」

『今夜はアメリやベロニカを呼んでおいた方がいいんじゃない?』

「そうかも。
 ところで、肝心のそのモフモフ野郎はどこへ行った?」

『あそこー』

 チュールが指差す方を見たら、おバカ三人組が折り重なるようになって倒れていた。

 いつまで飲んでいたのよ。
 今晩が本番じゃなかったの?

 そこから少し離れた安全地帯にリュールが割と優雅な感じで横になっていた。
 さすがだなあ。
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