77 / 104
第二章 世直し聖女
2-20 ブラッディ・アメリ
しおりを挟む
「ふう、なんとか買えて良かったなあ」
あれから、先に騎士団本部へ行き、今まさに公爵邸の夕食準備の手伝いのために帰らんとしていた調理人達を引き留める事に成功した。
その足で酒屋まで行って、手持ちと同じだけの白金貨五枚分の酒とビヤ樽を冷やす魔道具をもう十セット無事に仕入れたのであった。
「ねえ、アメリ。
一回の宴会の酒代だけで白金貨十枚、私の世界のお金でたぶん一億円ほどを使うって何なんだろうね」
「まあ滅多にない豪快な飲み会になりましたね」
「あのモフモフゲスト、ちゃんと宴会に来ているかしら」
「それよりも、あの大捜索の結末が気になるのですが。
王族まで退避させられて、王宮が封鎖されていましたしね」
「もうそれはいいわよ。
渦中の彼があれだけ人畜無害なんだから」
「それもそうですね。
それよりも、私的にはあの高級酒の味が気になります。
もちろん、サヤ様の故郷のお料理も」
「アメリ、今日はもう無礼講で好きにやってていいからね。
飲み放題食い放題よ」
「では、御言葉に甘えさせていただきます」
「そうそう。
あんたも慰労されるメンバーの数に入っているんだからね~」
何しろ、前線にて私の回収係を務めていた、私の命綱でしたので。
もし、チャックが本気であったなら、間違いなくこの方の御世話になる破目になってしまっていたはず。
そして、辿り着いたその場では。
「おいどんは漢でごわす!」
何故か、件のそいつが『腹芸』をお見せして踊っていた。
元々、お腹は丸出しなんだけど。
「あ、サヤさん、来てくれましたか。
なんかもう、『勝手に始めた方』がいらっしゃいまして。
料理とお酒と材料をお願いします。
今、騎士団の手持ちの酒と食料で凌いでいたところで」
もちろん、それはモフモフなお腹にアートを展開されて、そこで踊っていらっしゃるアイツの事だよな。
「貴様らあ、ほんのちょっとも待てんのかあっ。
いきなりだったんで、こっちにも準備とか段取りとかがあるんですからねっ」
「おう、サヤ。
遅かったじゃないか。
もう始めているぞ」
「おい、そこの酔っ払い。
ゲストを連れていけとは言ったけど、誰が肩組んで先に出来上がっていろと言ったかあっ」
だが、そこにもう一人、本当はいてはいけない男が反対の肩を組んで出来上がっていた。
「なあ、そこの王太子殿下。
あんたは、そこで何をやっているんだああああ」
「そう固い事を言うな。
サヤ、さっさと酒と料理を出せっ」
「もうっ」
さては、このイケメンが騎士団長と組んで、この事態を招いたな。
仕方がないので、まず宴会場と既に取っ払われている仕切りを挟んで地続きの、魔法演習場のような場所に『チャック』を据えて、エールを注ぐ係に命じた。
「悪いけど、ちょっとこっちをお願いね」
『イエスマム。
国は変われども、宴の楽しさは変わらないようですね』
「そうだったか。
とりあえず、ここを本作戦におけるエール陣地に制定する。
聖女サヤの名において、ここの管理を君に任せる」
『イエスマム。本官から聖女マムの本日の健闘を祈らせていただきます』
「いや、酔っ払いどもが猛烈に突撃してくるだろうから、マジで頼んだわよ」
『お任せを。
軍属ならばこの手の争乱に対する手管は心得ておりますれば』
いずこも一緒か!
もう頭が痛くなるな。
そして空になったテーブルに、次々と暖かい料理を並べていく。
「サヤ、早くー」
叫んでいるのはマリエールだ。
何故、彼女が。
だが、そんな事に構ってはいられない。
客が押し寄せている。
なんか冒険者らしき方の数が凄い!
「マリエール、これは一体?」
「どうもこうもないわ。
実はたいした事じゃないのに大騒ぎになってしまった感じなので、あちこちの部署が困った挙句、ここへすべての始末を押し付けられたって感じよ」
「ええっ、マジでえええ」
つまり、飲んですべてを水に流すと?
