81 / 104
第二章 世直し聖女
2-24 またしても、王宮からお呼び出し
しおりを挟む
おいどんは、馬車で王宮へ向かう中でも彼の得意技で実体を解いて私と共にあった。
もちろん、その状態でも私と話は出来る。
あの壁の中から聞こえる可愛らしい声で。
実体化すると、何故あのようなおいどんになってしまうものか。
『どこ行くのー』
「王宮よ。
あんた、そうやってずっと可愛いらしくしていられないの」
『知らなーい』
「もう!」
その一方でチャックは、まだ転がったままの格好でいて、「王宮へ行ってくるわね」と声をかけたら、このような事を。
『行ってらっしゃいませと、本官は横になったままの姿勢から失礼します。
これが魔物兵士死屍累々のマースデン王国であったならば、魔物がこのような醜態を晒した場合には散々蹴りを入れられた後で、縛り上げられて逆さ吊りの運命でありましょう。
しかしながら、本官は本日このままの姿勢で怠惰に過ごそうと思っていますと聖女サヤに通告いたします。
気力の充電に努めたいと、体の中の奥の方で何者かが叫んでいます』
「お、御疲れ。
今日は無理をしなくていいわよー。
ゆっくりと休んでね~」
ブラックな新職場でごめんねー。
でも前の職場の方がそれを十二分に上回るレベルでブラックだなあ。
そして馬車の中でチュールが言った。
『チャックの奴って、本当に堅い奴だから。
あれじゃサヤの従者をしていたら身がもたない。
今日はゆっくりと転がって休んでいたらいいよ』
「ねえ、それは一体どういう意味かな~」
『サヤは自他共に認める無茶な人だから。
そっと自分の胸に手を当ててごらん』
「うぐっ。それに関しては反論できない」
ふとリュールを見たら、うとうとして体がゆらゆらしていた。
くすっ、この人にしては本当に珍しいシーンだ。
じっくりと堪能しよう。
昨日のあれは、ある意味で死屍累々というのに相応しい戦いだった。
一応皆にも回復魔法はかけておいたんだけど。
あの後、二次会へ行った冒険者どもったら、今日はどうしているものか個人的には非常に興味が尽きないな。
飲み過ぎで唸っているのか、ピンピンして仕事に出かけているものか。
やがて馬車は王宮へと到着し、降りてから少々不安になって声をかける。
「サル、いる?」
『いるよー』
「ならいいや」
奴がいなかったら、ここへ来た意味がないもんね。
またあちこちを捜索しないといけなくなる。
案内の兵士に従って、またこの間の謁見の間に向かった。
「ねえ、リュール。
今回も謁見する必要あるの?
もうこういうのも慣れてきたけどさ」
「ん? ああ、今日の要件からすれば、おそらくな」
「へえ?」
あの、おいどんは王様と謁見させねばならない何かなのだと⁇
王太子殿下とは謁見どころか、もはや飲み友達と化していたような気がしたが。
しかし、あいつ実態を消してしまえるような存在なのに派手に飲み食いしていたな。
一体どうなっているのか。
まあチャックだって、食っているものがあれで、何故活動が可能なのか未だに謎なのだが。
異世界には妙な謎が多い。
とりあえず、あの詐欺師の青い鳥の謎を解き明かさない限り、私は家に帰れない訳なのだが。
そして、本日も重々しく開けられた扉を取って中に入れば、やっぱり今日もいたよ。
貴族なんかの偉い人達が。
しかも、今日は妙にこっちを見ている。
この前は、単にお義理で出席していましたよといった風情であったのに。
そんなに「おいどん」の事が気になるのかな。
まあ、昨日は十分に王宮を騒がせたわけなのだが。
それを言うのなら、チャックの方がインパクトあったはずなのだが。
チャックは昨日もお目見えしちゃったけどね。
もっとも、偉い人はみんな退避しちゃっていて王宮にはいなかったけど。
そして我々が王様の前へ進み出ると、彼は気もそぞろな感じな感じで気忙し気に話しかけてきた。
「サヤよ、よく来てくれた。
して、あの方は?」
「は? あの……方?」
私は片膝を着きながら表を上げて首を傾げてしまった。
あの方とは、まさか⁇
いや、いくらなんでも……。
「精霊獣、いや神獣様は」
はい、大当たり。
し、神獣~?
