67 / 104
第二章 世直し聖女
2-10 御用達っぽい何か
しおりを挟む
アメリが案内してくれた店は、もう店構えからして超高級だった。
入り口の上に埋め込まれている看板が高価なミスリルで出来ているし。
こ、これメッキかなあ。
思わず冷や汗が背中を伝います。
というか、あのような高価な看板を無造作に野晒しにしておくなんて、さすがに無用心じゃないの⁉
ありえない。
あれ一体いくらするのよ……金看板じゃなくって、馬鹿高いミスリルで出来た看板だよ?
「こんな店で買うお酒っていくらするわけ!?」
だが、アメリはくすっと笑って私の可愛いお腹を神官服の上からポンポンと叩いた。
「まあまあ、今日は懐も温かい事ですし。
これくらいしてあげてもいいんじゃないですか」
「まあ、それもごもっとも」
あいつらには、あれだけの目に遭わせてしまったからなあ。
まあいいか。
中へ入ると、どこの高級ブティックの店員だよと思うような、豪奢な感じのスーツを着た人がやってきて挨拶してくれた。
少なくとも私にだって、よれよれで安物のスーツとピシっとした高級スーツの区別くらいはつく。
これは最高級クラスのものだ。
応対の店員さんでこれ⁉
「本日はリカー・ロイヤルへようこそ。
どのようなご用命で?」
うん、名前からして高そうな雰囲気だ。
どのようなもへったくれもない。
「えー、王国騎士団でパーティをやりますので、良いお酒を見繕っていただきたいのですが。
あ、この白金貨一枚分お願いします。
本日しか手に入らないようなお酒がありましたら、それも優先して是非お願いします」
「畏まりました。
では、そこの待合室でお待ちください。
今、お茶をお持ちしますので」
彼は恭しく礼をすると、待機していただろう案内の女性を呼んだ。
私は前払いでプロに丸投げしたのだ。
さっきから、その辺のお酒の瓶についていた値札をチラっと見たら、結構なお値段がしていた。
日本円にして五万円から二十万円ってところか。
白金貨くらいは出さないと、さすがに本数が足りなくなるだろう。
「サヤ、太っ腹ですね」
「今日くらいはね。
リュールは何か飲みたいお酒はないですか」
「ああ、俺は皆が飲む物と同じ酒でいい」
もうイケメンだな。
これは騎士団の連中が命懸けでついていくはずだ。
あのお兄ちゃんの王太子なら遠慮なくズバズバと高い酒を山盛り選んで、豪快に「騎士団には俺が飲むのと同じ酒を飲ませてやればいい」くらいは言いそう。
それもまたイケメンっぽい発言だけどね。
あの人って、半ば歩く無礼講みたいな人だし。
なんかやたらと広く作られた待合室もまた豪奢にして絢爛そのもの。
革張りソファは一体幾らすんのよといった感じの高級品で、明らかに高位魔物の革製の逸品だ。
どれだけ使ったってへたる事はなく、逆に使い込んだ事によって風格が増すみたいな。
壁に張られた木材も、なんというかホルデム公爵家のサロンに張られている物と同等だ。
ありえない。
テーブルも明らかに名のある職人による一点物で、凄いお金持ちになったんじゃなかったら、うっかりと傷つけたりしないように触りたくないような代物だ。
リュールはともかく、アメリはごく自然体にこの庶民には異質な空間に馴染んでいた。
あんた、一体どこのお嬢様なのよ。
何故、メイドなんかしているのか。
女の人が持ってきてくれたお茶には、まるで試供品のようにお酒の小瓶が五個くらいずつ並んでいた。
「お茶にお酒を入れるの⁉」
「まあ、そういう飲み方もありますが、ここは王都パルマ随一の高級店ですから、まあほんのサービスですね。
もちろん、買っていただくためのお試しの意味合いもあるのですが。
あなたは白金貨一枚分ポンっとお買いになられるのですから。
それに馬車に描かれた公爵家の紋章を見て対応されたのが、ここの支配人でしたので」
「な、なるほど~。
人を見ての対応っていう訳かあ」
「これからは、あなたの賜った聖女の紋章が、それと同等、あるいはそれ以上の待遇を約束するでしょう」
「ふむん。想像がつかないな」