「だから、王太子殿下がここに来て弾けてるんじゃないの。
誰か王家から来て慰労しないといけないムードだったから。
まあ適材適所の配役ですけどね。
あの人もいろいろあったからなあ。
あの謎精霊獣と息ピッタリみたいだし」
「なんなの、その展開。
そっちの方が謎だわ」
「とにかく、騎士団の冷蔵庫が完璧に空ッケツだから、早く材料出して。
本来なら慰労される側にいるはずの回復魔法士も、何故か料理を作る側に回ってるし」
「お、おおっ」
大慌てで材料を出しまくり、まだ食われずに無事だった冷蔵庫の中のプリンを、スペースを開けるために回収した。
そして宴会場に戻って、残りの料理を出しまくり、それからフルーツポンチやサンドイッチなんかを出して会場で並べまくったが、それらが出す端から消えていく。
まさに数の暴力であった。
こんな経験は初めてだった。
さっそくウインナーも焼きまくりだ。
ウインナー用に用意しておいた各種ソースも、卓上調理器と一緒に人海戦術にて大慌てで並べていった。
「おいおいおい、これ全部で五百人くらいいねえ?
あるいはもっと?
これ絶対に料理とか足りなくね?」
そして、アメリといえば冒険者に混じって楽しく弾けていた。
「よお、アメリ。
何、またそんな格好をしているんだよ。
また冒険者に返り咲きなのかあ」
「例の件で公爵家に引き取られたって聞いたんだがな。
復帰したのか?」
「ああ、聞いてよ。
そうじゃないんだけど、今度来た聖女様が楽しい人でさあ。
あたし、その人の御世話をしているんだけど、それがもう楽しくてさ。
今日もサイコー。
愛してるわよ、あんたら」
弾けてる。
彼女が弾けている。
やっぱり、元冒険者だったのか。
「ほお、鮮血のアメリがねえ。
きっと、その聖女様がとてつもなく弾けた方なのに違いねえ!」
アメリ、あんた……。
でもまあ、そこの連中と来た日には、なんと迂闊な。
この私の悪魔聖女の悪名を知らんとみえる。
あんた達って、この前の騒ぎにうっかりと間に合っていたりしたら、私を別の意味で崇拝する羽目になっていたんだからね?
あれから、先に騎士団本部へ行き、今まさに公爵邸の夕食準備の手伝いのために帰らんとしていた調理人達を引き留める事に成功した。
その足で酒屋まで行って、手持ちと同じだけの白金貨五枚分の酒とビヤ樽を冷やす魔道具をもう十セット無事に仕入れたのであった。
「ねえ、アメリ。
一回の宴会の酒代だけで白金貨十枚、私の世界のお金でたぶん一億円ほどを使うって何なんだろうね」
「まあ滅多にない豪快な飲み会になりましたね」
「あのモフモフゲスト、ちゃんと宴会に来ているかしら」
「それよりも、あの大捜索の結末が気になるのですが。
王族まで退避させられて、王宮が封鎖されていましたしね」
「もうそれはいいわよ。
渦中の彼があれだけ人畜無害なんだから」
「それもそうですね。
それよりも、私的にはあの高級酒の味が気になります。
もちろん、サヤ様の故郷のお料理も」
「アメリ、今日はもう無礼講で好きにやってていいからね。
飲み放題食い放題よ」
「では、御言葉に甘えさせていただきます」
「そうそう。
あんたも慰労されるメンバーの数に入っているんだからね~」
何しろ、前線にて私の回収係を務めていた、私の命綱でしたので。
もし、チャックが本気であったなら、間違いなくこの方の御世話になる破目になってしまっていたはず。
そして、辿り着いたその場では。
「おいどんは漢でごわす!」
何故か、件のそいつが『腹芸』をお見せして踊っていた。
元々、お腹は丸出しなんだけど。
「あ、サヤさん、来てくれましたか。
なんかもう、『勝手に始めた方』がいらっしゃいまして。
料理とお酒と材料をお願いします。
今、騎士団の手持ちの酒と食料で凌いでいたところで」
もちろん、それはモフモフなお腹にアートを展開されて、そこで踊っていらっしゃるアイツの事だよな。
「貴様らあ、ほんのちょっとも待てんのかあっ。
いきなりだったんで、こっちにも準備とか段取りとかがあるんですからねっ」
「おう、サヤ。