えー……。
そんな私の顔を見て、王様も少し驚いたような風だ。
「ど、どうしたのじゃ、サヤ」
「ああ、いや。
あのう、昨日私めが連れて帰った物が神獣ですと?」
「そうじゃ。
この国では昔から崇められておる、神のお使いのようなもの。
それが神獣様じゃ」
そ、想像できない。
あれのどこに、そのような神々しい要素があるというのか。
別にここに用があったわけじゃなくて、いい匂いに釣られてきただけなのに。
「そうですか。
そのような方でございましたか」
「そうじゃ。
して、神獣様はどこにおられるのじゃ?」
「サル、いるかな」
「いるよー」
「おお、そこにいらっしゃるのじゃな」
「あなた、だあれ?」
「私はこの国の国王ですじゃ」
「知らない」
思わず沈黙の帳が覆い尽くした謁見の間。
リュールが軽く咳払いを一つ。
だが、私がボーっとしているままなので、咳払いがもう一つ。
「あのう、私にどうせよと」
「ああ、彼に姿を見せてもらえるように頼んでくれないか」
「ねえ、サル。ちょっと姿を見せてくれない」
「えー、なんで?」
「いいからさー」
「なんか、やだー」
あのモフモフ、この期に及んで駄々をこねやがった。
今まで散々ここで徘徊して人を驚かせていやがったくせに。
困った奴だな。
ここへ来ちゃったというのに、今更どうしろと。
もちろん、その状態でも私と話は出来る。
あの壁の中から聞こえる可愛らしい声で。
実体化すると、何故あのようなおいどんになってしまうものか。
『どこ行くのー』
「王宮よ。
あんた、そうやってずっと可愛いらしくしていられないの」
『知らなーい』
「もう!」
その一方でチャックは、まだ転がったままの格好でいて、「王宮へ行ってくるわね」と声をかけたら、このような事を。
『行ってらっしゃいませと、本官は横になったままの姿勢から失礼します。
これが魔物兵士死屍累々のマースデン王国であったならば、魔物がこのような醜態を晒した場合には散々蹴りを入れられた後で、縛り上げられて逆さ吊りの運命でありましょう。
しかしながら、本官は本日このままの姿勢で怠惰に過ごそうと思っていますと聖女サヤに通告いたします。
気力の充電に努めたいと、体の中の奥の方で何者かが叫んでいます』
「お、御疲れ。
今日は無理をしなくていいわよー。
ゆっくりと休んでね~」
ブラックな新職場でごめんねー。
でも前の職場の方がそれを十二分に上回るレベルでブラックだなあ。
そして馬車の中でチュールが言った。
『チャックの奴って、本当に堅い奴だから。
あれじゃサヤの従者をしていたら身がもたない。
今日はゆっくりと転がって休んでいたらいいよ』
「ねえ、それは一体どういう意味かな~」
『サヤは自他共に認める無茶な人だから。
そっと自分の胸に手を当ててごらん』
「うぐっ。それに関しては反論できない」
ふとリュールを見たら、うとうとして体がゆらゆらしていた。
くすっ、この人にしては本当に珍しいシーンだ。
じっくりと堪能しよう。
昨日のあれは、ある意味で死屍累々というのに相応しい戦いだった。
一応皆にも回復魔法はかけておいたんだけど。
あの後、二次会へ行った冒険者どもったら、今日はどうしているものか個人的には非常に興味が尽きないな。
飲み過ぎで唸っているのか、ピンピンして仕事に出かけているものか。
やがて馬車は王宮へと到着し、降りてから少々不安になって声をかける。
「サル、いる?」
『いるよー』
「ならいいや」
奴がいなかったら、ここへ来た意味がないもんね。
またあちこちを捜索しないといけなくなる。
案内の兵士に従って、またこの間の謁見の間に向かった。
「ねえ、リュール。
今回も謁見する必要あるの?
