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第二章 世直し聖女
2-5 謁見
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「王宮も、中で大立ち回りしただけなので、外から見るとそうダメージがあったようには見えませんねえ。
こうやって明るい中で見ると、この王宮ってなんか凄く頑丈そうに見えますし」
「ああ、だがもう突貫作業で修理にかかっているはずだ。
さすがに王宮内があれではな」
そして、馬車は門にて元王子様による顔パスで王宮ゾーンへと吸い込まれて行った。
ふう、イケメンになると王宮さえ顔パスなのか、などと阿呆な事を考えているうちに、白亜の王宮入口へ到着した。
白く塗られた金属製の線材で組まれた、あまり威圧感を感じさせない柵に囲まれた門から王宮までは広い芝生のような感じになっており、その真ん中を馬車道として広めの真っ白な石畳が敷かれていた。
なんか白の基調に拘っているようだ。
なかなか立派な見栄えだけど、すぐ汚れそうで嫌だな。
どうやら歩きで王宮へ行く人はいないようだ。
この間の討ち入りの時はここではなく、使用人なんかの人が使うような裏口から入っていったから。
そこから案内役の近衛兵が二名やってきてくれて、私達を先導してくれる。
内部もこの正面から通じる部分は白の基調で整えられている。
壁や柱には凝った造形や文様などが刻まれていたが、こういうのは地球でもよくある上品な在り様だ。
でも綺麗なので、ついつい歩きながら見惚れてしまった。
まるで美術館のようだ。
そして、どうやら王のいる謁見の間のような場所へ到着した。
昔の世界を描いたリアルな外国の映画だと、入り口に扉一つない広めのサロンのような場所にちんまりと玉座が置いてあったりする事も多いが、ああいうのってセキュリティ的にどうなのかと気になったりする。
ここはそうではなく立派な大扉があり、そこを守る兵士が二名いた。
「お待ちしておりました。
聖女様、副騎士団長様」
おお、私の方を先に呼んでくれるのか。
はっきりいって、ただのエセ聖女なのにすみませんね。
諸君、お仕事大変に御苦労様です。
そして、重々しく開けられた扉の中へ促され、そこで見た光景は。
「う! なんか偉そうな方々でいっぱいだな。
よかった、高校の制服なんかで来なくて!」
「ははは、父も今回はお前に相当無理を言ってしまったからな。
あと、こういう不穏な時だから、お前のような聖女的な能力持ちは大事にしたいのだろう」
そこには驚くほどの煌びやかな人々が、私達が歩くための通路の両側に犇めいていた。
アカデミー賞の授賞式か何かですか?
はっきり言って、それ並みの異様な空気が満ちていた。
いきなり、カメラマンのフラッシュが焚かれないだけ良心的か。
もう見慣れてしまった近衛兵の方々も大量にいらっしゃるし。
まあ、それはあのような騒ぎの後ならば当然といった感じではあるのだが。
うん、『うちの本官』を連れてこなくてよかったなあ。
あの子はビジュアルがちょっとね。
なんというか、はっきり言ってあの子も見た目は完全にクトルゥー系だし。
中身だけなら、彼はここにいたって何の違和感もない立派な人士というか、むしろ相応しいような逸材なのだが。
欲望全開の人間みたいに、裏切りとか虚栄心みたいな物とは無縁の存在だしなあ。
「さあ、行くぞ」
「ここにいる人って、全部味方じゃないですよね」
「そんなものは、いついかなる時も変わりはせん。
気にするな。ここは王宮なのだぞ」
「なるほど。それでは参りますか」
彼はエスコートのために、私に向かって左の肘を突き出した。
おおおおおおお、このような凄いシチュエーションに生きて出会えるとは、なんというかもう。
は、いかん。
涎は愚か、絶対に顔も緩まないようにしなくっちゃ。
聖女のアレな顔に、この何なのかよくわからない儀式に参加してくれた高貴な方々が「うっ」という感じに思わず一歩引くような事態だけは絶対に避けねば。
とにかく、イケメンエスコートに身を委ね、なんとか普通に歩く事に専念した。
リュールはそんな私の具合に合わせて歩いてくれているので、それはさほど難易度が高い事ではなかったのは幸いだ。
神官服も、回復魔法士が着る物は仕事着であり動きやすいデザインであるので、神殿にいる神官の着るお引き摺りさんのような物に比べれば、裾も短く全体的に動きやすく出来ている。
少なくとも、服の裾を踏んでしまうような事はない。