やがて、支配人自ら二人ほど連れて持ってきてくれたお酒は六十本程度。
もうちょいあるかと思ったのだが。
「聖女様は本日の逸品をと仰られておられましたので、まずそのあたりを揃えたら十本で金貨三十枚分、その他で家の格に合わせてお選びしましたものが二十本で金貨三十五枚分。
それから量を求めて少しお値打ちな物を残りのお金で三十本といった感じでございますが、いかがなものでありましょうか」
ああ、もう聖女ってバレているのね。
こっちの懐具合も貴族から情報が流れていたりして。
「御免、明らかに量が足りないから、もう白金貨一枚分お願い。
うちの団長だけで、その半分くらい飲みそう。
質は落とさないで、なるべくいい物をチョイスしつつ、それなりの数を用意して。
でも質には十分に配慮してね。
数はさっきより多少減ってもいいわ。
よろしいかしら」
「畏まりました」
白金貨をもう一枚払い、とりあえずの分は収納しておいた。
それから今度は五十五本の上等そうなお酒を持ってきてくれ、まさにオーダー通りだった。
「リュール、これで足りそう?」
「足りなければ買いに走らせよう」
「ではこれで」
私はそれらをまた収納した。
支配人はそれを羨ましそうに見ていた。
「収納ですか、商人の夢ですなあ」
「冒険者さんも欲しがるでしょうね」
「あの連中は命懸けですからな。
まあその分は報われるわけですが。
彼らも、高位の冒険者ともなると、うちでも結構な上得意様でしてね」
「そうかもね」
何しろ、リュールの家と来た日には、三代に渡ってそんな感じだもんね。
入り口の上に埋め込まれている看板が高価なミスリルで出来ているし。
こ、これメッキかなあ。
思わず冷や汗が背中を伝います。
というか、あのような高価な看板を無造作に野晒しにしておくなんて、さすがに無用心じゃないの⁉
ありえない。
あれ一体いくらするのよ……金看板じゃなくって、馬鹿高いミスリルで出来た看板だよ?
「こんな店で買うお酒っていくらするわけ!?」
だが、アメリはくすっと笑って私の可愛いお腹を神官服の上からポンポンと叩いた。
「まあまあ、今日は懐も温かい事ですし。
これくらいしてあげてもいいんじゃないですか」
「まあ、それもごもっとも」
あいつらには、あれだけの目に遭わせてしまったからなあ。
まあいいか。
中へ入ると、どこの高級ブティックの店員だよと思うような、豪奢な感じのスーツを着た人がやってきて挨拶してくれた。
少なくとも私にだって、よれよれで安物のスーツとピシっとした高級スーツの区別くらいはつく。
これは最高級クラスのものだ。
応対の店員さんでこれ⁉
「本日はリカー・ロイヤルへようこそ。
どのようなご用命で?」
うん、名前からして高そうな雰囲気だ。
どのようなもへったくれもない。
「えー、王国騎士団でパーティをやりますので、良いお酒を見繕っていただきたいのですが。
あ、この白金貨一枚分お願いします。
本日しか手に入らないようなお酒がありましたら、それも優先して是非お願いします」
「畏まりました。
では、そこの待合室でお待ちください。
今、お茶をお持ちしますので」
彼は恭しく礼をすると、待機していただろう案内の女性を呼んだ。
私は前払いでプロに丸投げしたのだ。
さっきから、その辺のお酒の瓶についていた値札をチラっと見たら、結構なお値段がしていた。
日本円にして五万円から二十万円ってところか。
白金貨くらいは出さないと、さすがに本数が足りなくなるだろう。
「サヤ、太っ腹ですね」
「今日くらいはね。
リュールは何か飲みたいお酒はないですか」
「ああ、俺は皆が飲む物と同じ酒でいい」
もうイケメンだな。
これは騎士団の連中が命懸けでついていくはずだ。
あのお兄ちゃんの王太子なら遠慮なくズバズバと高い酒を山盛り選んで、豪快に「騎士団には俺が飲むのと同じ酒を飲ませてやればいい」くらいは言いそう。
それもまたイケメンっぽい発言だけどね。
あの人って、半ば歩く無礼講みたいな人だし。
なんかやたらと広く作られた待合室もまた豪奢にして絢爛そのもの。