もうこういうのも慣れてきたけどさ」
「ん? ああ、今日の要件からすれば、おそらくな」
「へえ?」
あの、おいどんは王様と謁見させねばならない何かなのだと⁇
王太子殿下とは謁見どころか、もはや飲み友達と化していたような気がしたが。
しかし、あいつ実態を消してしまえるような存在なのに派手に飲み食いしていたな。
一体どうなっているのか。
まあチャックだって、食っているものがあれで、何故活動が可能なのか未だに謎なのだが。
異世界には妙な謎が多い。
とりあえず、あの詐欺師の青い鳥の謎を解き明かさない限り、私は家に帰れない訳なのだが。
そして、本日も重々しく開けられた扉を取って中に入れば、やっぱり今日もいたよ。
貴族なんかの偉い人達が。
しかも、今日は妙にこっちを見ている。
この前は、単にお義理で出席していましたよといった風情であったのに。
そんなに「おいどん」の事が気になるのかな。
まあ、昨日は十分に王宮を騒がせたわけなのだが。
それを言うのなら、チャックの方がインパクトあったはずなのだが。
チャックは昨日もお目見えしちゃったけどね。
もっとも、偉い人はみんな退避しちゃっていて王宮にはいなかったけど。
そして我々が王様の前へ進み出ると、彼は気もそぞろな感じな感じで気忙し気に話しかけてきた。
「サヤよ、よく来てくれた。
して、あの方は?」
「は? あの……方?」
私は片膝を着きながら表を上げて首を傾げてしまった。
あの方とは、まさか⁇
いや、いくらなんでも……。
「精霊獣、いや神獣様は」
はい、大当たり。
し、神獣~?
えー……。
そんな私の顔を見て、王様も少し驚いたような風だ。
「ど、どうしたのじゃ、サヤ」
「ああ、いや。
あのう、昨日私めが連れて帰った物が神獣ですと?」
「そうじゃ。
この国では昔から崇められておる、神のお使いのようなもの。
それが神獣様じゃ」
そ、想像できない。
あれのどこに、そのような神々しい要素があるというのか。
別にここに用があったわけじゃなくて、いい匂いに釣られてきただけなのに。
「そうですか。
そのような方でございましたか」
「そうじゃ。
して、神獣様はどこにおられるのじゃ?」
「サル、いるかな」
「いるよー」
「おお、そこにいらっしゃるのじゃな」
「あなた、だあれ?」
「私はこの国の国王ですじゃ」
「知らない」
思わず沈黙の帳が覆い尽くした謁見の間。
リュールが軽く咳払いを一つ。
だが、私がボーっとしているままなので、咳払いがもう一つ。
「あのう、私にどうせよと」
「ああ、彼に姿を見せてもらえるように頼んでくれないか」
「ねえ、サル。ちょっと姿を見せてくれない」
「えー、なんで?」
「いいからさー」
「なんか、やだー」
あのモフモフ、この期に及んで駄々をこねやがった。
今まで散々ここで徘徊して人を驚かせていやがったくせに。
困った奴だな。
ここへ来ちゃったというのに、今更どうしろと。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

シャルパンティエ公爵家の喫茶室
藍沢真啓/庚あき
恋愛
私──クロエ・シャルパンティエが作るお菓子はこの国にはこれまでなかった美味しいものらしい。
そう思うのも当然、だって私異世界転生したんだもん!(ドヤァ)
実はその過去のせいで、結婚願望というのがない。というか、むしろ結婚せずに美味しいスイーツを、信頼してるルーク君と一緒に作っていたい!
だけど、私はシャルパンティエ公爵令嬢。いつかは家の為に結婚をしなくてはいけないそうだ。
そんな時、周囲の声もあって、屋敷の敷地内に「シャルパンティエ公爵家の喫茶室」をオープンすることに。
さてさて、このままお店は継続になるのか、望まない結婚をするのかは、私とルーク君にかかっているのです!
この話は、恋愛嫌いの公爵令嬢と、訳り執事見習いの恋物語。
なお、他サイトでも掲載しています。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる