異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

文字の大きさ
上 下
75 / 104
第二章 世直し聖女

2-18 ティーパーティーのお客様

しおりを挟む
 ハッサン達は上司に預けてきた。
 危険はあまりなさそうだから、もう彼らと一緒にいる必要はなさそうだ。

 むしろ、うちらだけで電撃行動を取りたい場合は却って邪魔になりそう。

「さて、そうは言ったものの、どうしようかしらね。
 何か意見のある人」

『はい、おやつを所望します』

「そうだね、もういい時間だし。
 だいぶ歩いたから補給したいわ。
 そうしましょ。

 どうやら危険度は低いみたいだから、騎士団が今すぐ排除しないといけない相手でもなさそうだし。
 あたしは見つけたいんだけどねえ」

 チュールったら、今日は先程のプリンに加えてタルトも持っているのを知っているので、すかさず催促が来たわね。

 まあいいんだけど。これ、すぐ決着がつきそうにないから、どの道今夜のパーティは無理そうだしなあ。

「じゃあねえ、まずはプリンの試食からいこうか」

 私はピクニックシートを敷いて、そこに店を広げた。
 アメリは私が出したティーセットと簡易魔導コンロでお茶の支度をしてくれている。

 私は陶器のカップに入ったプリンをひっくり返して、底に付けておいた小さな栓を抜いた。

 プルルンっと揺れてお皿に着地した、オーソドックスなプリンの姿にチュールの愛らしい瞳が輝く。

 今度焼きプリンに挑戦しなくちゃ。
 ふんわりホイップクリームが完成したら、是非ともプリンアラモードも作らなくちゃね。

 サンデー系なんかでも使えるように、市販のウエハースの板なんかも用意してある。

「チャック、あんたもどう?」

『本官はそちらの、空いた魅惑の陶器の誘惑にそわそわしていると聖女サヤにお伝えしておきます』

「あんた、本当にこういうものが好きねえ」

『いや、マースデン軍では結構ゴミ処理なども承っていましたしね。
 どうにも、慣れ親しんだそういう方向に嗜好が偏っていると、少々内臓を赤らめながら通達いたします』

「そこ、赤面するの内臓なんだ……」

『本官には顔面を赤面する機能が付随しておりません』

 なんだかんだ言って、皆でそれぞれ楽しんでいた。

 タルトなども楽しみ、アメリと魔物? 探索とは、まったく関係ないお喋りで盛り上がっていたら、後ろから声がした。

「美味しそう……」

「ん? 食べたいの?」
「うん」

「ねえ、サヤ様」
「なあに」

「今の声はどなたのお声で?」 
「え?」

 そして気がついた。私とアメリは王宮の通路の壁を背にしているのだと。

 二人で振り向いてみたが、そこには王宮の愛想の欠片もない石壁があるだけだ。

「誰というか、どこから喋っていたわけ?」

 何かの魔法士の術か何かだろうか。
 しかし、その内容がなあ。

 心なしか、チュールっぽい感じの声だったような。

「チュール、今腹話術して遊んでなかった?」

 チュールも、なんか腹話術の人形っぽいサイズだしね。
 今度、腹話術ごっこして遊んでみようか。

『えー、僕知らないけどな。
 それで腹話術って何』

「そうだよね。
 いや本当は知っていました。
 チュールっぽい雰囲気だったけど、何かこうくぐもったような、少し間延びしたような声だったもの」

「じゃあ、誰なのでしょう」

「さあ。
 少なくとも、私には壁の中からおやつの催促をする友達はいないとだけ答えておきます」

「食べていい?」
「ん、いいわよ」

 だが、次の瞬間に慌てた。

「って誰、ホントに」

 そこには、どんっとモフモフな奴が鎮座ましていた。
 護衛騎士たるチャックも、そいつのために場所を開けてやったようだ。

 なんというか、どうやらそやつが噂のあの人? らしい。

 私は邪気の欠片も発していない、そいつのためにプリンを開けてやった。

 そいつがでかいので、並んで座る形になってしまったチュールにもお代わりを出してやる。

 そいつがプリンの匂いをフンフンと嗅いで、それから大きな手でちんまりとスプーンを持っている。

 なんていうか、白くない雪男みたいな感じ?
 草色をしていて、ずんぐりむっくりな手足を持ち、やや太めで寸胴な感じの胴体にユーモラスな体形。

 そして、何よりも温厚そうなその眼。

 口は多少大きめなのだが、怖いというよりも少々だらしがないような、これまたユーモラスな感じ。

 プリンでお安く釣れてしまうこいつは、少なくともこの王宮にていかなる者にも危害を加えるつもりはなさそうな感じであった。

「タルトもあるよ」
「いただきます」

 タルトの載った皿を受け取った無邪気そうな何者か。

 そして、そいつは普通に人語を喋っていた。

 少なくとも、スキル・ミスドリトルは発動していないと思う。
 アメリにも聞こえたもんね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

処理中です...