革張りソファは一体幾らすんのよといった感じの高級品で、明らかに高位魔物の革製の逸品だ。
どれだけ使ったってへたる事はなく、逆に使い込んだ事によって風格が増すみたいな。
壁に張られた木材も、なんというかホルデム公爵家のサロンに張られている物と同等だ。
ありえない。
テーブルも明らかに名のある職人による一点物で、凄いお金持ちになったんじゃなかったら、うっかりと傷つけたりしないように触りたくないような代物だ。
リュールはともかく、アメリはごく自然体にこの庶民には異質な空間に馴染んでいた。
あんた、一体どこのお嬢様なのよ。
何故、メイドなんかしているのか。
女の人が持ってきてくれたお茶には、まるで試供品のようにお酒の小瓶が五個くらいずつ並んでいた。
「お茶にお酒を入れるの⁉」
「まあ、そういう飲み方もありますが、ここは王都パルマ随一の高級店ですから、まあほんのサービスですね。
もちろん、買っていただくためのお試しの意味合いもあるのですが。
あなたは白金貨一枚分ポンっとお買いになられるのですから。
それに馬車に描かれた公爵家の紋章を見て対応されたのが、ここの支配人でしたので」
「な、なるほど~。
人を見ての対応っていう訳かあ」
「これからは、あなたの賜った聖女の紋章が、それと同等、あるいはそれ以上の待遇を約束するでしょう」
「ふむん。想像がつかないな」
やがて、支配人自ら二人ほど連れて持ってきてくれたお酒は六十本程度。
もうちょいあるかと思ったのだが。
「聖女様は本日の逸品をと仰られておられましたので、まずそのあたりを揃えたら十本で金貨三十枚分、その他で家の格に合わせてお選びしましたものが二十本で金貨三十五枚分。
それから量を求めて少しお値打ちな物を残りのお金で三十本といった感じでございますが、いかがなものでありましょうか」
ああ、もう聖女ってバレているのね。
こっちの懐具合も貴族から情報が流れていたりして。
「御免、明らかに量が足りないから、もう白金貨一枚分お願い。
うちの団長だけで、その半分くらい飲みそう。
質は落とさないで、なるべくいい物をチョイスしつつ、それなりの数を用意して。
でも質には十分に配慮してね。
数はさっきより多少減ってもいいわ。
よろしいかしら」
「畏まりました」
白金貨をもう一枚払い、とりあえずの分は収納しておいた。
それから今度は五十五本の上等そうなお酒を持ってきてくれ、まさにオーダー通りだった。
「リュール、これで足りそう?」
「足りなければ買いに走らせよう」
「ではこれで」
私はそれらをまた収納した。
支配人はそれを羨ましそうに見ていた。
「収納ですか、商人の夢ですなあ」
「冒険者さんも欲しがるでしょうね」
「あの連中は命懸けですからな。
まあその分は報われるわけですが。
彼らも、高位の冒険者ともなると、うちでも結構な上得意様でしてね」
「そうかもね」
何しろ、リュールの家と来た日には、三代に渡ってそんな感じだもんね。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

シャルパンティエ公爵家の喫茶室
藍沢真啓/庚あき
恋愛
私──クロエ・シャルパンティエが作るお菓子はこの国にはこれまでなかった美味しいものらしい。
そう思うのも当然、だって私異世界転生したんだもん!(ドヤァ)
実はその過去のせいで、結婚願望というのがない。というか、むしろ結婚せずに美味しいスイーツを、信頼してるルーク君と一緒に作っていたい!
だけど、私はシャルパンティエ公爵令嬢。いつかは家の為に結婚をしなくてはいけないそうだ。
そんな時、周囲の声もあって、屋敷の敷地内に「シャルパンティエ公爵家の喫茶室」をオープンすることに。
さてさて、このままお店は継続になるのか、望まない結婚をするのかは、私とルーク君にかかっているのです!
この話は、恋愛嫌いの公爵令嬢と、訳り執事見習いの恋物語。
なお、他サイトでも掲載しています。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる