異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-17 モフモフ捜索隊

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「いないなあ、モフモフ」

「あのう、サヤ様。
 敵は王宮に侵入した魔物なのですよ?」

「そいつ、何かしたの?」

「あ、いやまだ何も」

「本当に敵?」

「あ、しかし、魔物でありますので」

 私はハッサン氏の前に、チュールを差し出し、チュールはチャックを指差した。

「あ、いや、その子達はその」

 チャックなんか、もろに騎士団や近衛兵とやりあっていたんだけどね。

「まあ、探してみようよ。
 あたし、そいつとお話できるだろうし。
 たぶん、チャックにはそいつの居場所がわかるだろうし」

「そんなものですかねえ」

『聖女サヤに残念なお知らせです。
 どうやら相手は私が追跡できない相手らしいとご報告いたします』

「あらなんで?」

『本官にその痕跡を発見させない物。
 それは、おそらく対象が魔物ではないと思われます』

「え、魔物じゃない?」

『本官はおそらく精霊などの何かだと推定いたします。
 消えてしまうのは、それが実態を持たない幻獣のような物である可能性があります。

 その場合は、さして危害を加えられる事はないのではと推定いたします。
 ただし出現理由は不明とお伝えしておきます』

「ハッサンさん。
 うちのチャックが、そいつは魔物じゃないだろうってさ」

「魔物ではないと?」

「うちの子は魔物の気配にも鋭敏なの。
 もしかしたら、魔物部隊用の魔物を捕らえるような部隊にいたのかもね。
 それに魔物を操るテイマーの姿も見えないようだし」

『聖女サヤの意見を肯定します。
 本官は、まさにそのような部隊におりましたので。

 マースデン王国には、そのようなティムされた魔物部隊があり、多数の魔物がおりますが、その扱いは酷く、魔物達の不満が爆発しそうとお伝えしておきましょう。

 なお、そのような部隊の魔物が送り込まれた場合は王宮内にテイマーがいない事はありえません。
 マースデン王国軍属には、今回のような存在は本官が知る限りは存在しません』

 さりげなく、魔物の不満をさらっとぶちまけてくる本官。
 これは割といい話かもしれない。

「そいつ、マースデンの魔物じゃないってさ。
 敵じゃなさそう。
 実体があるのかないのかよくわからない相手だな」

 問題は私がモフれるような奴なのかどうか、まさにその一点なのだが!

「そうですか、うーん」

「ねえ、そいつってどんな感じの奴?」

「かなり大きかったそうです。毛むくじゃらで立ち上がると天井につかんばかりであったと。
 人のような姿をしていたとも。
 まあ頭があって手足があって、二本足で立っていたというだけですが」

「目は?」

「は? 目ですか」

「うん。
 目を見れば、凶暴な奴なのか、大人しい奴なのかわかると思うの。
 目撃者を襲ったりしなかったんだよね」

「はあ、そいつはすぐに姿を消して、逃げ去る足音も聞かなかったそうで。
 ほぼ全員同じ証言ですな。
 一人は気絶してしまいましたので」

「目撃者は誰?」

「はあ、メイドが三名に文官が二名です。
 近衛兵や貴族などの人間は見ておりません」

 なるほど、そんな物を見かけたらビビってしまって、まともに観察していないような奴らかあ。

 そいつらの証言は当てにならない。
 自分の目で見るまでは判断つかないな。

「チャック、そいつの危険度は?
 もし攻撃を受けたら私を守れそう?」

『本官は、まず攻撃をしてくる事はないと推定します。
 その根拠といたしましては、まず五名もの人間と遭遇して攻撃せずに向こうが逃走した事。
 また自分の身を守るために姿を消したことから見て、おそらく弱い物なのだと推定できます。

 ただし、その種の物が攻撃してきた場合の防御に関しては未知数。
 チュール先輩のスキルならば、かなりの確率で防げるのではないかと推定しますが、完璧かどうかは本官も保証出来かねます。

 本官が牽制しようにも相手が物理的な攻撃を受け付けない可能性も考慮すべしと聖女サヤに提言します』

「はあ、むしろ遭遇しても逃げられちゃう事が危惧されるわけね」

『イエスマム』

 一応は移動しつつ、そういう会話をしていたが、騎士団や近衛兵に遭遇する度にギョっとされる。

 仕方がないので、その都度聖女の笑顔と魔物からの御愛想を配給しておいた。

 そして、ようやく前方に探し人を派遣した。

「おーい、副団長様~」

「ん? サヤか。
 ああ、そいつらを連れてきたのか」

「あれから手掛かりは?」

「まったくだ。そちらは」

「うん。魔物じゃないみたいよ。
 精霊とか幻獣みたいな、実態を消せるような何からしい。
 チャックの話では少なくとも、そういう奴はマースデン王国軍にはいないそうだし」

「そうなのか?」

 チャックは、私が渡しておいたスケッチブックにペンでこう書いた。

『イエッサー』と。

 この世界のスケッチブックはレトロな表紙と紐綴じになっていて、とっても素敵。

 自分用にも買っておいた。
 チュールも欲しがったので、みんなお揃いだ。

「危険ではないのか」

「よくわからないけど、チャックは弱い相手ではないかって。
 ただ、その出現理由は不明だし、彼にも追跡できないって。
 情報は他の人にも伝えておいて。
 みんなピリピリしてるよ」

「そうか、ではどうするかな」

「じゃあ、あたしはそいつを探しにいくわ。
 会えば、私ならそいつと会話できるかも。
 まだ王宮にいそうな気がするの。
 きっと何か理由があって王宮に現れたんだと思うから」

「そうか。また何かわかったら教えてくれ」

「了解」
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