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第二章 世直し聖女
2-25 引き籠り
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「あのう、国王陛下。
本日は王太子殿下のお姿が見えないようですが」
「あ、ああ。あれは二日酔いじゃ。
一応、わしの名代として騎士団へ派遣したのでな」
「そうでございましたか。
あの人にそんな可愛いところがあったなんて、あわわわ」
だが困ったな。
そんなマブダチみたいな人がいれば、こいつも出てきそうなのだが。
仕方がない。
ここでそんな真似はしたくなかったのだが、かくなる上は。
「サルー、サラスール~。
美味しいシュークリームはどう?」
幸いにして些少の在庫が残っていたそれを取り出して釣ってみたのだが、何故かグズっている感じで出てこない。
きっと、好奇の目で見ている貴族の人達に人見知りしているのだろう。
昨日の行状とあの図体から考えると俄かには信じられないが、そういえば人と出会うと姿を消してしまう臆病な感じの奴なのだった。
昨日は、あのイケメンな王太子と騎士団長がいたので、流れでああなったものに違いない。
良くも悪くも、あの辺の人って人(や人じゃないもの)を安心させる不思議な雰囲気があるのだ。
あの王太子め、いつも割とどうでもいいような時にはいるくせに、肝心の時にいやがらないのだから実に困ったものだ。
後は……。
「陛下、神獣様は少々人見知りしておられるようなのですが、いかがいたしましょう」
「人見知りとな……」
王様も非常に困惑しておられるようだった。
まあ無理もないのだが。
なんかこう、ありがたい神の御使いみたいなものが、わざわざ王宮へやってきてくださったのだ。
隣国との深刻なトラブルもあった後なのだし、何かこう、そういうまるで信託のような出来事に期待するみたいな空気もあったのかもしれない。
貴族達も互いに顔を見合わせて、ざわざわと困惑を表に現しつつあった。
マズイな~。
これ、もしかして聖女である私の失態みたいな扱いになるの?
そりゃあないよ。
もうサルったら。
「サヤよ、これはどうしたらよいと思うかな」
「それならば、あの人を呼んでください。
騎士団長バルカム・グランダースを。
王太子殿下が出てこられないのであれば、あの人の出番です。
神獣様、サラスールはあの二人と仲がいいみたいなんで。
それで駄目なようなら、後はまたいつか機会を見て出てきてもらうしかありません」
「お前は神獣様をいつでも呼び出せるのかね」
「よくわからないのですが、彼は姿というか実態を消したまま私と一緒にいてくれているようです。
彼は魔物や魔獣とは異なり、別に私以外とも普通に話せるようなのですが」
「そうであるか。
では宰相よ。
騎士団長バルカムを呼ぶように」
あれ、あのおっさんが来るまで、私ってこのまま片膝立ちのままなの?
しかし、リュールは立ち上がって私にも立つように促した。
立ちっぱなしも結構キツイんですけどね。
全校集会で校長先生のお話が長いと、それなりに厳しいですから。
「彼も昨日は、あのように弾けまくっていたものを。
これは私も予想していなかったな。
まことに困ったものだ」
「まあね~。
でも今までの目撃例でのあの子の様子から考えて、それに関しては配慮しておくべきだったかもしれないわよね」
しばし、その謁見の間に集まった人々と困惑を分かち合いながら団長を待っていたのだが。
なんかこうドアをバーンっと自ら開けるような感じで彼がやってきた。
「やあやあ、国王陛下。
招集に応えて、この騎士団長バルカムがやってまいりましたぞー。
やや、これはまた皆様お揃いで!」
騎士団長、あんた。
よりにもよって、この謁見の間でそれなのかーい。
今、この私の手にハリセンがあったら思いっきり突っ込んでやりたい。
私はそのような気分でいっぱいだった。
「はっはっは。
相変わらず元気な奴よのう。
何よりじゃ」
元気過ぎるんですよ、陛下。
周りの貴族の人達も皆頭を振っていた。
ああ、やっぱりあの人は大物だなあ。
そして、肝心の奴めはというと。
なんだろうか、ヤドカリがもぞもぞと這い出てくるような雰囲気で、チラっと様子を窺っている感じが伝わってくる。
こういう事がわかるのも、私のユニークスキル・ミスドリトルの影響なんだろうか。
「あー、バルカムだあ」
「やや、可愛らしい声で私の名を呼ぶ者は一体誰だ?」
「それは……」
そして、私の声を遮るようにして奴が登場した。
「おいどんでごわす」
「おお、なんだ。
お前か。
いや昨日は一緒によく飲んだもんだな。
ところで、お前は一体何者なのだ?」
団長……人間じゃないところには、あまり拘っていなかったのね。
まあ、私も人の事はあまり言えなかったりするのですが。
私の場合はむしろ、人間じゃなくてモフモフな点に大いなる価値を見出しているというか。
本日は王太子殿下のお姿が見えないようですが」
「あ、ああ。あれは二日酔いじゃ。
一応、わしの名代として騎士団へ派遣したのでな」
「そうでございましたか。
あの人にそんな可愛いところがあったなんて、あわわわ」
だが困ったな。
そんなマブダチみたいな人がいれば、こいつも出てきそうなのだが。
仕方がない。
ここでそんな真似はしたくなかったのだが、かくなる上は。
「サルー、サラスール~。
美味しいシュークリームはどう?」
幸いにして些少の在庫が残っていたそれを取り出して釣ってみたのだが、何故かグズっている感じで出てこない。
きっと、好奇の目で見ている貴族の人達に人見知りしているのだろう。
昨日の行状とあの図体から考えると俄かには信じられないが、そういえば人と出会うと姿を消してしまう臆病な感じの奴なのだった。
昨日は、あのイケメンな王太子と騎士団長がいたので、流れでああなったものに違いない。
良くも悪くも、あの辺の人って人(や人じゃないもの)を安心させる不思議な雰囲気があるのだ。
あの王太子め、いつも割とどうでもいいような時にはいるくせに、肝心の時にいやがらないのだから実に困ったものだ。
後は……。
「陛下、神獣様は少々人見知りしておられるようなのですが、いかがいたしましょう」
「人見知りとな……」
王様も非常に困惑しておられるようだった。
まあ無理もないのだが。
なんかこう、ありがたい神の御使いみたいなものが、わざわざ王宮へやってきてくださったのだ。
隣国との深刻なトラブルもあった後なのだし、何かこう、そういうまるで信託のような出来事に期待するみたいな空気もあったのかもしれない。
貴族達も互いに顔を見合わせて、ざわざわと困惑を表に現しつつあった。
マズイな~。
これ、もしかして聖女である私の失態みたいな扱いになるの?
そりゃあないよ。
もうサルったら。
「サヤよ、これはどうしたらよいと思うかな」
「それならば、あの人を呼んでください。
騎士団長バルカム・グランダースを。
王太子殿下が出てこられないのであれば、あの人の出番です。
神獣様、サラスールはあの二人と仲がいいみたいなんで。
それで駄目なようなら、後はまたいつか機会を見て出てきてもらうしかありません」
「お前は神獣様をいつでも呼び出せるのかね」
「よくわからないのですが、彼は姿というか実態を消したまま私と一緒にいてくれているようです。
彼は魔物や魔獣とは異なり、別に私以外とも普通に話せるようなのですが」
「そうであるか。
では宰相よ。
騎士団長バルカムを呼ぶように」
あれ、あのおっさんが来るまで、私ってこのまま片膝立ちのままなの?
しかし、リュールは立ち上がって私にも立つように促した。
立ちっぱなしも結構キツイんですけどね。
全校集会で校長先生のお話が長いと、それなりに厳しいですから。
「彼も昨日は、あのように弾けまくっていたものを。
これは私も予想していなかったな。
まことに困ったものだ」
「まあね~。
でも今までの目撃例でのあの子の様子から考えて、それに関しては配慮しておくべきだったかもしれないわよね」
しばし、その謁見の間に集まった人々と困惑を分かち合いながら団長を待っていたのだが。
なんかこうドアをバーンっと自ら開けるような感じで彼がやってきた。
「やあやあ、国王陛下。
招集に応えて、この騎士団長バルカムがやってまいりましたぞー。
やや、これはまた皆様お揃いで!」
騎士団長、あんた。
よりにもよって、この謁見の間でそれなのかーい。
今、この私の手にハリセンがあったら思いっきり突っ込んでやりたい。
私はそのような気分でいっぱいだった。
「はっはっは。
相変わらず元気な奴よのう。
何よりじゃ」
元気過ぎるんですよ、陛下。
周りの貴族の人達も皆頭を振っていた。
ああ、やっぱりあの人は大物だなあ。
そして、肝心の奴めはというと。
なんだろうか、ヤドカリがもぞもぞと這い出てくるような雰囲気で、チラっと様子を窺っている感じが伝わってくる。
こういう事がわかるのも、私のユニークスキル・ミスドリトルの影響なんだろうか。
「あー、バルカムだあ」
「やや、可愛らしい声で私の名を呼ぶ者は一体誰だ?」
「それは……」
そして、私の声を遮るようにして奴が登場した。
「おいどんでごわす」
「おお、なんだ。
お前か。
いや昨日は一緒によく飲んだもんだな。
ところで、お前は一体何者なのだ?」
団長……人間じゃないところには、あまり拘っていなかったのね。
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私の場合はむしろ、人間じゃなくてモフモフな点に大いなる価値を見出しているというか。
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