異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-2 欲望の聖女

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 この公爵家のいいところの一つは、家の中が凄く広いという事だった。

 だから、それなりの図体を持っているチャックも普通に家の中を移動できる。

 まあ彼は、あの時の襲撃者の操っていた魔物の中では最小サイズなのだが。

 そんな彼も重量自体は結構あるので、家の中を糞重い地球の高級車二台分の重量が徘徊しているような物なのだが、あの公爵家の御屋敷は何故か平気で彼の荷重に耐える。

 僅かだろうがミシっとも言わないので誠に恐れ入る。
 絨毯類も特に傷んでいなそう。

 一体どういう建築基準で家を建てているのか、いつかこの家の御当主とお会いできた暁には聞いてみたい気がする。
 聞くだけヤボという物なのかもしれないけど。

 ドアなんかも大きめに作られた物が多く、なんとこの子は体をちょっと歪めて無理なくドアを通過できるのだ。
 猫ですか。

 なんていうか、竹輪を指で挟むと潰れて細くなる、あの感じが近い。

 この子、本当にヤバイ。
 室内掃討戦をやらせたら、どんな凶悪なテロリストが立て籠っていようが簡単に制圧できる。

 彼も身長に関しては2・5メートル以内に収まっているので、最近の日本の天井の高い家ならなんとか中に入れるが、あれだと果たして床がもつだろうか。

 そっと置いておくくらいならいけるかもだけど、動かしたら底が抜けるだろうなあ。

 マンションのエレベーターだって完全に重量オーバーだしなあ。

 この子を乗せられるエレベーターなんて空母の整備庫への機体搬入エレベーターとか、少し違うが機械式の回転式収納庫型パーキングビルか何かくらいしかないのでは。

 コンクリートのマンションといえども、中で重量級の自動車二台分の重量が動き回るようには出来ていないのだ。

 昔の大型プラズマテレビ、あるいは超大型液晶テレビなんかを置くと、それだけでもマンションの床材がへこむらしいから。

 さすがにこのお屋敷でも二階とかへは行かせない方が無難だろう。

 幸いにして、高さは四メートルに廊下の幅は同じく、あるいはもう少し幅があるほどで、一階の面積もかなり広い。

 よって、あのチャックといえども、かなりゆったりと動き回れるのだ。

 あの子は戦車というか、まるでクトルゥー神話の怪物のように強力な魔物なので、広大な庭にいたって本人は別に構わないようだし(むしろ、部屋の中が窮屈)。

 なんというか、一言で言うならこの屋敷はありえない代物なのだ。
 このお屋敷のスケールを再認識した。

 チャックの御飯はホルデム公爵家で出してくれる事になっている。
 なんと、チャックは雑食というか何でも食べる。

 まあ量は結構食べるのだが、廃材でも藁でも野菜屑でもなんでもござれらしい。
 金属なんかも好むようだ。

 これまでに結構魔法金属なんかも食べてきており、それを取り込んだ体なので、そりゃあ騎士団の剣も簡単には受け付けないわなあ。

 こういう手合いはまだこの世界にはたくさんいるらしくて、それがドラゴンなんかだと手に負えないらしい。

 主のくせに、魔物から学ぶ知識が多すぎる。

「ねえ、チュール」

『なあに?』

「ドラゴンさんって仲間にいてくれたら素敵だと思わない?」

『ドラゴンをティムしにいくのならサヤ一人で頑張って』

「ああっ、冷たいな」

『ドラゴン捕獲作戦ですか。
 本官からは、精鋭部隊により編成された大軍ないし高位冒険者による強力なレイドパーティを組む事を聖女サヤに提言いたします』

「うーん、さすがに厳しいかしら」

『この面子だけで捕獲するのは、さすがに無理じゃない?』

『ドラゴンは気分屋で怒りっぽい者も多いと聞きますので、捕獲には十分な事前の調査と綿密な計画の必要を再度聖女サヤに提言いたします』

「ああ、どこかに『話のわかる』ドラゴンさんって、いないものかしらね」

『たぶん、サヤならドラゴンと話は出来るかもだけど、きっと話は通じないと思うよ』

「ああ、ガルさんと同じようなものなんですね。
 とりあえず、ドラゴンに乗ってあちこちを旅するのは夢に見るだけに留めておきますか」

『その方がいいかなと、本官はやや弱気な気持ちで提言いたします。
【ドラゴンは死の使い】とは軍属のテイマーの間でもよく言われる戒めの格言なのであります』

『同じく!
 そしてチュール先輩はシュークリームに対する要望を提言いたします』

「それもいいわね。
 じゃあシュークリームでも作ろうか。
 今日はフルーツ入りに挑戦しちゃおうかな」

『やったあ!』

『魔法金属入りは?』

「あなたって全体的にオリハルコン成分が多めだから、ミスリルなんか食ったら却って体が弱くなったりしないかな。
 さすがにオリハルコンは手持ちがなあ」

『確かに、その可能性は高確率であるかもしれません。
 本官も、ただ言ってみたかっただけであります』

「いつか、あなたに食べさせるオリハルコンとかを探しに行きたいね」

『そいつは大概、魔素に溢れるダンジョンの下層あたりで見つかるものじゃない?
 あるいは深いダンジョンだと、もっと深い深層みたいなところとかかな』

「ああ……他の事でいっぱい儲けて、オリハルコンを買った方が早いのかもしれないね」

 そして、そんなこんなで皆で楽しく過ごしていたのですが、あの討ち入りから三日後くらいに、国王陛下から私にお呼び出しが来たのであった。
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