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第二章 世直し聖女
2-7 真打登場
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引き続き、私の玉コレクションの査定会は続いた。
私って、こんな事のために呼ばれたの?
どっちかというと、王様も「もののついでに聞いてみました」的なニュアンスだったと思うのだが、いつのまにかこれが本日の主題になってしまっているようだ。
貴族の人達も聖女を迎える儀式のため、王命で集められただけみたいな雰囲気だったので、むしろ久々に顔を合わせるような仲の良い貴族同士で行くランチの方に気は向いていたような気がする。
それが何か王侯貴族全員が著しく興味を引くような展示会的な空気が醸成されていった。
出来たら、お金持ちの貴族の好事家から何か商談の引き合いは来ないものだろうか。
そういう方々へ手持ち商品をご披露する機会もなかなかないしね。
そして宰相さんが代金を持ってきてくれた。
なんと見たことがないような貨幣だ。
鑑定、白金貨八百枚。
これは白銀色の小貨幣で、一枚で金貨百枚相当のようだ。
金貨八万枚相当かあ。
日本円にして、ざっと八十億円っていうところかなあ。
「い、いいんですか。
こんなにいただいてしまって」
「うむ。
これはもう既に引き取り手が殺到しておるものでな。
国家戦略物資に指定されておって、国でなければ引き取れん代物よ。
あと、まことに済まぬが取引のレートは規定で決まっておってな。
それはわしにもどうにもならん」
「あ、いえ。これで十分です」
なにせ、元はガルさんのゴミ・コレクション……。
こんなに高く売れたなんて信じられない。
超悪徳ぼったくり商売ですわ。
まあ国の方も既に買い手のついている高額商品を横流しするだけで儲かるのがわかっているから、ポンっと大金を持ってきてくれたんだろうけど。
「して、まだ玉は持っておるのかな」
「ねえ、王様。
お願いですから、もう少しヒントをください。
そうだ。色、色の指定を。
あと形は真ん丸でいいですか?
あと大きさはどうでしょう。
あまり大きな玉みたいな物は持っていませんよ」
「そうさな」
彼は少し考える風だったが、おもむろにこう答えた。
「赤、血のような真っ赤な球で素晴らしい光沢を持つ、掌に収まるほどの玉じゃ」
それを聞いた周囲の人も納得したという空気だった。
何かそう多くの人が思い当たるようなメジャーな物だったらしい。
うーん。
ちょっと自信が無くなってきたかな。
「これ……なんか、どうですかね」
物凄く自信の無さを表に現しながら、それを台上に置いてみた。
結構地味な感じなんだよね、これ。
そう値打ち物には見えない。
とはいえ、ご希望に沿うような外見の品はもうこれしかない。
あとは、また違った感じのガラクタしかないという。
「おおっ、それじゃ。
紛う方なき、魔獣エクセレスの魔核じゃ。
でかしたぞ、サヤ」
いや、私は特に何もしていませんがね。
そういやガルさんが、巣を巡っての縄張り争いでやっつけた魔獣の石だとかなんとか自慢そうに言っていたような。
魔獣の種族名なんて特に覚える気もないのでスルーしていましたが。
「それで当たりでしたか?
よかった。
もうそれ以外に該当するような物はなくて」
「ふむ。
しかし、これは簡単には値段を付けられないような品物よ。
サヤ、お前はこれにどのような価値を求める」
お、その話が来ましたね。
それはもう心に決めているのですよ。
さすがに、今青い鳥の捜索を対価に求めるのは得策ではないらしいから、これしかないという奴ですね。
「では対価として、この素晴らしい台をお願いいたします!」
「は⁉」
周囲の空気が固まった気配がした。
そして、本日私のエスコート係を務める隣のイケメンが呆れ返っている感触も。
そして、王様が仰った。
「一つ聞いてもよいかな」
「どうぞ」
「お前は何故、そのような物を対価に欲しいのじゃ?」
「それは私がそれを気に入ったからです。
自分の部屋に置きたいのです。
でもそれって王宮の備品のようですので、簡単には手に入らないだろうなと思って。
何かいけませんでしたか。
私、一目惚れって人生初体験なんですよ。
もはやこれは恋といっても過言ではありません。
王よ、是非その姫をわたくしめに!」
国王の謁見場に、一気に吹きすさぶ残念臭のストーム。
まるで、私のあの残念な風魔法であるかの如くに。
そして軽い咳払いと共に、私のナイトが自分の父へ、非常に言いにくそうに打ち明けた。
「その、国王陛下。
これがこのサヤという娘の平常運転なので、よろしければ聞き届けてあげてください。
まあ、さすがにあれの対価がそのような備品の台一つという訳にはいかないでしょうから、その褒美は今回の恩賞と一緒に後程渡すという事で如何でしょう」
王様も、さすがに自分が聖女に認定したばかりの私の奇行に二の句が継げなかったらしいが、首を縦に振ってくれた。
「そのようにいたそう。
おお、そうじゃ。
あれこれと予定外の事になったので忘れるところじゃった。
これが、この国における聖女の証、神聖聖女徽章じゃ。
これがあれば、この国ではどこにでも入れるし、あらゆる貴族もお前のために便宜を図らねばならない事になっておる」
彼は玉座より立ち上がり、進み出ると自ら私の首にかけてくれた。
それはミスリルらしき台座に、カメオのように埋め込まれた綺麗な宝玉があって、そこにエンブレムが刻まれた金属を嵌めたものだった。
鎖も美しく丈夫なミスリルが奢られていた。
「あ、ありがとうございます!」
それがあれば、少なくともこの国の中でなら、あの糞鳥の捜索に力を貸してもらえそうだ。
こんな異世界へ置き去りにして、もしかしたらこの世界のどこかで私の事を嗤っているかもしれない、あの詐欺鳥め。
もう絶対に許さないから、必ずお仕置きしてやる。
覚悟はいいかな、ブルゥバードー!
見つけたら羽根を毟って逆さ吊り。
腹裂いて、詰め物してローストチキン。
そして焼き鳥・バンバンジーに最後はガラスープでどうだ!
ああ、なんかいろいろ食べたくなってきちゃった。
だが、私が奴に向かって怪しげな笑顔で妄想を放っていた時、やたらと私の裾を引っ張る者がいた。
いわずと知れた公爵家のお坊ちゃんであった。
「サヤ、サヤっ。顔、顔っ!」
はっ、ちょっと私の黒い笑顔に国王陛下が引いてしまっていたようだ。
聖女徽章の授与を後悔しているかも。
なんだったら、今から悪魔聖女の方に称号を変更していただいても構いませんよ。
そっちの方が威力も高そうだし。
私って、こんな事のために呼ばれたの?
どっちかというと、王様も「もののついでに聞いてみました」的なニュアンスだったと思うのだが、いつのまにかこれが本日の主題になってしまっているようだ。
貴族の人達も聖女を迎える儀式のため、王命で集められただけみたいな雰囲気だったので、むしろ久々に顔を合わせるような仲の良い貴族同士で行くランチの方に気は向いていたような気がする。
それが何か王侯貴族全員が著しく興味を引くような展示会的な空気が醸成されていった。
出来たら、お金持ちの貴族の好事家から何か商談の引き合いは来ないものだろうか。
そういう方々へ手持ち商品をご披露する機会もなかなかないしね。
そして宰相さんが代金を持ってきてくれた。
なんと見たことがないような貨幣だ。
鑑定、白金貨八百枚。
これは白銀色の小貨幣で、一枚で金貨百枚相当のようだ。
金貨八万枚相当かあ。
日本円にして、ざっと八十億円っていうところかなあ。
「い、いいんですか。
こんなにいただいてしまって」
「うむ。
これはもう既に引き取り手が殺到しておるものでな。
国家戦略物資に指定されておって、国でなければ引き取れん代物よ。
あと、まことに済まぬが取引のレートは規定で決まっておってな。
それはわしにもどうにもならん」
「あ、いえ。これで十分です」
なにせ、元はガルさんのゴミ・コレクション……。
こんなに高く売れたなんて信じられない。
超悪徳ぼったくり商売ですわ。
まあ国の方も既に買い手のついている高額商品を横流しするだけで儲かるのがわかっているから、ポンっと大金を持ってきてくれたんだろうけど。
「して、まだ玉は持っておるのかな」
「ねえ、王様。
お願いですから、もう少しヒントをください。
そうだ。色、色の指定を。
あと形は真ん丸でいいですか?
あと大きさはどうでしょう。
あまり大きな玉みたいな物は持っていませんよ」
「そうさな」
彼は少し考える風だったが、おもむろにこう答えた。
「赤、血のような真っ赤な球で素晴らしい光沢を持つ、掌に収まるほどの玉じゃ」
それを聞いた周囲の人も納得したという空気だった。
何かそう多くの人が思い当たるようなメジャーな物だったらしい。
うーん。
ちょっと自信が無くなってきたかな。
「これ……なんか、どうですかね」
物凄く自信の無さを表に現しながら、それを台上に置いてみた。
結構地味な感じなんだよね、これ。
そう値打ち物には見えない。
とはいえ、ご希望に沿うような外見の品はもうこれしかない。
あとは、また違った感じのガラクタしかないという。
「おおっ、それじゃ。
紛う方なき、魔獣エクセレスの魔核じゃ。
でかしたぞ、サヤ」
いや、私は特に何もしていませんがね。
そういやガルさんが、巣を巡っての縄張り争いでやっつけた魔獣の石だとかなんとか自慢そうに言っていたような。
魔獣の種族名なんて特に覚える気もないのでスルーしていましたが。
「それで当たりでしたか?
よかった。
もうそれ以外に該当するような物はなくて」
「ふむ。
しかし、これは簡単には値段を付けられないような品物よ。
サヤ、お前はこれにどのような価値を求める」
お、その話が来ましたね。
それはもう心に決めているのですよ。
さすがに、今青い鳥の捜索を対価に求めるのは得策ではないらしいから、これしかないという奴ですね。
「では対価として、この素晴らしい台をお願いいたします!」
「は⁉」
周囲の空気が固まった気配がした。
そして、本日私のエスコート係を務める隣のイケメンが呆れ返っている感触も。
そして、王様が仰った。
「一つ聞いてもよいかな」
「どうぞ」
「お前は何故、そのような物を対価に欲しいのじゃ?」
「それは私がそれを気に入ったからです。
自分の部屋に置きたいのです。
でもそれって王宮の備品のようですので、簡単には手に入らないだろうなと思って。
何かいけませんでしたか。
私、一目惚れって人生初体験なんですよ。
もはやこれは恋といっても過言ではありません。
王よ、是非その姫をわたくしめに!」
国王の謁見場に、一気に吹きすさぶ残念臭のストーム。
まるで、私のあの残念な風魔法であるかの如くに。
そして軽い咳払いと共に、私のナイトが自分の父へ、非常に言いにくそうに打ち明けた。
「その、国王陛下。
これがこのサヤという娘の平常運転なので、よろしければ聞き届けてあげてください。
まあ、さすがにあれの対価がそのような備品の台一つという訳にはいかないでしょうから、その褒美は今回の恩賞と一緒に後程渡すという事で如何でしょう」
王様も、さすがに自分が聖女に認定したばかりの私の奇行に二の句が継げなかったらしいが、首を縦に振ってくれた。
「そのようにいたそう。
おお、そうじゃ。
あれこれと予定外の事になったので忘れるところじゃった。
これが、この国における聖女の証、神聖聖女徽章じゃ。
これがあれば、この国ではどこにでも入れるし、あらゆる貴族もお前のために便宜を図らねばならない事になっておる」
彼は玉座より立ち上がり、進み出ると自ら私の首にかけてくれた。
それはミスリルらしき台座に、カメオのように埋め込まれた綺麗な宝玉があって、そこにエンブレムが刻まれた金属を嵌めたものだった。
鎖も美しく丈夫なミスリルが奢られていた。
「あ、ありがとうございます!」
それがあれば、少なくともこの国の中でなら、あの糞鳥の捜索に力を貸してもらえそうだ。
こんな異世界へ置き去りにして、もしかしたらこの世界のどこかで私の事を嗤っているかもしれない、あの詐欺鳥め。
もう絶対に許さないから、必ずお仕置きしてやる。
覚悟はいいかな、ブルゥバードー!
見つけたら羽根を毟って逆さ吊り。
腹裂いて、詰め物してローストチキン。
そして焼き鳥・バンバンジーに最後はガラスープでどうだ!
ああ、なんかいろいろ食べたくなってきちゃった。
だが、私が奴に向かって怪しげな笑顔で妄想を放っていた時、やたらと私の裾を引っ張る者がいた。
いわずと知れた公爵家のお坊ちゃんであった。
「サヤ、サヤっ。顔、顔っ!」
はっ、ちょっと私の黒い笑顔に国王陛下が引いてしまっていたようだ。
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