こいつは、いわゆる白衣の代わりのようなものだから。
いわゆる膝丈スカートですね。
雰囲気は地球の女性看護師さん(スカート看護婦バージョン)を参照の事。
ほどなく正面の王様がいるところまで行きつく事が出来た。
おお、結構威厳がありそうな煌びやかな格好をしておられるな。
なんというか、王権を示すというか象徴的な意味というか、さすがに王様が謁見の間で地味な格好をしているのじゃマズイのだろうなあ。
結構イケメンですね。
まあ王子達がイケメンなのですから当然といってもよいのですが、イケメンの年齢許容度に関しては、考察するのはまたの機会に譲りましょう。
どうやら今日はそれどころではないようなので。
「私と同じようにしてくれ」
「はい」
そして、彼は国王夫妻の前で片膝を着いた。
そして顔を伏せていた。
私もそれを横目で見ながら真似をする。
その国王夫妻の傍には『お兄ちゃん』もいて、何かニヤニヤしてこっちを見てる。
うん、今のところはかろうじて及第点じゃないかと思うのだけど。
お兄ちゃん、何かあったらフォローをよろしくね。
顔を伏せる前に、軽くそのようなアイコンタクトだけはしておいた。
「聖女サヤ、顔を上げなさい。
楽にしてよろしい。
リュールも此度はご苦労であった」
「はっ」
どうやら、王様に返事はしていいらしい。
「はい」
もう王様からも聖女呼びなんだ。
「この度は無理を言って済まなかった。
まず、それを詫びよう」
そしてリュールさんが、こちらを見る。
ああ、返事をしろっていう事ね。
「いえ、とんでもございません。
お蔭で私の友人達を誰も死なせずに済みましたので。
まさか、あのようなとんでもない事になるとは思いませんでしたが」
まあ、『強制的に』死なせずに済ました訳だけれども。
あれで結構みんなからは恨まれているんじゃないかと思って、私としても気にしてるんだよね。
あの今も忘れ難い、私の無謀に近い策がもたらした悲鳴の渦がリアルに脳内をエンドレス再生で駆け巡った。
「サヤ、そなたには王国から正式に聖女の称号を与える」
ほお、それはまた。
ああ、よかったなあ。
悪魔聖女の称号じゃあなくって。
こうやって明るい中で見ると、この王宮ってなんか凄く頑丈そうに見えますし」
「ああ、だがもう突貫作業で修理にかかっているはずだ。
さすがに王宮内があれではな」
そして、馬車は門にて元王子様による顔パスで王宮ゾーンへと吸い込まれて行った。
ふう、イケメンになると王宮さえ顔パスなのか、などと阿呆な事を考えているうちに、白亜の王宮入口へ到着した。
白く塗られた金属製の線材で組まれた、あまり威圧感を感じさせない柵に囲まれた門から王宮までは広い芝生のような感じになっており、その真ん中を馬車道として広めの真っ白な石畳が敷かれていた。
なんか白の基調に拘っているようだ。
なかなか立派な見栄えだけど、すぐ汚れそうで嫌だな。
どうやら歩きで王宮へ行く人はいないようだ。
この間の討ち入りの時はここではなく、使用人なんかの人が使うような裏口から入っていったから。
そこから案内役の近衛兵が二名やってきてくれて、私達を先導してくれる。
内部もこの正面から通じる部分は白の基調で整えられている。
壁や柱には凝った造形や文様などが刻まれていたが、こういうのは地球でもよくある上品な在り様だ。
でも綺麗なので、ついつい歩きながら見惚れてしまった。
まるで美術館のようだ。
そして、どうやら王のいる謁見の間のような場所へ到着した。
昔の世界を描いたリアルな外国の映画だと、入り口に扉一つない広めのサロンのような場所にちんまりと玉座が置いてあったりする事も多いが、ああいうのってセキュリティ的にどうなのかと気になったりする。
ここはそうではなく立派な大扉があり、そこを守る兵士が二名いた。
「お待ちしておりました。
聖女様、副騎士団長様」
おお、私の方を先に呼んでくれるのか。
はっきりいって、ただのエセ聖女なのにすみませんね。
諸君、お仕事大変に御苦労様です。
そして、重々しく開けられた扉の中へ促され、そこで見た光景は。
「う! なんか偉そうな方々でいっぱいだな。
よかった、高校の制服なんかで来なくて!」
「ははは、父も今回はお前に相当無理を言ってしまったからな。
あと、こういう不穏な時だから、お前のような聖女的な能力持ちは大事にしたいのだろう」
そこには驚くほどの煌びやかな人々が、私達が歩くための通路の両側に犇めいていた。
アカデミー賞の授賞式か何かですか?
はっきり言って、それ並みの異様な空気が満ちていた。
いきなり、カメラマンのフラッシュが焚かれないだけ良心的か。
もう見慣れてしまった近衛兵の方々も大量にいらっしゃるし。
まあ、それはあのような騒ぎの後ならば当然といった感じではあるのだが。
うん、『うちの本官』を連れてこなくてよかったなあ。
あの子はビジュアルがちょっとね。
なんというか、はっきり言ってあの子も見た目は完全にクトルゥー系だし。
中身だけなら、彼はここにいたって何の違和感もない立派な人士というか、むしろ相応しいような逸材なのだが。
欲望全開の人間みたいに、裏切りとか虚栄心みたいな物とは無縁の存在だしなあ。
「さあ、行くぞ」
「ここにいる人って、全部味方じゃないですよね」
「そんなものは、いついかなる時も変わりはせん。
気にするな。ここは王宮なのだぞ」
「なるほど。それでは参りますか」
彼はエスコートのために、私に向かって左の肘を突き出した。
おおおおおおお、このような凄いシチュエーションに生きて出会えるとは、なんというかもう。
は、いかん。
涎は愚か、絶対に顔も緩まないようにしなくっちゃ。
聖女のアレな顔に、この何なのかよくわからない儀式に参加してくれた高貴な方々が「うっ」という感じに思わず一歩引くような事態だけは絶対に避けねば。
とにかく、イケメンエスコートに身を委ね、なんとか普通に歩く事に専念した。
リュールはそんな私の具合に合わせて歩いてくれているので、それはさほど難易度が高い事ではなかったのは幸いだ。
神官服も、回復魔法士が着る物は仕事着であり動きやすいデザインであるので、神殿にいる神官の着るお引き摺りさんのような物に比べれば、裾も短く全体的に動きやすく出来ている。
少なくとも、服の裾を踏んでしまうような事はない。
こいつは、いわゆる白衣の代わりのようなものだから。
いわゆる膝丈スカートですね。
雰囲気は地球の女性看護師さん(スカート看護婦バージョン)を参照の事。
ほどなく正面の王様がいるところまで行きつく事が出来た。
おお、結構威厳がありそうな煌びやかな格好をしておられるな。
なんというか、王権を示すというか象徴的な意味というか、さすがに王様が謁見の間で地味な格好をしているのじゃマズイのだろうなあ。
結構イケメンですね。
まあ王子達がイケメンなのですから当然といってもよいのですが、イケメンの年齢許容度に関しては、考察するのはまたの機会に譲りましょう。
どうやら今日はそれどころではないようなので。
「私と同じようにしてくれ」
「はい」
そして、彼は国王夫妻の前で片膝を着いた。
そして顔を伏せていた。
私もそれを横目で見ながら真似をする。
その国王夫妻の傍には『お兄ちゃん』もいて、何かニヤニヤしてこっちを見てる。
うん、今のところはかろうじて及第点じゃないかと思うのだけど。
お兄ちゃん、何かあったらフォローをよろしくね。
顔を伏せる前に、軽くそのようなアイコンタクトだけはしておいた。
「聖女サヤ、顔を上げなさい。
楽にしてよろしい。
リュールも此度はご苦労であった」
「はっ」
どうやら、王様に返事はしていいらしい。
「はい」
もう王様からも聖女呼びなんだ。
「この度は無理を言って済まなかった。
まず、それを詫びよう」
そしてリュールさんが、こちらを見る。
ああ、返事をしろっていう事ね。
「いえ、とんでもございません。
お蔭で私の友人達を誰も死なせずに済みましたので。
まさか、あのようなとんでもない事になるとは思いませんでしたが」
まあ、『強制的に』死なせずに済ました訳だけれども。
あれで結構みんなからは恨まれているんじゃないかと思って、私としても気にしてるんだよね。
あの今も忘れ難い、私の無謀に近い策がもたらした悲鳴の渦がリアルに脳内をエンドレス再生で駆け巡った。
「サヤ、そなたには王国から正式に聖女の称号を与える」
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ああ、よかったなあ。
悪魔聖女の称号じゃあなくって。
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