遅かったじゃないか。
もう始めているぞ」
「おい、そこの酔っ払い。
ゲストを連れていけとは言ったけど、誰が肩組んで先に出来上がっていろと言ったかあっ」
だが、そこにもう一人、本当はいてはいけない男が反対の肩を組んで出来上がっていた。
「なあ、そこの王太子殿下。
あんたは、そこで何をやっているんだああああ」
「そう固い事を言うな。
サヤ、さっさと酒と料理を出せっ」
「もうっ」
さては、このイケメンが騎士団長と組んで、この事態を招いたな。
仕方がないので、まず宴会場と既に取っ払われている仕切りを挟んで地続きの、魔法演習場のような場所に『チャック』を据えて、エールを注ぐ係に命じた。
「悪いけど、ちょっとこっちをお願いね」
『イエスマム。
国は変われども、宴の楽しさは変わらないようですね』
「そうだったか。
とりあえず、ここを本作戦におけるエール陣地に制定する。
聖女サヤの名において、ここの管理を君に任せる」
『イエスマム。本官から聖女マムの本日の健闘を祈らせていただきます』
「いや、酔っ払いどもが猛烈に突撃してくるだろうから、マジで頼んだわよ」
『お任せを。
軍属ならばこの手の争乱に対する手管は心得ておりますれば』
いずこも一緒か!
もう頭が痛くなるな。
そして空になったテーブルに、次々と暖かい料理を並べていく。
「サヤ、早くー」
叫んでいるのはマリエールだ。
何故、彼女が。
だが、そんな事に構ってはいられない。
客が押し寄せている。
なんか冒険者らしき方の数が凄い!
「マリエール、これは一体?」
「どうもこうもないわ。
実はたいした事じゃないのに大騒ぎになってしまった感じなので、あちこちの部署が困った挙句、ここへすべての始末を押し付けられたって感じよ」
「ええっ、マジでえええ」
つまり、飲んですべてを水に流すと?
「だから、王太子殿下がここに来て弾けてるんじゃないの。
誰か王家から来て慰労しないといけないムードだったから。
まあ適材適所の配役ですけどね。
あの人もいろいろあったからなあ。
あの謎精霊獣と息ピッタリみたいだし」
「なんなの、その展開。
そっちの方が謎だわ」
「とにかく、騎士団の冷蔵庫が完璧に空ッケツだから、早く材料出して。
本来なら慰労される側にいるはずの回復魔法士も、何故か料理を作る側に回ってるし」
「お、おおっ」
大慌てで材料を出しまくり、まだ食われずに無事だった冷蔵庫の中のプリンを、スペースを開けるために回収した。
そして宴会場に戻って、残りの料理を出しまくり、それからフルーツポンチやサンドイッチなんかを出して会場で並べまくったが、それらが出す端から消えていく。
まさに数の暴力であった。
こんな経験は初めてだった。
さっそくウインナーも焼きまくりだ。
ウインナー用に用意しておいた各種ソースも、卓上調理器と一緒に人海戦術にて大慌てで並べていった。
「おいおいおい、これ全部で五百人くらいいねえ?
あるいはもっと?
これ絶対に料理とか足りなくね?」
そして、アメリといえば冒険者に混じって楽しく弾けていた。
「よお、アメリ。
何、またそんな格好をしているんだよ。
また冒険者に返り咲きなのかあ」
「例の件で公爵家に引き取られたって聞いたんだがな。
復帰したのか?」
「ああ、聞いてよ。
そうじゃないんだけど、今度来た聖女様が楽しい人でさあ。
あたし、その人の御世話をしているんだけど、それがもう楽しくてさ。
今日もサイコー。
愛してるわよ、あんたら」
弾けてる。
彼女が弾けている。
やっぱり、元冒険者だったのか。
「ほお、鮮血のアメリがねえ。
きっと、その聖女様がとてつもなく弾けた方なのに違いねえ!」
アメリ、あんた……。
でもまあ、そこの連中と来た日には、なんと迂闊な。
この私の悪魔聖女の悪名を知らんとみえる。
あんた達って、この前の騒ぎにうっかりと間に合っていたりしたら、私を別の意味で崇拝する羽目になっていたんだからね?
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる